なぜ、今「おこもり宿」が人気なのか? 「じゃらん」「るるぶ」各編集長が注目するキーワードとは

関西ウォーカー

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世はSNS全盛期。たった一つの目的のためにどこかへ出かけ、その写真を共有することが、旅の大きなテーマとなってきた。そんななかでブームとなっているのが「おこもり宿」への旅。宿泊そのものを目的とし、チェックインから翌朝まで、宿の敷地内で過ごす旅のことだ。

17年は京都市内に町家宿が続々誕生。東山の「月亭」では、観光ではわからない土地の暮らしも感じられる


そもそも「おこもり宿」という言葉は、21世紀初頭からあったし、ひそかなブームとなっていた。しかし当時の「おこもり」とは、日常では得られない刺激を求める雰囲気があり、どちらかと言うとストイックな一面も持ち合わせていた。

そして現在。「おこもり宿」が旅の大きなムーブメントとなってきている。この動き、旅のプロたちはどう見ているのだろうか? 今回は本誌編集長・篠原が、「関西・中国・四国じゃらん」「るるぶ」の両編集長に「18年の旅はどうなるのか?」を突撃取材!

旅行の目的が宿主体へ、大きく変化している


まず話を聞いたのは、「関西・中国・四国じゃらん」の芝谷千恵子編集長。「これまでの旅はそこそこいい宿に宿泊し、周辺観光も楽しむというスタイルだったのですが、これからは“宿でどう過ごすか”が大きな関心事になっています」と言う。

そのきっかけは、消費者が自分のために出費するようになってきたこと。日常生活でのスキルアップや健康への関心の高まりが、旅へも波及したと言えるだろう。「だから今年は『へるしい旅』が注目です」と芝谷さん。最近は20代、30代でも健康への興味が高まっていて、その傾向は今年も続いていくそう。

“へるしい宿”の誕生で健康志向がより高まる!?


“サスティナビリティ”が考えられるようになった現代では、自分自身もより健康に、と考えるのは自然な流れ。それゆえに旅先で癒されるだけでなく、健康になるためのコンテンツを求めることも増えてくるのでは、と時代を読む。「神戸みなと温泉 蓮」のように、健康をテーマとした宿が誕生してきているのも、そうした世相を反映してのことだろう。

【画像を見る】京阪神初の温泉利用型健康増進施設として、厚生労働省から認定されているリゾートホテル「神戸みなと温泉 蓮」(神戸市)


宿を旅の目的地としてそこにこもり、じっくり健康を考えるのが、これからの「おこもり宿」の大きなテーマになりそうだ。

そしてもう一つ、「旅の目的が二極化してくると考えています」とも。客室はリーズナブルでクオリティはまあまあよければOK、その分観光やグルメなど、さまざまなことへ出費する旅の形は依然大多数。そこに今、“いい宿に宿泊して”食事は普通、もしくはそこそこの宿に宿泊して“食事を豪華に”するというような、一点豪華主義が加わった。つまり自分のための出費が、旅の目的をより深掘りし始めたと言える。

さらには「自分だけの体験、新たな知見などを求める傾向も強くなっている」と芝谷さん。インバウンドの影響で全国的にホステルやゲストハウスが増加し、そこでの出会いを楽しみに出かける旅が人気を集めているのもこれが影響している。また冬に人気の温泉旅でも、若い世代の新たな体験として「湯治」がキーワードになってくるかも知れないと言う。

その土地を深く知る、暮らし体験も注目!


ゲストハウスなどへの宿泊について「安価なだけではない、おしゃれな宿が出現していることも関係している」と言うのは、「るるぶ西日本エリア」編集長の勇上香織編集長。

宿がフォトジェニック、そしてそこにしかない出会いがあるというのは、まさにSNS時代らしい旅。「そういう所へは一人で行く人が多いようですね。そして現地で、同じ目的で集まった人たちと体験を共有するのです。これはゲストハウスだけでなく、旅行の目的の大きな流れではないでしょうか」。

絶景を見るためだけに向かい、同じ目的で集まった人たちと景色の素晴らしさを共有する、季節限定の味を堪能し、その写真をSNSへアップする…。自分のための出費が「おこもり宿」人気を呼び、それが「おひとりさま旅」の増加にもつながっているよう。

