緑茶業界のメガブランド「伊右衛門」が大リニューアルをする理由

東京ウォーカー(全国版)

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年間約10億本を販売する「伊右衛門」が、変革の舵を大きく切る。

飲料業界では年間1000種類もの新商品が発売されるが、翌年に生き残っているのは3つだけというほどの厳しい生存競争が繰り広げられる。“千三つ(せんみつ)”という格言が生まれるような熾烈な争いのなかで、今年で発売14年目を迎えて盤石の地位を築いたかに見える“メガブランド”が、大幅にリニューアルする。

「京都福寿園227年目の革新。ひとつ上の、伊右衛門。」


伊右衛門は、寛政2年(1790年)から続く京都の老舗茶舗「福寿園」の創業者の名を冠し、2004年3月に新発売。福寿園の茶匠が厳選した国産茶葉を100%使用した旨み豊かな味わいの緑茶で、初年度に3420万ケースを販売して以来、2016年には5540万ケースを販売するなど実績を伸ばしてきた。

これまでも抹茶を加えたり、四季によって味わいを変えたりとリニューアルを行ってきたが、味わいやパッケージを全面的に変更した新たな伊右衛門が3月7日(火)に登場する。堅調な業績を誇りながら大幅リニューアルを断行した理由について、サントリー食品インターナショナル株式会社ブランド開発第一事業部課長の五十嵐享子氏は、「お客さまが本当に『おいしい』と感じるのはどういうお茶なのか。もう1度、原点に立ち返って、中味を探しに行ったのがはじまり」と明かす。

「本当のおいしさ」とは


ブランド開発第一事業部課長の五十嵐享子氏


数年前までのペットボトルの緑茶市場は横ばいの成長率で、若者の緑茶離れを考えれば将来的な減少も予想されていた。ところが、急須で入れるリーフ茶(葉茶)の代替商品として購入する主に50代以上の消費者が増加し、現在は前年比107%と伸長傾向を見せる。

伊右衛門も近年は若者の緑茶離れに向けた取り組みを行ってきたが、予想に反して市場が伸長してきたことで、「2004年から取り組んできた味わいが、今のお客さまに受け入れられているのか」(五十嵐氏)という思いが生まれていた。

従来目指してきた味わいは、リーフ茶における「抹茶入り煎茶」で、リーフ茶として販売量が最も多く、競合他社も含めた多くの緑茶飲料が追求する味わいだ。消費者が普段から親しんでいる味わいを再現することは、手軽なペットボトル緑茶の使命と言えるかもしれない。

ところが、「本当に求められている味わい」を探し、日本全国から約200種類のリーフ茶を集めて2000人以上に試飲調査を行った結果、消費者が「おいしい」と選んだのは「抹茶入り煎茶」ではなく、「深蒸しタイプの一番茶」の味わいだった。

「深蒸しタイプの一番茶」は通常よりも約2倍以上の長い時間をかけて茶葉を蒸してつくるため、茶葉の成分や香りが溶出しやすく、味わいや緑の水色(すいしょく)が濃く出る。一方で100gが1000円以上という高価な茶葉でもある。

普段は飲めないけれど、記憶に残るおいしいお茶。「深蒸しタイプの一番茶」の味わいをペットボトル緑茶で再現するとなれば原価の大幅増など様々な困難があり、「言うは易く行うは難し」という状態に陥るのではないか――。

モノづくりのイノベーションへの挑戦


ブランド誕生に尽力し、現在は執行役員を務める沖中直人氏


「お客さまにとっておいしいものがありながら、『原価が高いからやりません』ということは半分理屈として合っているかもしれない。ただ、もう半分にあるのは『それならメーカーは何のためにいるんだ』ということ。コストを上げないでいかに味わいを再現できるかに、モノづくりのイノベーションはある」

