連載第4回 1992年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

東京ウォーカー(全国版)

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ドラマ制作の誠意ってなにかね?


名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


1992年―。アルベールビルオリンピックとバルセロナオリンピックという2つのオリンピックが開催され、スポーツ界が大盛り上がり。エンタメでは「美少女戦士セーラームーン」と「クレヨンしんちゃん」が放送開始でチビっ子が大熱狂。CMではきんさんぎんさんが「うれしいような、かなしいような」とほのぼのとつぶやき、水野美紀が唐沢寿明に「ねえ、チューしてよ」と迫り、お茶の間を和ませていた、そんな時代。ドラマでは、ひたすら華やかでハイテンションな設定のものから、インパクトと衝撃が加えられた歴史的作品が続々登場。影山貴彦氏が愛してやまない「あの名シーン」も遂に登場し、語りながら涙ぐむという熱いインタビューに!

SNSのない時代だから描けた「素顔のままで」


―この年は「ずっとあなたが好きだった」「愛という名のもとに」「素顔のままで」という、とても個性的なドラマが並んでいます。

まず、「素顔のままで」ですね。月9には珍しい、女性同士の友情を描いたドラマです。とてもおとなしいけれど過去にキズを持った優美子を安田成美さんが、恵まれない生い立ちの中、必死で這い上がってきたミュージカル女優志望のカンナを中森明菜さんが熱演していました。脚本はNHKの朝ドラ「半分、青い。」の北川悦吏子さんですが、よくぞこのテーマで1クール描ききったと思いますね。友情モノといえば群像劇が王道です。しかも登場人物は奇数。「俺たちの旅」「男女7人夏物語」などもそうですが、誰かがはみ出る危機感がある5人や7人はとても面白い数字なんですね。そこで意見が割れたり、誰かが落ちこぼれたり、大きな事件を起こしたりして物語や人間関係が動いていく。「愛という名のもとに」の、中野英雄さん演じるチョロこと倉田篤の自殺という衝撃のシーンは、その最たる例だと思います。

一方で「素顔のままで」のように1対1で向き合った友情ドラマは、今も昔もあまりありません。また、女同士の友情に特化している点も珍しいですよね。W浅野の「抱きしめたい!」も女の友情がメインでしたが、あれは幼なじみという大前提もありました。「素顔のままで」はおとなになってから出会い、しかも徹底して2人の親密な同居生活、そして絆を追っている。そんな優美子とカンナのような「互いの人生をまるごと受け入れるような女性の友情」は、リアルに成り立つのだろうか、と考えながら見ていましたね。私は男性なので、そのあたりがさっぱりわからない。だからこそ面白かったです。

―私は「素顔のままで」の放送時23歳で主人公たちと同じくらいの世代です。私の中学・高校時代は、手をつないでトイレに行く、休憩時間はぴったりくっついて離れない、双子やカップルのような2人組は実際にいましたね。

私から見ても女性同士の親友は本当に距離が近くて、見ていてドキドキしたものです。ところが、今はどうもそうではないらしい。私は同志社女子大学で教員をしていますが、教え子たちを見ていると、あまりベタベタしないんですね。話を聞けば「その必要がない」と。今は、気が合う人がいなくてもSNSを通じていろんな人とつながれるから、特定の相手とくっついて行動することにあまり意味を感じない、というのがその理由です。学校やグループの友達が生活のすべてだった私たちの世代とは全く違う。この感覚は、とても興味深かったです。現在は、そんなサバサバした時代ですから、「素顔のままで」くらい密度の高い、女性2人きりの友情をテーマに描くのは、非常に難しいかもしれません。でも、だからこそ私はあえて今「同性」「2人」「友情」という、制限された関係性のドラマに惹かれます。男友達2人が同じ場所でしゃべるシーンがひたすら続く映画でドラマにもなった「セトウツミ」も面白かったですし、近い距離の友情が見たい。もし、新時代の「素顔のままで」が作られれば、どんな形になるのか興味があります。

ミュージシャンのドラマ・映画への参加


―「素顔のままで」は、中森明菜さんが休養から復帰し、女優として開花した作品でした。

中森明菜さんは、「素顔のままで」が連続ドラマ初主演ですが、やさぐれてはいるけど情が深い女の子を見事に演じていましたよね。休養からの復帰後、再ブレイクのきっかけにもなりました。あのドラマに限っては、彼女が主題歌を歌わずカンナという役柄に徹底したのもよかったと思います。米米クラブの歌った「君がいるだけで」も素晴らしかったですし。この頃は音楽畑の方のドラマ出演が多いですよね。1992年は中森明菜さんのほかに、「あの日の僕をさがして」の永井真理子さん、「十年愛」の大江千里さんも出色でした。ドラマではなく映画ですが、小田和正さんの監督映画「いつかどこかで」が公開されたのも、この年。2年前の1990年には、桑田佳祐さんも「稲村ジェーン」で初監督をしています。この映画に触発され、その翌年に北野武さんが「あの夏、いちばん静かな海。」を撮ったというのも興味深い流れですよね。