宿泊施設側の変化で、おこもりスタイルも多様化


一方、「新たな知見」という観点では「古民家を改装した宿などに宿泊し、地元の生活文化体験を目的とする人も増えてきています」と勇上さん。確かに最近、全国的に古民家をリノベートした宿が増えてきているが、建物自体を楽しむだけでなく、その宿がある地域そのものを楽しんで、ついでに伝統文化なども吸収、という傾向が強くなってきていると言う。

「例えば京町家の宿なんて、それだけでカッコイイし、なにより“町家に泊まる”というステータスがあります。京都の伝統的な暮らしを疑似体験できる魅力もありますよね」。また、地域によってはこのような宿に一人で出かけ、そこに集っている人や地元の人との交流を楽しむ旅も人気を集めているそう。「おこもり宿」とは宿での滞在をじっくり楽しむだけのものから、新たな共有体験を求めるものへと、アップデートされているのだ。

グルメな温泉宿で知られる「海のまほろば 呑海楼」(兵庫県)は、芝谷編集長もお気に入りの宿。絶景温泉と極上グルメという2つの魅力に加え、地元の日本酒が楽しめることでも人気


ちなみにここで重要なのは、最初から最後までパッケージされたプランではなく、自分好みにカスタマイズできること、と勇上さん。わかりやすい例では食事内容が選べる、宿で体験できるコンテンツがいくつか用意されているなど。そのような宿がスタンダードになってくるのでは、と予測している。

この需要の増加を背景に、今後はほかにはないサービスなど付加価値をウリにする宿も増えてくると思われ、客の要望に合わせるよう、宿泊施設側が変化してくるのではないか、と勇上さんは語る。

これからの「おこもり」は、目的特化型の宿を目指せ!


このように、旅の目的やスタイルの変化が著しい昨今だが、根底に「おこもり」需要があるのは間違いないようだ。そして自分の旅を「共有する」のも大きな流れ。これまでは誰かと一緒に出かけて旅を共有していたものが、SNSのおかげで、いつでもどこからでも、旅を共有できるようになってきた。それが「おひとりさま旅」も助長しているよう。

「話題のコンテンツを自分も知っているという事実が、“つながり”を大切にする現代では旅に出る大きなきっかけになっています」と勇上さんが言うように、現代は旅に出る動機そのものが変わってきている。そして目的も、一つの所でじっくり過ごすスタイルが主流。

「おこもり」は、どうやらまだまだ進化していきそうだ。その点については「自分を豊かにする時間や体験を通して自分と向き合うのが本来の“おこもり”。そこへどんどん新たな付加価値が付くようになってきているので、ますますおもしろくなっていくと思います」と芝谷さん。そこにいるだけで癒されることが目的だった「おこもり宿」への旅は、その先になにが待っているか、が最重要コンテンツになってきていると言える。

絶景は定番(写真は兵庫県の「絶景露天風呂の宿 銀波荘」)。この景色を眺めにこもりたい


日常生活ではつねに誰かとつながっているのが当たり前の現在。その“つながり”からの解放のために「おこもり宿」や「おひとりさま旅」は人気となってきたわけだが、結局は旅先での体験をきっちりSNSにアップすることで、「日常とは違うつながり方」も生み出し、それが新たな旅のおもしろさにもつながってきているのだろうか。そう考えると、これから求めるべき旅とは「目的に特化した宿へ行く」ことなのかも知れない。

<この方に聞きました>

関西・中国・四国じゃらん 芝谷千恵子編集長(左)


関西・中国・四国じゃらん 芝谷千恵子編集長=2000年(株)リクルート入社。さまざまなメディアの編集に携わり、17年4月より現職。今最も気になっているのは、魅力的な離島を発掘する旅

(株)JTBパブリッシング るるぶ西日本エリア 勇上香織編集長(左)


(株)JTBパブリッシング るるぶ西日本エリア 勇上香織編集長=学生時代にバックパックで海外を旅するなど、旅好きが高じ旅行ガイドの編集に興味を持つ。08年より現職。今気になるのは“なにもしない”旅

【関西ウォーカー編集部/取材=glass】

折笠隆

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