【連載/ウワサの映画 Vol.17】女性初オスカー監督が放つ野心作。黒人差別を巡る”50年前の一夜”

東海ウォーカー

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黒人差別を批判するBlack Lives Matter運動が盛り上がりを見せ、今また切実さを鮮明にしているアメリカの人種問題。50年前に実際に起きた暴動を題材にした「デトロイト」で、キャスリン・ビグロー監督が容赦なく突き付けてきましたよ…、”一向に変わらない現実”を!彼女の真骨頂である圧倒的な臨場感が、もう息苦しいったらなくて…。映画からも現実からも目を背けたくなるほどの衝撃です。

骨太な政治的作品を放ち続ける才女・ビグローが、徹底したリサーチのもと、アメリカの暗黒史に切り込みます。ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールターら、今作でも配役が冴えます!©2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


イラク戦争下の爆発物処理兵を主人公にした「ハート・ロッカー」で女性初のアカデミー監督賞に輝き、「ゼロ・ダーク・サーティ」ではウサマ・ビン・ラディンの捜索に燃える女性CIA分析官の執念を描いたビグロー監督。タイムリーな題材選びにも才気が光ってますよね~。そんな彼女が5年ぶりの最新作で取り上げるのは、アメリカ史上最大級の暴動「デトロイト暴動」の渦中に、若者が集うモーテルで起きた一夜の惨劇です。黒人差別という重要な社会的テーマを軸にしながらも、繊細な心理描写が貫くサスペンスフルなドラマとしても見応え十分で、とにかく濃密な仕上がり!

モータウン・レコードなどもあり活気に満ちていたデトロイトが、不当な扱いに対する黒人たちの爆発により、略奪、放火、銃撃まみれの非常事態に。軍隊も投入され”戦場”と化します…©2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


舞台は1967年7月23日、深夜のデトロイト。市警が低所得者居住区の酒場に強引な摘発を行ったのを機に、黒人住民による大規模な暴動が各地で発生します。そして暴動発生から3日後の夜、アルジェ・モーテルに宿泊する黒人客がオモチャの銃を鳴らしたことから、警官と州兵が大挙してモーテルへ押し寄せる事態に。白人警官・クラウス(ウィル・ポールター)が1人の黒人客を射殺したのを皮切りに、モーテルに居合わせた若者8人の地獄の一夜が始まります。存在しない狙撃犯探しに躍起になるクラウスらが始めた8人への不当な暴力捜査は、やがて、異常な”死のゲーム”へと発展していくのでした…。

モーテルに宿泊していただけの黒人男性6名に加え、黒人と一緒にいたという理由で白人女性2名が暴力捜査の餌食に。被害者には地元のR&Bグループ”ザ・ドラマティックス”のメンバーも…© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


モータウン全盛期、”黒人ってクール!”という風潮の中、自動車産業でにぎわう流行の最先端的な街・デトロイトの破滅の始まりとなったと言えるのが、1967年の夏、死者43人、負傷者1100人を出したこの大暴動です。映画序盤の、実際の記録映像を織り交ぜた暴動シーンは類を見ない緊迫感!飛び交う無数の怒号と悲鳴があおる”収拾つかない感”が事のエスカレートを予感させます。そして起こる、暴動とは無関係の若者たちを襲う悲劇。彼らがいびつな社会構造の闇に叩き込まれていくさまは、まったくもって救いがない(泣)!南部の綿花産業衰退に始まるデトロイト中心部の貧しい黒人の集中と、よそ者の警察たち(ほぼ白人)が長きにわたり黒人たちに加えた虐待…。冒頭で俯瞰するデトロイトの歴史は、現在に至る差別の構造の縮図のよう。怒りと恐れの絶望的なぶつかり合いに、ひたすらうなだれるばかりです。

今も変わらない、白人警官が非武装の黒人を殺害しても多くは無罪となる非情な事実。その仕組みと過程を”アルジェ・モーテル事件”がしっかりと捉えています©2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


ビグロー監督に追い込まれながら、迫真の演技を見せる若手キャスト陣が素晴らしい~!今後一段とブレイクしそうな若手の宝庫でしたね。まずは最も光っていた、悪人役代表のウィル・ポールター。差別主義者の白人警官役ですが、クソみたいな人間を演じる葛藤はいかばかりかと心配になっちゃうほどの怪演です。相当の尺での非人道的演技の連続に、撮影中に突然泣き崩れてしまったこともあったとか。極限の精神状態が放つ行き場のない殺気が強烈すぎ!

殺した黒人青年の横にナイフを置き正当防衛を装うのは、当時の白人警官の常套手段。弓なり眉毛をさらに吊り上げた鬼気迫るウィルが、蛮行の一部始終を体現します© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


続いて、善人役代表のジョン・ボイエガ。新「スター・ウォーズ」シリーズのフィン役で遠い銀河系の一大バトルに巻き込まれた彼は、今作では、良かれと思って起こした行動が白人・黒人双方から非難され、あげくに殺人罪で告発されてしまうという…、目も当てられない巻き込まれキャラを好演します。しかし目力強いですね~、言葉少なに悲しみや怒りの視線を投げつけるさまは、あからさまに反発できなかったすべての黒人の悲痛を物語るようで、切ない…。

騒ぎを聞きつけモーテルにやってきた、近所の食料品店の民間警備員役のジョン。その人種と職業ゆえ、警官側と被害者側の狭間で微妙な立場となってしまいます©2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


事件の生存者3名をアドバイザーとして迎えて再現する、”紙一重”の運命のむごさと若者たちが負った心身の深い傷。ドキュメンタリーのような生々しい暴力シーンが40分間にわたって繰り広げられ、まるでその場にいてリアルタイムで目撃しているような感覚に、正直、まいっちゃいました。ずっと被害者目線で観ていた私ですが、鑑賞後にふと、ビグロー作品を彩っている”過激なスリルに魅入られた人々”の側に立ってみた時、そっちの立場にならない自信はなく…、なんだかうすら寒いです。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「THE PROMISE 君への誓い」(2月3日公開)のオスカー・アイザック!

おおまえ

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