そういって、サントリー食品インタナショナルで執行役員を務める沖中直人氏は、こちらの投げかけを否定した。

「深蒸しタイプの一番茶」が新たな香味目標に定まると、「その味わいをどのようにペットボトル緑茶で再現するか」という挑戦が昨春からはじまった。「リーフ茶とペット緑茶とでは、飲む温度や製造工程も異なるため、そのまま深蒸しタイプの一番茶を使えばいいという単純なものではない」(五十嵐氏)。試行錯誤の末に、一番茶の量を2倍にしベースの茶葉の品質を上げることと、それまでのペット緑茶の開発で培った独自技術の掛け合わせで目標香味に近づけることに成功する。

一年で最初に取れ、旨みが多く含まれている茶葉である一番茶の量を増やすことで、鮮やかな深緑の水色(すいしょく)や鼻腔から抜ける爽やかな香り、旨み高い上質な味わいを実現した。さらに、茶葉の粒子サイズをコントロールする、発売当時からの技術である“微粉砕茶葉制御技術”も活用。従来の抹茶微粒子に加え、新たに煎茶粒子を追加して口当たりよいコクと余韻を引き出したことで、「福寿園さんからも『おいしい』と評価をいただけた」(五十嵐氏)という味わいが完成した。

実は、味わいとともに今回のリニューアルで大幅に変更されたボトルデザインにも、「深蒸しタイプの一番茶」を連想させる仕掛けが組み込まれている。「お客様がイメージするおいしいお茶のイメージは、白磁の湯呑みにきれいな緑色のグラデーションの水色。それを直観的に感じてもらえるように」と五十嵐氏が言う通り、デザインカラーも中心に向かって緑が深くなっていくグラデーションとなっており、ボトル全体として湯呑みに入った煎茶の再現を狙っている。

竹のモチーフを継承した点については、「発売時からこれまでも節の形などでリアルな竹を連想させていましたが、同じような形が増えてきたことで、ペットボトルの代表形状のようになってしまい、もはや竹だと思われることが少なくなっていた」と従来ボトルの問題点を明かす。新デザインは日本的な様式美も意識した装飾を極力削ぎ落としたシンプルさで、実は遊び心も散りばめられている。

「見て頂いたらわかると思いますが表面がシンプルなので、ややもすると繊細な感じに見えますが、裏面ではチャーミングなことをやっています」と笑いながら、五十嵐氏は竹で表現されたデザインバーコードを指さす。

人の手が透けて見えるかどうか


デザインバーコードなど、遊び心も随所に散りばめられている


「キャラ付けになりますね。前を向くと凛としていますが、裏面では商品説明の部分にデザイナーの手描きイラストを入れてみたりと、親しみやすくしてあります。伊右衛門というブランドが他ブランドと圧倒的に違うのは、人の名前がブランド名になっているということ。「京都福寿園のお茶」だからこそ創業者の名前が活きているのであって、そのために商品を作るときやコミュニケーションの先には、人の手が透けて見えるかどうかを大事にしています。急須のお茶が必ず誰かが淹れているように、そこに人のいる感じがブランドの良さ」(五十嵐氏)

緑茶市場で確固たる存在感を放っているブランドの大幅リニューアルは、傍から見ると驚きを持って受け止められることが多いかもしれない。サントリーの創業者である鳥井信治郎は未知の分野に挑戦しようとして周囲から反対を受けるたび、「やってみなはれ やらなわからしまへんで」と語ることで諦めることはなかったと言われるが、今回のリニューアルに至るまでにも、「商品の骨格を大きく変えるまで踏み込むかどうか、という決断はありました」と五十嵐氏は明かす。

「伝統がある基幹ブランドで、創業から携わってきた人たちがいる。どこまでいじっていいのか」という思いもあるなか、「京都福寿園227年目の革新。ひとつ上の、伊右衛門。」をキーメッセージにした大幅リニューアルに決断を下すには、ある後押しがあったという。

「伊右衛門がこの先の10年、20年と支持され続けるためには、『全部変えてもいいからチャレンジしてみろ』と。『全部取っ払ってゼロから考えてみろ』という話がありました」(五十嵐氏)

