カムイ(神)と共にあった アイヌの暮らし

北海道ウォーカー

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アイヌの人々は自分たちが普段食べているもの、着ているものはすべてカムイ(人知の及ばぬもの、神のような存在)が与えてくれたもの、という考えのもと感謝を捧げながら暮らしていました。常にカムイの存在を感じながらのアイヌの暮らしとは一体どんなものだったのでしょうか。

アイヌの人々は動物、植物はもちろん、道具類を含む世の中のすべてのものに魂が宿っていると考えていました。この魂がカムイです。日本語にすると「神」とされることが多いのですが、アイヌの人にとってのカムイは崇め奉るだけの存在ではなく、関係はあくまでも対等。人間が必要としているものを与えてくれることには感謝しつつ、抗議することもありました。

アイヌ民族博物館学芸課の竹内隼人さんによると、「例えばコタン(村)で何人もが同じような病に苦しんでいると、流行病のカムイが仕事をしているためだと考えたんです。そこで、そのカムイに対して『お前の役割はここで果たすべきではない。出ていきなさい』といった祈りを捧げていたようです」。

カムイに祈りを捧げることをカムイノミと言います。「大きな儀式だけではなく、例えば『これから漁を行います。どうぞお力添えを』といったひとりでできるものも含まれます」。大きな儀式はコタン(集落)の人格者であるエカシ(長老)が祭主となって執り行います。

チセ(家)の中では火のある囲炉裏で儀式を行った


アイヌには「一年」という概念がなく新年を祝う風習はありませんでしたが、春から夏、秋から冬への季節の変わり目には先祖供養も兼ねたコタンノミ(集落の祭り)が行われました。

また春になり舟を水に出す時、また冬の前に水から舟を引き上げる時、そして初物のサケが獲れた時など、さまざまなシーンでカムイに祈りを捧げました。

個人的なカムイノミには、狩りの安全を祈るもの、食糧を手に入れた時のお礼などがあり日常的に行われました。いまも車を購入した際などにカムイノミを個人で行っている人はいるようです。

規模の大小に関わらず、カムイノミに必ず必要とされたのは、ヒエやアワで作られたアイヌのお酒とイクパスイという祭具、そして火です。火の神、アペフッチカムイは、ほかのカムイへの連絡係のような役割を担っていたので、直接アペフッチカムイへの祈りでなくとも、火が必要だったのです。

イクパスイは人間とカムイをつなぐ役割を果たします。出先で祈りを捧げる際に自分のものを持っていなかった場合は近くにある木を使って作る必要があったくらい、カムイへの祈りには欠かせないものです。趣向を凝らしたデザインのものが多くシロシという家紋のようなものが彫られています。

祈りを捧げる際には、イクパスイの先をお酒に浸し火に振りかけました。お酒の1滴はカムイモシリでは1樽になるとされています。

最も大事な神具のひとつ、イクパスイ


カムイノミでもうひとつ大事なものがあります。イナウ(木弊)です。木を削って作られます。カムイモシリでは宝物になるとされ、カムイに最も喜ばれるものとされています。地域によって異なりますが、白いヤナギの木で作ったイナウはカムイモシリでは銀に、黄色いキハダで作ったものは金になるとされています。儀式では祭壇に置いたり、燃やしたりしてカムイモシリに送られます。

イナウには大小様々な種類がある


「アイヌモシリ(人間の世界)の動物や植物は、カムイが人間に役立つもの(肉や毛皮など)を運ぶための仮の姿で、カムイモシリ(神の世界)では、人間と同じ姿をしていると考えられていました」と竹内さんは話します。

人間に食べ物や着るものを与えてくれた動物の魂をカムイモシリに送り返す儀式がイヨマンテです。最も盛大なカムイノミで、準備も含め7日間ほどかけて行われました。イヨマンテは「それ(神)を送る」という意味で、クマの霊送りが代表的なものですが、シマフクロウやシャチの霊送りなども含まれます。カムイに「またアイヌモシリに遊びに来たい」と思ってもらえるよう、酒やイナウ、供物などをお土産にし、丁重にカムイモシリへ帰します。

儀式で使われたイナウや使用しなくなった物は各集落にひとつ(集落の規模によっては複数)あったヌササン(祭壇)の裏に置きそのまま土に返してカムイモシリに帰しました。ヌササンは集落で一番大きな家の東側に設けられることが多かったようです。大きなイナウが立てかけられ、主にヒグマの頭骨が祀られています。

通常家の東側に設けられたヌササン


常にカムイに感謝し、カムイの与えてくれた自然の物を必要以上に狩猟・採取しないことが、アイヌの翌年以降の生活を守ることにもつながっていました。

※文中のカムイモシリの「リ」、アイヌモシリの「リ」はアイヌ語表記では小文字になります。

市村雅代

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