オリンピックシーズン開幕!注目選手を総ざらい 【シニア女子・中編】

東海ウォーカー

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オリンピックでの活躍が見たい!東のエース、樋口新葉


樋口新葉、東京夏季フィギュアでのフリープログラムの演技


先日のロンバルディア杯にて、ようやくその類稀なるポテンシャルを発揮した樋口新葉。それも217.63というハイスコア。オリンピックでも表彰台争いに絡む点数だ。ジュニア時代は絶対的エースとして君臨したものの、シニアに上がった昨年は浮き沈みの激しいシーズンとなっていた。夏場は故障もなく順調な調整でシーズン入りし、飛躍が期待されたものの、代表に選ばれた四大陸選手権、世界選手権では本来の演技ができなかった。何よりスケーティングでスピードが出ない。その理由を尋ねてみても、「どこも怪我していません。体調も悪くありません」との答えしか返ってこない。彼女の持ち味はスピードを生かした、飛距離のあるジャンプだ。必然、スピードが出なければ十分な回転を得られない。本人も重々承知しているのにスピードが出せない。いかに才能豊かとはいえ、シニア昇格初年度の若い選手だ。プレッシャーの御し方もまだ覚束なく、苦しんでいるように感じられた。

今季、彼女はシーズン初戦に関東サマートロフィーを選んだ。関東圏の選手が調整試合に使う、夏のローカル大会だ。プレッシャーのかからない場でプログラムのお披露目をしたいとの思いがあったようで、例年であれば取材はほぼ来ないこの大会を選んだのだが、今年は違った。実に12社からの取材申請があったという。それだけ彼女が注目されている証だ。そして続く東京夏季フィギュア。こちらは樋口にとっては幼少時から毎年出場してきた恒例のイベントだが、ここも過去に例のない、大勢の報道陣が詰めかけた。この連載でも記事にしてきたイベントだが、昨年は私一人しか取材に来なかったといえば、今年の過熱ぶりが伝わるだろうか。

8月上旬の関東サマートロフィーでは、樋口の演技は決して素晴らしいものではなかった。本人は「調子は悪くない」と話していたが、オリンピックシーズン初戦としてはいささか不安を覚える出来だった。それが8月下旬の東京夏季フィギュアでは、ミスはあったものの、その後の飛躍を期待させるものへと変貌を遂げていた。一番の要因としては、振付の修正を行ったことだろう。関東サマートロフィーの翌日にはショートプログラムを担当したマッシモ・スカリの元へと赴き、手の動きなどに留まらずステップも改良したという。プログラム作りにおいて、あまり振付師にリクエストをしない方だというが、この時には樋口自身の希望も伝えてプログラムに反映してもらったという。そしてフレンズ・オン・アイスのために来日していたシェイリーン・ボーンには、東京夏季フィギュアの5日前に振付を直してもらったそうだ。この夏季フィギュアでは、さすがに仕上がりが間に合わなかったようで不本意な出来栄えとなってしまったが、その気持ちの入り方には感銘を受けるものがあった。ルッツジャンプをミスしたところで、演技中とは思えないほど、露骨にがっかりした表情を見せる場面があった。本来ならば褒められる行為ではないだろう。しかしそれだけ、ひとつひとつの試合にかける意気込みが今年は強いのだ。「今年は絶対にパンクしない」との目標を掲げていたそうで、それが達成できなかったことが本当に悔しかったようだ。喜怒哀楽をはっきりと出すタイプの選手であり、それが彼女の大きな魅力でもある。気持ちが乗った時の演技は本当に素晴らしく、例えば4月の国別対抗戦など、樋口新葉の魅力が存分に発揮されたパフォーマンスだった。あんな演技を、今年は何度も観たいものだ。

今年のプログラムについて、本人が語ってくれたことを交えて紹介したい。ショートプログラム、ジプシーダンスについては、「最初の出だしは苦しさを表現し、最後のステップは楽しく滑る、という分かりやすいプログラムに仕上がっています」とのこと。昨年のショートプログラムが、映画音楽ながら難解なプログラムだったため、今年の分かりやすさは好印象を与えることだろう。ジャッジの前で手をひらひらさせてアピールするシーンがあるのだが、手がかじかむと上手く出来ないらしく、試合前に手を温めることが今年のルーティンとなりそうだ。

フリープログラムについては、シェイリーン・ボーンらしい007に仕上がったと言えるだろう。樋口自身、最初はこの曲についてはキム・ヨナのイメージしかなかったというが、それとはまったく違う、思い切った振付に仕上がったことに満足しているという。

「三つのパートがありますが、一つ目は向かっていくイメージ、二つ目は強いイメージ、三つめは色んな気持ちが入り混じったイメージです。真ん中のパートがおそらく一番お客さんが分かりやすいと思うので、そこでしっかりアピールしたいと思います。キム・ヨナさんの演技も意識はしますが、自分は自分の007を踊りたいと思います」

そして、先を見据えた改良も施しているようだ。関東サマートロフィーでは珍しくサルコウをミスしたのだが、その理由が、サルコウの跳び方を変更して間もないためだという。

「サルコウを、今までは片足で踏み切っていたものを、両足で踏み切る(ハの字の跳び方)に変更しました」とのこと。それは将来の、4回転サルコウへの挑戦を見据えたものだという。試合での挑戦はまだ先になりそうだが、こちらも楽しみに待ちたいものだ。

自然体で再スタートを切る、永井優香


曲は“オペラ座の怪人”。長いトンネルを抜けて、再スタートを切るにふさわしいプログラムだ。演技終了後のこの笑顔!


