【第22回】大正時代のレシピが残る、矢合観音参道の食事処「小玉屋食堂」

2017年9月2日 16:10更新

東海ウォーカー 加藤山往

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愛知県稲沢市には、江戸時代から矢合(やわせ)観音が祀られており、この地には霊験あらたかな井戸水が湧くと民間信仰で伝えられている。その参道入口に「小玉屋食堂」は店を構えている。

創業年は不明ながら、100年は優に超える歴史

「小玉屋食堂」の現主人は、創業から数えて4代目にあたる橋本久嗣さん。妻、息子、娘と、従業員数名とで店を営んでいる。創業年を聞くと「はっきりわからんのよ。明治の終わりか大正の始めぐらいだとは思うんだけどね」と、明確な記録は残されていないらしい。大正時代は1912(大正元)年から始まっている。「100年超えとるのは間違いないよ」と久嗣さんは続ける。

店は当初、矢合観音の西側で茶店として創業したそうだが、東側に大きな道(現在の県道121号)ができたため、今の場所に移築したのだと久嗣さんは教えてくれた。茶店として店を立ち上げたのは、久嗣さんの曽祖父にあたり、祖父、父、そして久嗣さんと系譜が続き、息子の英明さんが5代目を継ぐ予定になっている。

参道にある食事処だからだろう。店にはしっかり腹を満たしてくれる食事メニューもあれば、みたらし団子(70円)や五平餅(150円)といった、おやつ感覚で食べられるメニューも豊富にそろう。また、道を挟んだ反対側には喫茶の店舗を構え、まんじゅうなどを販売するみやげ売場も併設する。矢合観音へは、地元の人よりも愛知県の全域、岐阜県、三重県といった少し離れた地域から、代々信仰を続けて足を運ぶ人が多いそうで「小玉屋食堂」の客層もそれに伴っている。“観音様への参拝ついでに寄る店”として、長年愛されている。

素朴だけど心の安らぐ、どこか懐かしさを感じる味

「小玉屋食堂」の料理は、どれもシンプルで、ノスタルジックな時間を楽しむのに打ってつけのものばかりだ。人気メニューの1つ「生中華そば」(550円)は、醤油味の鶏ガラスープに、ちぢれ麺と、具に豚バラ肉、メンマ、ハム、花麸が入る。かつて“支那そば”と呼ばれていた昭和のラーメンそのもので、量はそれほど多くないはずなのに、不思議と腹に確かな満足感がある。「ストレート麺ではうちのラーメンには合わないのよ」と、久嗣さんは食材へのこだわりを話す。ちぢれ麺は製麺所に仕上がりを細かく指定して仕入れているという。

店先で焼き上げる「でんがく」(5本450円)は、豆腐の硬さにこだわって仕入れたもの。さらに、たっぷり塗られた味噌は初代から伝わるレシピをそのまま使用し、程よく焦がして香ばしさを強めてある。「うちはほかより少し強めに焼いてるぐらいじゃないかな。お客さんからは『これぐらい焼いてあるのが好きだ』と言ってもらえることが多いよ」と久嗣さん。自ら多くの店の田楽を食べ歩いて研究し、他店の焼き加減を常に気にしていると話す。

ご飯ものにもさまざまなメニューがあるなか、久嗣さんが勧めてくれたのは「五目めし」(550円)だ。具は歯ごたえのしっかりした鶏肉と、薄くささがきされたゴボウ。ほのかに甘く味付けされたご飯との相性がすこぶるよく、いくらでも食べられそうなほど箸が勢いよく進む。初めて「小玉屋食堂」で食事をしたのにも関わらず、なぜか“食べ慣れた味”だと感じる、安心感に似た不思議なおいしさだ。

“やわせ十八番市”を毎月18日に開催

5代目として店で経験を積む英明さんは、矢合観音の縁日“やわせ十八番市(おはこいち)”の実行委員を務めている。この委員会は矢合観音を祀る家や参道沿いにある店の若手5名で構成されており、発起人は英明さん自身だ。「参拝客が年々減ってきて、将来に不安がありますから」と苦笑しつつも、「“ほっこり”をテーマにした縁日を毎月開催して、お年寄りと子どもが一緒に楽しめるような空間を作りたい」と英明さんは目を輝かせる。2016年1月から、毎月18日に開催(8月のみ不開催)、会場は参道とそこにある広場だ。

久嗣さんはそんな息子の活動を応援しつつ、18日は定休日を返上して店を営業すると決めた。“やわせ十八番市”では、和菓子、野菜、手作り雑貨などさまざまな販売店が出店し、音楽ライブが催されることもあって、英明さんいわく「マルシェのような縁日」となる。英明さんは実行委員であるため、開催日は本部テントで待機することになるが、矢合観音の参拝客および縁日訪問客の空腹を満たすのは、平時と変わらず「小玉屋食堂」の役目である。

100年を超える店の歴史、初代から続くレシピ、素朴だが心の安らぐメニューの数々。そして今、地元を盛り上げようとする若い力もある。「小玉屋食堂」はこれからもこの場所で、多くの参拝客をもてなし続けてくれるはずだ。【東海ウォーカー/加藤山往】

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