“巨大蟹”と生身で戦う「蟹工船」大胆リメイク漫画が話題!「新約カニコウセン」誕生裏話

東京ウォーカー(全国版)

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昭和4年に出版され、若者を中心としたワーキング・プアの増加を背景に2008年にブームを起こした小林多喜二の小説「蟹工船」。プロレタリア文学の代表作といわれるこの作品を、巨大化した水棲生物が “空流”を泳ぐSF世界を舞台にリメイクしたのが「ヤングアニマル」(白泉社)で連載中の漫画「新約カニコウセン」だ。

「新約カニコウセン」1巻


底辺労働者たちが“巨大蟹”漁に身を投じる“蟹工船”で、極限状態の劣悪な人間関係を嫌悪し、悪逆監督・九条の暴政に命懸けで立ち向かっていく孤児院出身の流伽の姿を描き、最新1巻が10月29日に発売されたばかり。

1話目から世界観に引き込まれるストーリーや、生身で巨大蟹と戦うアクション要素も魅力の本作が生まれた経緯や制作の裏側について、原作者・原田重光さんと作画・真じろうさんに教えてもらった。


一番のハードルは「世界観やアクション、クリーチャーなどを描ける作家さんに頼めるか」

――まずは本作「新約カニコウセン」の連載が決定するまでの経緯を教えてください。

【原田重光】「ヤングアニマル」での新連載用に担当編集者と用意していた企画のひとつが採用されました。編集長にはエロを描けと言われてましたが、なぜか通りました(笑)。

――「蟹工船」を元にした企画というのは、どのようにして生まれたのですか?

【原田重光】「蟹工船」を元にしたのは、担当編集者に薦められたのがきっかけです。当時、「はたらく細胞」のスピンオフ作品である「はたらく細胞BLACK」という劣悪な環境での細胞たちの労働を描いた作品の原作をやっていたことと、担当編集者のブラック企業を渡り歩いた経験から、題材としておもしろそうだなと思いました。

小林多喜二の「蟹工船」をSF世界を舞台にリメイクした「新約カニコウセン」


――真じろうさんは、どういった経緯で本作の作画を担当されることになったのでしょうか?また、「蟹工船」を元にした作品ということに、どんなことを思われましたか?

【真じろう】「蟹工船」は有名文学作品であると同時に、作者の小林多喜二とともに強い政治性を帯びた作品でもあります。作画担当として著者に名を連ねれば、今後、色眼鏡で見られることもあるかもしれないと少々懸念しました。

ただ、担当さんにこの連載企画のお話をいただいた当時、他誌向けにSF漫画の企画を作っていたところだったんです。理詰めでがっつりと世界観設定を作り込んでいた作品でしたが、なかなかうまくいかず、そんな時にシュールでなんでもアリな世界観のこの企画をいただいて、頭を柔らかくする意味でも受けてみるのも良いかと思いました。大真面目にツッコミ不在のシュールギャグをやる漫画を描いてみたいとかなり前から考えていましたし、これも縁だと思って受けることにしました。

【原田重光】まず今回の企画を立ち上げた時に、この世界観やアクション、クリーチャーなどを描ける作家さんにお願いできるのか、ということが一番の問題になると思っていましたので、真じろうさんに引き受けていただけたのは本当にラッキーでした。

関節を折って蟹を食べることから“巨大蟹”と生身で戦うアクションに!

巨大蟹の捕獲を迫力あるアクションで描く!

――ストーリーやキャラクター、目的がきれいにわかりやすくまとまっていて、1話目で作品の世界に引き込まれましたが、連載スタート前後、どんなことで一番苦労されましたか?

【原田重光】世界観のアレンジやストーリーの流れ自体は、初めからある程度できていました。苦労というか手間がかかったのは主人公・流伽のモチベーションに関するところですね。1話目で主人公のモチベーションをはっきりさせるということは個人的にすごく重要だと思っているので、周りの意見を聞きながら設定をいじったり演出を強めたり、何度か手直ししました。

主人公の流伽

――キャラクター設定や描写については、どのようなやりとりをされて固まっていくのでしょうか?

