「限界集落」と「アート」の2つの事例。地域コミュニティに溶け込む移住者たち

東京ウォーカー(全国版)

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移住などで住む場所を変える時、「行く先はどんな土地柄だろう」「地元にはどんな人たちが住んでいるんだろう」といったことが頭をよぎる。見知らぬ土地でうまくやっていけるだろうか、という漠然とした気持ちは、誰もが感じたことがあるはずだ。

新しい土地での生活で、移住者にとって心強い味方になるのが「地域コミュニティ」という存在。移住者と地元住民の“橋渡し”を担う地域コミュニティについて、全国各地の事例や体験談を取り上げながら解説する。

そもそも地域コミュニティとは何だろうか。様々な解釈ができるが、身近なところでは、ご近所同士のお付き合いや町内会も地域コミュニティの一つで、ゴミ捨て場の管理や火の用心の夜回りなどが「地域コミュニティによる活動」。住民同士が繋がりを持って地域をよりよくするために活動する。これが地域コミュニティのわかりやすいあり方だ。

活動する、というと大げさに見えるが、ご近所同士であいさつをしたり世間話をしたり、子どもたちの通学路に危ないものが落ちていないか気にかけたり、そんな日常のちょっとしたこともまた、住民同士の繋がりの表われなのだ。

移住という場面に限ってみると、ほかの土地からやってきた人を地元住民が快く受け入れてあれこれと気にかけてくれる、という形が想像しやすい。地域コミュニティがうまく機能している土地であれば、移住者はその地域に溶け込みやすい、とも言えるだろう。

各地の地域コミュニティの実例を見てみよう。

宮崎県・渡川地区の「渡川ONE」結成当初の写真


宮崎県美郷町の渡川(どがわ)というエリアは、かつては高齢者の多いいわゆる“限界集落”だったが、今では住民の約30%が若者世代。その理由を「ここ数年Uターンによる移住者が増加しているから」と話すのは、渡川で林業を営む山師として暮らす今西猛さん。

今西さん自身もおよそ10年前に渡川にUターン移住。それ以来、地元に活力をもたらそうと奮闘を続けており、移住者を受け入れる地域コミュニティにも積極的に関わっている。

「移住には行政が関わる部分も多いと思います。例えば家探しや仕事探しなどの場面で行政が窓口になっていることも多い。ですが僕は、移住者のことを行政に任せてしまうのではなく、移住者が溶け込みやすい環境作りを地域住民で率先して取り組もうと心がけています」

渡川地区の移住者の多くはUターンだが、2016年の年末には長野県から子育て世代のファミリーが移住してきた。当日は50名ほどの地元住民たちがファミリーを温かく出迎えたという。50名というと少なく見えるかもしれないが、渡川地区の人口はおよそ300人強。地区全体の1/6の人々がたった1組の家族のために集まったのだ。

【写真を見る】どがわ未来集会ー地域住民のみんなで渡川地区のことを考える地域会議


「地域コミュニティの規模や運営体制としてはまだまだこれからです」と今西さん。足掛かりの一つとして、若者世代による「渡川ONE(どがわん)」という地域活性グループを通して、移住者や地元住民の情報共有をスタートさせている。また、若者世代だけでなく「60歳を過ぎたおばちゃんたちが食品加工のグループを立ち上げたり、住民同士の交流も活発になっている」という。そうした活気をもたらしている大きな要因が、移住者という新風であることは間違いないだろう。

林業を手掛けている今西さんは「林業が移住の受け皿になるのではないか」という可能性も感じている。

「海がない都道府県はあっても、山は日本全国にある。林業という業種は今は仕事の量も潤沢で、その割りに働き手が少ないのが現状です。いきなりフルタイムで林業というのは難しいとしても、今までの自分のキャリアを活かしてほかの仕事をしながら、“半農”のような“半林”という働き方もできるかもしれない。そういう働き方の提案も含めて、地域コミュニティが移住者の人たちを支えていけたらと思っています」

瀬戸内国際芸術祭の盛り上がりの様子Photo:Shintaro Miyawaki


もう一つ、瀬戸内海に浮かぶ香川県の小豆島の事例を紹介する。小豆島は温暖な気候と島内に数多くある絶景で知られるが、最近では「瀬戸内国際芸術祭」の舞台の一つにもなっている。瀬戸内国際芸術祭とは、瀬戸内海の島々や港を舞台にした現代アートの国際イベントで、3年に一度開催されている。

アーティストの康夏奈さんは、2012年に小豆島に移住した。きっかけは、行政などの支援を受けながら一定期間その土地に住みながら創作活動を行なう「アーティスト・イン・レジデンス」に応募したこと。「当初決まっていた期間は3か月。それを6か月に延ばしてもらって、それでも帰る日が近づくにつれて帰りたくなくなって、結局は移住することにしました」と康さんは笑いながら話す。康さんの場合は創作活動がきっかけだったが、瀬戸内国際芸術祭が開催されるようになってから、芸術祭で訪れた観光客が移住を決めるケースも増えているという。

移住者である康さんから見て、小豆島の地域コミュニティはどんなふうに映っているのだろうか。

「私の場合は、創作のためにやってきた人という珍しさもあったおかげで、アーティスト・イン・レジデンスの滞在期間だった6か月でいっきに地元住民のみなさんとお知り合いになれた。でも私のような特殊なケースじゃなくて普通に移住してきた場合でも、地元の人たちと移住者、あるいは移住者同士のやりとりは活発だなと感じます」

康夏奈さんの作品。インスタレーションビュー「花寿波島の秘密」康夏奈(吉田夏奈) 「花寿波島の秘密」 photo:Kimito Takahashi


康夏奈の作品の中から見上げた様子康夏奈(吉田夏奈) 「花寿波島の秘密」


小豆島の地域コミュニティの場合、「ベタベタし過ぎず、ある意味サバサバしている」のが特徴だと康さん。地元住民も移住者の先輩たちもみんな、新しい移住者のことを気にかけてくれるし、いろいろと面倒を見てくれるが、押しつけがましさのようなものを感じないという。

「おそらく、みんな自立しているからだと思います。やりたいことや目的をちゃんと持って日々暮らしている人たちだから、他人のことも尊重してくれる」

康さんは小豆島には地域コミュニティがしっかり根付いていると感じている。移住者同士でもSNSで連絡を取り合うなど、交流は活発だ。

「島という環境だからこそだと思うんですが、“島民はみんな仲間”という意識が強い。もちろん私もそう思っています」

移住者にとって、地域コミュニティは新しい土地に馴染むための心強い味方となる。見知らぬ場所での不安や戸惑いといった精神的な面だけでなく、日常生活に不可欠な衣食住にまつわる情報などの実質的な面でも、地域コミュニティの存在が大きな支えになる場面も多いはずだ。そして何よりも重要なポイントを前出の今西さんはこう教えてくれた。

「地域コミュニティや地元住民たちが移住者の近くにいることで、移住者はその土地の文化を感じられますよね。地元で採れる農作物、伝統料理やお祭り、そういった地元の文化を移住者の人たちに感じてもらえる。そういう体験を積み重ねていって“移住者”がいつしか“地元の人”になり、その土地が自分のルーツになっていくんだと思うんです」

【東京ウォーカー】

石福文博

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