2004年の発売当時に開発リーダーとして伊右衛門誕生に尽力し、後押しの言葉をかけた沖中氏は、「現在はグローバル化され、『日本のアイデンティティは何か』と問われている時代に、外国人から日本の文化を聞かれて何と答えられるか。お茶は日本文化の中核をなして、茶道の世界には佗(わび)、寂(さび)といった日本人の精神性というものが凝縮されている。日本のオリジナリティは、やはりそこにあるんです」と語る。

「ただ、今は急須でお茶を淹れることが減り、ペットボトルで飲むように形態が変わってきている。現実として老舗のお茶屋は減っていき、茶農家も離農してしまっている。しかし、時代や形態が変われども、おいしい日本茶を提供し続けること、更に日本人だけでなく、海外から見た日本茶という視点を入れて、もう一度日本人に日本茶の素晴らしさをリマインドしようというアイデアは素晴らしいじゃないですか。じゃあ、やろう。ただ、それだけのことです」と続けた。

そもそも「そんな気持ちは持っていないです。全然思っていない」と、立ち上げた商品を“我が子”のような感覚で見ていないという沖中氏。フラットな感覚で新しい完成品を飲んだときの感想も「おいしい。ただそれだけ」といい、「今までよりおいしい。明らかにおいしい。水色の色もよく、デザインも竹というモチーフを活かしながら、進化させている」と絶賛している。

進化の過程でどのような未来を描くのか


【写真を見る】2004年の初代から最新まで!「伊右衛門」の歴代デザイン


「日本人だけでなく、海外から見た日本茶」という視点では、上質な味わいを追求するとともに、一新されたCMにエッセンスが表れている。従来は本木雅弘の演じる伊右衛門と宮沢りえ演じるその妻による、時代劇風の物語。新CMでは、ナレーションを本木雅弘が担当して「お茶は人と人を繋ぐもの」というビジョンを中心に置くという継続性はあるものの、227年に渡って続く福寿園のお茶づくりの歴史を辿りながら、お茶の価値を現代人に伝えていく壮大なストーリーに仕上がっている。

海外での映像制作経験が豊富なスタッフを制作チームに招聘し、「自分たち日本人としてのルーツを辿りたい」という思いをもとに撮影を敢行、映画を思わせる圧巻の映像美を創り出した。

味わいやボトルデザインにとどまらず、プロモーションにも大幅な変更を加えた伊右衛門は、「百年ブランド」を目指して生まれた。「世の中の外部環境は刻々と変わっていく。ただ、伊右衛門のブランドが進化していく過程で、どのような未来を描いていけば良いのかとは常に考えている」とリニューアルを主導した五十嵐氏は語る。

「約1000年前に日本に入ってきたお茶は、急須のお茶からペットボトルへと飲み方は変わってきたけれど、お茶を飲むという行為自体は変わっていない。そう考えれば、100年続いたっておかしくない」とはブランドを立ち上げた沖中氏。「人も企業もブランドも、環境が変わったときに適合して進化していけなければ絶滅するもの。それは当然のことで、変わらない方が怖い。それは、もっといいものがあれば躊躇なく変えることでもある」と思いを続けた。

本能で感じる理想の緑茶


発売14年目の大幅リニューアルで、さらなる進化を遂げる


リニューアル発売前に行った市場調査では、過去最高レベルの評価を得るとともに、直感的に「おいしい」と反応する消費者が多かったという。

かつて日本に溢れていた、急須で淹れたおいしいお茶を飲むという場面は時代の流れとともになくなりつつある。ただ、日本人が本能的に感じる理想の緑茶は脳裏に刻まれているのかもしれない。

これからも受け継がれていくべき、白磁の湯呑みの中心から深緑の水色が広がるイメージが、一度口に含めば呼び覚まされるはず。【ウォーカープラス編集部/コタニ】

コタニ

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