【原田重光】自分はネームの形を原作としているので、キャラクターデザインなどはそれを読んでもらって、年齢など簡単な補足を加えたうえで調整してもらっています。

【真じろう】原田先生が作ったネーム原作をいただき、気になる点や、描く際に気を付ける点を担当さんとの打ち合わせで確認していますね。それから私が演出や構図などを見直してネームをリライトし、原田先生に確認してもらって最終調整をしています。キャラの表情や、元ネームから改変してほしくない部分などがあれば修正し、大体の場合は二稿目でOKとなっています。今のところ、大きな修正をお願いされたことはありませんよね。

【原田重光】はい。特に描写や演出に関しては真じろうさんの絵で魅せる力が素晴らしく、こちらとしても、毎回楽しみにしています。

【真じろう】原田先生はレスポンスが驚くほど早く、非常にスムーズに進行できて助かっています。キャラ表現という側面に限りませんが、作品全体としてシュールギャグ要素を孕んでいるので、原田先生の元ネームから表現をさらに誇張したり、私のアイデアでギャグ要素を追加したりもしています。ありがたいことに、原田先生は懐深く受け入れてくださいます。

【原田重光】真じろうさんはSFやファンタジーに対する造形の深さだけでなく、大学では生物学を専攻されていたそうで、特徴をとらえた巨大生物のアレンジも素晴らしく、生物学的なアイデアを教えてもらうこともあります。ほかにも、ネタになりそうな設定資料的なものを出していただくこともあり、助かることばかりです。かわいい女の子を描く機会がほとんどないことは、本当に申し訳ないですが(笑)。

流伽たち底辺労働者を管理している九条監督


――過酷な環境で蟹漁や蟹缶作りをするという「蟹工船」の設定を生かしつつ、“巨大蟹”と生身で戦うという発想がおもしろいと思いました。

【原田重光】蟹を関節技で仕留めることに関しては、割と演繹的(えんえきてき)に決まりました。「刃物や銃も効かなそうだよな。蟹食べるとき関節折るじゃん、だから関節技で戦えばいいんじゃね?」みたいな感じですね。見た目にもインパクトがあって良さそうだなと。

名もなき人々こそが「蟹工船」の主役

――一方で、監督が女性というところは元の作品とは違うポイントかと思います。監督の九条監督を女性キャラクターにした意図について教えてください。

【原田重光】単純に見栄え的に女性キャラが一人は欲しいという理由ですね。せっかくなので、真じろうさんにかわいい女性キャラを描いてもらいたいですし。あとは屈強で強面な暴君じゃなく、か弱くてハンデまで背負ってるのに何も恐れないというところに、純粋な悪意みたいなものを表現できればなと思いました。個人的には気に入ってるキャラです。意図がうまくいってるかは…まあ、こういうのが刺さる人も少しはいるんじゃないでしょうか(笑)。

【真じろう】私は男性キャラより女性キャラを描く方が好きなので、九条監督が一番描いていて楽しい、と言いたいところですが、クレイジーなキャラなのでなかなか難しいです。

筋骨隆々な班長の大門


――では、そのほかのキャラクターで描いていて楽しい、または描くのに苦労しているキャラクターはいますか?

【真じろう】筋肉を描くのが好きなので、大門も好きです。描くのに苦労しているキャラクターは…モブという名もなき人々ですね。とにかくモブが多いくてしんどいです(笑)。同じ顔にはできないので、どのモブも適当に描くわけにはいきません。何より、この名もなき人々こそ、「蟹工船」の主役ですので。

――新約として流伽の視点で描かれるおもしろさもありながら、「蟹工船」のエッセンスも大切にされているんですね。貴重なお話をありがとうございました。 次回は、「蟹工船」というテーマを扱うことへの思いや今後の見どころについてお聞きしたいと思います。

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