【第29回】新しい一歩を控える鉄板スパゲティ発祥の店「喫茶ユキ」

東海ウォーカー

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア
ノスタルジックな店名ロゴデザインも人気な「喫茶ユキ」


名古屋市には、卵を敷いた鉄板にナポリタンをのせて出す店がひと際多い。“鉄板スパ”や“鉄板ナポリタン”とも呼ばれるこのスタイルを生み出したのは、名古屋市東区・車道商店街にある「喫茶ユキ」だ。

旅行先でヒントを得て誕生した、スパゲティの鉄板のせ


ウインナー、タマネギ、ピーマン、グリンピース、そして豚肉が入る「イタリアンスパゲティ」(650円)


同店の看板メニュー「イタリアンスパゲティ」(650円)は、イタリア旅行をきっかけに誕生したものだ。「喫茶ユキ」の創業者である丹羽清さんは、喫茶組合の催しでイタリアを訪れ、本場のパスタを味わった。しかし、会話しながらゆっくり食べていると、途中で料理が冷めてしまう。そして、翌日の食事は鉄板焼きのステーキだったのだが、ステーキは最後のひと口まで熱々のまま。こうして清さんは、ナポリタンをステーキ用の鉄板にのせて出すアイデアを思い付いたそう。

店内の一角に飾られている、旅先で描いてもらった丹羽清さんの肖像画


熱々の鉄板による効果は、料理が冷めにくいという特徴に加えて、完成間際に流し込まれる溶き卵にも影響する。具材で使われるタマネギの甘味や豚肉の旨味を、全体に広げていくのは溶き卵である。溶き卵はケチャップと混ざりつつ、客の前で徐々に加熱され焼き上がっていく。こうして自然に味が変化して、飽きずに最後のひと口まで味わえるというわけだ。

新聞や雑誌などで紹介された記事が、店の壁面に飾られている


「喫茶ユキ」は、1957(昭和32)年に創業した店だ。それ以前には紳士服の店を営んでいたのだが、既製服の店が増えたため飲食に転身。清さんはアルコールが苦手だったため喫茶店にした、という経緯らしい。店名は、愛を注ぐ息子の名前から1字をとって「喫茶ユキ」。同店はそれ以来、変わらぬ場所で60年間営み続けている。ただし、清さんは亡くなり、妻の静枝さんは体調を崩してしまったため、今は長男の嫁にあたる洋子さんが1人で店を守っている。

継ぎたいと望む、店名の由来になった本人


現在1人で店を切り盛りする丹羽洋子さん。嫁ぎ先の家業を手伝っているうちに、昔ながらの雰囲気を好きになったと話す


洋子さんが、清さんの長男である久幸さんと結婚したのは30年ほど前。久幸さんはサラリーマンとして働いているため、洋子さんが清さん夫婦の店を手伝うことになった。「こういう商売はどうしても浮き沈みがありますから。『安定してるほうがいい』って、久幸さんをサラリーマンにしたのだと思います」と洋子さん。その久幸さんは、もう2年ほどで定年退職を迎えるそう。「主人は今の仕事を引退したら、店をやりたいって話しています。それまで私1人ですが、どうにか守っていかないと」。

スパゲティは茹でて冷蔵保管し、注文が入ってからフライパンで加熱する。この手順によりケチャップの絡みがよくなる


洋子さんは創業者夫婦に直接メニューの作り方を教わっている。「鉄板のスパゲティを食べたいって来てくださるお客様が多くて。私が作ったイタリアンスパゲティを食べて『変わらずおいしいね』って言っていただくと、ホッとします」と洋子さんは嬉しそうに笑う。しかし、かつて3人で営んでいた店を変わらず1人で回すのは難しい。そこで、営業時間を制限し、料理メニューは人気のあるものに絞って続けることにした。

牛豚ミンチで手作りされる「自家製ハンバーグ」(750円)。看板メニューのスパゲティも楽しめる、欲張りな一品だ


「イタリアンスパゲティ」とならぶ、もう1つの人気メニューが「自家製ハンバーグ」(750円)だ。量を控えめにした「イタリアンスパゲティ」に、1つ1つ手作りで仕込んだハンバーグをのせて、デミグラスソースをかける。ご飯、味噌汁、漬物も付く、満腹感の高い定食メニューである。「凝ったものじゃなく、家庭的な料理ですよ」と謙遜する洋子さん。「初めて注文したお客さんは、スパゲティも付くんだ、と驚かれますね」と続ける。「喫茶ユキ」は、やはり「イタリアンスパゲティ」の店なのだ。

ノスタルジックな空間で過ごせる最後の期間


「コーヒー」(300円)にはスナックが付いてくる。なお「アイスコーヒー」(350円)は専用の豆でいれられる


看板料理で知られる「喫茶ユキ」だが、喫茶店らしく「コーヒー」(300円)にも注目したい。同店のコーヒーは、酸味やコクがしっかり主張する一方、後味はさっぱりとしている。キリマンジャロ銘柄に似ているように感じるが、余韻はひと際やさしい印象だ。そんな感想を伝えると洋子さんは「昔から付き合いのある問屋さんから変わらず仕入れていて、私は分からないんです。その味は清さん夫婦が決めた味なんだと思いますよ。コーヒーマシンの調整ダイヤルも、触らないようにしています」と苦笑する。

移転を控える現在、客の思い出を書いてもらう“おたのしみノート”が席に備えられている


実は近々、同じ通りの30mほど北に移転することが決まっている。理由は名古屋市の区画整理事業。仕方がないとは言え、同じ場所で60年間続けてきた「喫茶ユキ」にとっては大きな変化だ。「新しい店は新築になりますから、このままの雰囲気を残すのは難しいかも知れませんね。でも主人や建築士の方とは、できるだけ残したいねと話しています」。

創業当初から使用しているランプシェードを、新しい店でも引き続き使用する予定。ただしLED照明になるそう


歴史ある店の移転リニューアル。完成は2018年の春あたりが目処らしく、昔ながらの雰囲気そのものを楽しめる期間は、2018年2月ぐらいまでだろう。新しい店で以前の雰囲気をどれだけ残せるか、また、数年後に久幸さんが店に入ってどうなるのか。この店での営業期間が残り少ないことに寂しさを覚える一方、新しい「喫茶ユキ」への期待のようなものも感じる。【東海ウォーカー/加藤山往】

加藤山往

この記事の画像一覧(全10枚)

キーワード

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

いちご狩り特集

いちご狩り特集

全国約500件のいちご狩りが楽しめるスポットを紹介。「予約なしOK」「今週末行ける」など検索機能も充実

お花見ガイド2024

お花見ガイド2024

全国1300カ所のお花見スポットの人気ランキングから桜祭りや夜桜ライトアップイベントまで、お花見に役立つ情報が満載!

CHECK!今が見頃の花見スポットはこちら

ページ上部へ戻る