昨年の永井優香が不調であることは、シーズン入り前から伝え聞こえていた。夏場の大会では全くジャンプが跳べていなかった。それでもグランプリシリーズへの参戦が決まっており、抜き差しならない状態で戦わなければならない彼女の演技は、観ていてこちらが苦しくなるものだった。そして長年師事した関徳武コーチはカナダへと移籍。日本に残る決断をした永井は、新たに中田誠コーチに師事することになり、ひとつひとつの要素から見直す作業を始めたのだ。

東京夏季フィギュアでのショートプログラム後、彼女は肩の力が抜けた、屈託のない笑顔で会見場に現れた。ようやく長いトンネルを抜けた、その安ど感を感じさせる表情だった。

「今日は朝の練習でまあまあ調子が良くて、滑るのが楽しみでした」。6分間では楽しみ過ぎて「ふわふわしてしまった」ほどだったという。昨年には考えられなかったことだ。

「去年は気持ちに余裕がなくて、考えれば考えるほど調子が悪くなっていました。滑るのが苦痛でした。今は練習から楽しめて、いい気持で向き合えています」

彼女はこの春、早稲田大学、社会科学部に入学した。スポーツ推薦ではなく自己推薦入試で受験したという。スポーツ推薦の誘いもあったというが、競技活動をしながらの受験を選択したのだという。

かつてはグランプリシリーズで表彰台にも上った永井優香。今は楽しく練習が出来ているようだが、世界のトップクラスの舞台に戻ることは目指しているのだろうか。

「戻る、という感じではなく、一からまたやり直す、という感じです。かつて全日本ノービスで3位になった時のような、“ここからスタートする”という気持ちです。心に決めている目標はあるんですが、自分はあまり高い目標を設定してしまうと、“出来ない”と諦めてしまうところがあるので、達成できそうな小さな目標を少しずつ達成していきたい」と、言葉を探しながら心情を話してくれた。そして「最近、3ルッツ+3トウが跳べたんです」と嬉しそうに話してくれた。来年頃にはまたプログラムに入れたいとのこと。

フリープログラムは鈴木明子振付の“オペラ座の怪人”。まだ仕上がりに不安があったとのことだが、この試合での演技は望外の出来栄えだったようだ。

「自分でもちょっとびっくりしています。失敗はありましたがいい演技ができました。6分間の時には足が震えていましたが、別に失敗しても死なない、と開き直れました」

今年の全日本の舞台は東京、自宅からも近いという。

「自宅から車で10~15分です。会場への近さでは日本一です(笑)」

オリンピックの代表選考がかかった4年前の全日本、埼玉の会場で観ていたという。

「凄い雰囲気でした。今年はその場に出たいという気持ちが強いんです」

東日本から全日本への枠は少なく、決して油断はできないが、良い準備をして臨んでほしい。

「大学生活は充実しています。でも普段はジャージが多く、全然大学デビューできていないんです」と笑う。その自然体の笑顔こそ、多くのファンが待ち望んでいたものだろう。

2年前の輝きを取り戻した、佐藤伊吹


この日のショートプログラムはノーミスの素晴らしい演技だった


東京夏季フィギュアの出場選手からもう一人、どうしても紹介したいのがこの佐藤伊吹だ。2年前、好調だった時期にこの連載でも紹介したことがあるのだが、その後に故障が続き、再浮上までには長い時間を要することとなった。

「痛いところが治っても、すぐに次の怪我をして、長時間の練習が出来ない状態が続いていました」

フィギュアスケートは選手寿命の短いスポーツだ。満足な練習ができない日々が続き、時間が徒に過ぎることがどれほど苦しいことか。地道な努力を続けていた彼女に復活の兆しが見えたのは今年のインターハイ。横谷コーチが語った「ようやく良くなってきました」との言葉が印象的だったが、この夏の充実ぶりは当時抱いた予想を大きく上回るものだ。夏季フィギュアでの演技は、ショート、フリー共にほぼノーミスでそれぞれ自己ベスト。総合得点は168.25と、まだまだ層の薄い東日本勢に、楽しみな選手が加わった。特に今年は全日本が東京開催だ。

「東日本の枠が少ないんですが、このまま練習を続けて全日本に出たい」

もちろん全日本で彼女の演技を観たいものだ。そして、かつて跳んでいた3ループ+3ループ。まだ試合で使える状態ではないというが、こちらも仕上がりを楽しみに待ちたい。

※「シニア女子・後編」へ続く 【東海ウォーカー】

中村康一 (Image works)

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