金沢で32歳男性が仏像づくりにすべてを捧げるワケ

2017年3月7日 22:00更新

東京ウォーカー(全国版) セキノユリカ

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仏師・坂上俊陽さん

石川県金沢市で、オーダーメイドの仏像制作に取り組む弱冠32歳の職人がいる。仏像の制作を生業とする、仏師の坂上俊陽さん。日本全国から注文を受け、年間20~25体の仏像を彫る。これまで、何人もの依頼主の祈りの思いを形にしてきた。

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若さゆえの伝え方 YouTubeや海外で発信

坂上さんは古くから継承されてきた仏師の伝統技術を、ネット媒体で発信する事に力を入れている。依頼主の仏像ができるまでの様子を動画にし、YouTubeで公開する取り組みもしている。工房のある金沢は、新しいものをどんどん受け入れ、独自の文化を築こうとする土地柄。ネットを毛嫌いしたり、「古いものを安く見せるな」といった批判はなく、いろいろな人が応援してくれるので、落ち着いて仕事ができる環境だと感じているという。

仏像を迎える工程を動画で公開するのは、多くの人に手仕事の良さを知ってもらいたいからだ。手仕事はどのような思いでどのような手間がかけられているかわかりにくい。そこで、仏像ができるまでにたくさんの思いや行程があることを、動画を見て知ってもらうおうと考えたそう。

仏像や仏師の仕事を知ってほしいという思いは、日本にとどまらない。フランス・パリやオーストラリア・シドニーなど、海外で展示会を行い、日本で仏像がどのように拝まれているか伝えてきた。ヨーロッパでは日本の文化が理解されていない部分が多く、仏像は美術品やインテリアとして見られる中、祈りの対象である事を説明すると喜ばれ、やりがいを感じているという。

世界に一つの仏像

仏師は、依頼主の思いを汲み取り、仏像を"木から迎える"仕事。だから、依頼主と何度も相談して作業を進めていく。仏像の種類から、立っているか座っているか、後光や台座のタイプなどまで細かく対応。依頼主から仏様の表情や大きさといったイメージを聞いて、納得のいくまで図案を描き、オリジナルの仏像を彫り出していく。"世界に一つの仏像"を彫る仕事に終わりはない。常に勉強し、技術を磨いている。

師匠との出会い

千葉県出身。中学・高校時代は心躍るものが見つからず、将来ワクワクする感じも湧かなかった。高校卒業後、自分自身にとって生涯かけて取り組みたい仕事とは何だろうと考え、ものづくりに辿り着いた。もともと、何かを作ったり絵を描いたりするのは好き。だが、それで食べていけるかという不安があったそう。

ものづくりの仕事を求めて全国の伝統工芸を探す中、彫刻の町・富山県の井波(いなみ)を知った。井波はしっかりした徒弟制度があり、全国から弟子を受け入れていた。欄間を彫る人や獅子頭を彫る人など、さまざまな彫刻家が集まっており、師匠を探してまわった。そこで尊敬できる仏師と出会い、仕事を教わる中で仏像を彫る仕事の素晴らしさに惹かれていった。自分が一生懸命手がけた仏像が、多くの人の祈りの対象になる。「生涯をかけてやり抜く仕事だと思った」と坂上さんは語る。

師匠の家に5年間住み込みで修行。朝から晩まで仕事を手伝いながら、刃物の研ぎ方から彫刻の仕方まで、たくさんの事を学んだ。あまり飲み込みが速くなかったので、師匠に苦労をかけたのではないかと、今になって思い起こすという。根気よく教えてもらったことに感謝している。

金沢という環境

独立後、工房を構えたのは金沢。「緑が豊かで新しいものと古いものが融合する金沢は、自分に合っている」と感じているそう。

オーダーメイドの仏像制作だけでなく、各地の寺院の仏像修理も請け負う。一番印象的だったのは、地元・金沢の全性寺(ぜんしょうじ)にある愛染明王像を直した時のこと。江戸時代後期の像で、経年劣化がひどく大変な状態だった。だが、複数の木材を組み合わせて作る寄木造の像で、見えないところにもしっかりと仕事がしてあり、次の世代が修理しやすいような造りになっていた。分解していく中で、体内から当時の事を書いた巻物が出てきた事もあり、先人の仏師の技術や思いが伝わってきた。「自分も次の世代のために何か伝えられるような仏像を残したい」という思いが込みあげた。

寺院が多くある金沢だが、仏師を職業とする人はほとんどいない。坂上さんが工房を構えるまで、金沢で仏像を修理できる人はいなかった。たくさんの口コミで多くの寺の仏像を修理でき、地域貢献につながっている。

手仕事は思う気持ちが大事だと伝えたい

「依頼主は、大切な人を亡くしたり、大切な人のためにお願いしにくる。手仕事は、そういう大切なことを思う気持ちが大事だと伝えたい。仏師という仕事は機械化が進んで難しい分野だが、一生をかけても足りないほどやりがいがある。また、多くの時を経て追求してきた技術や思いがあるということを、次の世代に知ってもらいたい」【ウォーカープラス編集部/セキノユリカ】

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