【第30回】ころかけうどんの元祖として知られる岐阜・多治見の名店「信濃屋」

2017年9月27日 16:16更新

東海ウォーカー 藤原均

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うどんに冷たいツユをかけて食べるころかけうどん。東海地方ではごく一般的な食べ方だが、その発祥とされているのが岐阜県多治見市にある「信濃屋」だ。独特の食感を持つ手打ち麺と香り高いツユの味を求め、全国からたくさんのうどん通が訪れる。

戦火をくぐり抜けた歴史

JR多治見駅から徒歩9分、昭和の雰囲気を色濃く残した長屋に店を構える「信濃屋」。創業は戦前の1930(昭和5)年にさかのぼる。「昭和の始めに名古屋の中区にあるうどん屋で修業していた父が、建物と暖簾ごと店を引き継いだのが始まりなんです」と話すのは、2代目店主の滝 晶宣(まさのり)さん。

しかし、終戦間際の1945(昭和20)年に空襲で店が全焼。大八車に載せられるだけの荷物を載せて、多治見市に疎開した。そして戦後の物資不足のなかで少しずつ準備を進め、1948(昭和23)年に店を再開。おいしいと評判だった名古屋の店の味を再現し、口コミで少しずつ評判が広がっていったという。

シンプルなれど奥の深い味

「信濃屋」はころかけうどんの元祖として有名だ。初めてメニューに載ったのは、まだ名古屋に店があったころ。初代店主の滝 吉男(よしお)さんが、まかないのうどんからヒントを得て考案したという。「店が忙しいときに、冷たいままのツユでまかないのうどんを食べてみたら、これが意外とおいしかった。それが始まりだと聞いています」。

ツユはカツオ節のダシをベースに、4種類の醤油を独自に調合。「ころは漢字で香露と書くんです」と晶宣さん。文字通り、ダシと醤油のほのかな香りが鼻孔をくすぐる。

メニューは冷たい「ころかけ」(660円)のほか、あたたかい「うどん」(660円)と「支那そば」(880円)がある。薬味は「ころかけ」がネギ、おろし生姜、ゴマ。そして「うどん」と「支那そば」はネギのみ。ツユも同じものを使っているが、メニューによって温度や濃さなどを変えることで、香りと味わいが微妙に変化する。

昔は天ぷらうどんなども出していたそうだが、「うどんとツユだけで食べたいというお客さんが多くて、少しずつメニューを厳選していった結果が今なんです」と晶宣さん。麺とツユにわずかな薬味を加えたシンプルな味が、いかにおいしいかを物語るエピソードだ。

1時間も茹でられる唯一無二の麺

うどんの仕込みは前日の夕方から始まる。小麦粉と塩水を合わせて手でこねてから、足踏みや成形などを経て、円形状に伸ばした状態で打ち粉を振る。ここまでの行程で深夜24:00を回ることも珍しくない。

そして翌朝、一晩寝かせた生地をさらに薄く伸ばし、うどん切り包丁で同じ太さに切っていく。驚くべきは、その後の茹で時間の長さ。なんと1時間である。普通の麺なら溶けてしまうところだが、晶宣さんの打った麺はとろりとした食感の中にしっかりとしたコシが残る。なぜ溶けてしまわないのか、製麺の専門家に聞いても首をかしげるのだそう。同店のうどんが唯一無二の食感といわれる所以だ。

晶宣さんの目標は、この昔からの味と食感をこれからも守り続けていくこと。「小麦粉や醤油やカツオ節など、あらゆる材料が昔とは変わってきているので、毎日が試行錯誤の連続ですね」と笑顔で語ってくれた。地元の多治見市のみならず、全国のうどん通を唸らせる手打ちうどんの老舗「信濃屋」。その影には1人の真摯な職人の絶え間ない努力があることを忘れてはいけないだろう。【東海ウォーカー/藤原均】

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