私はミュージシャンや芸人などがドラマや映画に出演するのは大賛成です。「表現者」ですから。大島渚さんは「役者だけやっている人間をキャスティングするのが一番面白くない」と言っていたそうで、「戦場のメリークリスマス」では実際、デビット・ボウイや坂本龍一さん、ビートたけしさんなど、別ジャンルで活躍されている方を積極的にキャスティングしています。もちろん俳優を否定しているわけではなくて、人を感動させる圧倒的な存在感は、技術を超えたところにある、ということではないでしょうか。一言で言えば「華がある」ということです。しかも、これは努力で手に入れられるものではないし、どのタイミングで咲くかもわからない。時代に受け入れられた選ばれし人ですよね。私も教え子に「どうやったら華を身につけられますか」と聞かれることがあるのですが、正直に「それは誰にもわからん」と答えています(笑)。

唐沢寿明に感じる「覚悟」


―では、この年に「華」を感じた俳優さんといえば。

「愛という名のもとに」の唐沢寿明さんです。彼はこの1年前、田中美佐子さん主演の「結婚の理想と現実」で、パジェロに乗って白いポロシャツに襟を立てて…と、絵に描いたような爽やか青年を演じていたんですね。「今、ここで賭けなければ。自分がやりたいことはこれしかない」そんな覚悟を感じました。本来の野心家な性格とは違うキャラを、徹底してイメージづけて打って出た。そして「愛という名のもとに」で主役として眩しいほどの存在感を見せつけました。下積みが長かった彼の開花は、本当に眩しかったです。今年8月、日本テレビの「24時間テレビ」内で放送されたスペシャルドラマ「石ノ森章太郎物語」ではショッカーを演じていましたが、これは彼が下積み時代、実際にヒーローショーでショッカー役をやっていたことを受けての配役だったんですね。とても感慨深かったです。今ではもうすっかり日本を代表する名俳優の一人で、今年10月からはテレビ東京で連続ドラマ「ハラスメントゲーム」に主演されます。「おとなのいじめ」がテーマ、しかも脚本は「白い巨塔」の井上由美子さん。骨太の作品に仕上がるのではないでしょうか。期待が膨らみます。

放送後のラブコールから広がった「北の国から」の20年間


―そしてこの年スペシャルドラマでは、倉本聰さんの「北の国から’92巣立ち」が放送されています。

「北の国から」は、東京から故郷の北海道に帰郷した田中邦衛さん演じる黒板五郎、そして子どもの純と蛍の生活を描いた名作です。「巣立ち」では、成長して東京に行った純が、あろうことか裕木奈江さん演じる松田タマコを身ごもらせてしまう。それを知った五郎さんがお詫びに行くのですが、お金がないので、自分の畑で採れたカボチャを両手で持ちきれないほど持っていくんです。そして畳に頭をすりつけて謝るわけですが、タマコの叔父役である菅原文太さんは、こう言い放つんです。

「誠意ってなにかね」

この重さ。いまだに菅原文太さんの顔、田中邦衛さんの土下座など、あのシーンがまるごと頭に浮かびます(思わず涙)。すいません、今思い出しても泣けますね…。名セリフのパワーはこういうところだと思います。視聴して感動したそのリアルタイムに、時間と全感覚が一気に引き戻されるといいますか。

「北の国から」は今でこそ日本ドラマ史上に残る名作として必ず名前が挙がりますが、1981年から半年間、連続ドラマとして放送された時は平均視聴率20%を超えていないんです。ところが、ドラマが終わったあとの反応が凄かった。「終わらないで!」と書かれたハガキやFAXが続々届き、電話が鳴り響いたといいます。最近では、ドラマの放送前にすでに映画化が決まっている、というパターンも多いですが、「北の国から」はその逆。視聴者の熱い支持が継続を決め、その後20年間も、スペシャルドラマが放送されるたびに、吉岡秀隆さんや中嶋朋子さんの成長と、純と蛍の成長をリンクして見ることができた。こんなドラマは他にありませんよね。

冬彦さんの「んんん~!」の奥にある純愛


「北の国から」とはまたパターンが違いますが、「ずっとあなたが好きだった」も視聴者がドラマを膨らませた作品でしょう。脚本の君塚良一さんは、このドラマはもともとロミオとジュリエットのような悲恋を描くつもりだったというのは有名なエピソードです。一世を風靡した冬彦さん役の佐野史郎さんも後日談として語っていますが、最初はそんなに出番が多くなく、極端なマザコン設定はなかったといいます。それが、視聴者の反応が大きく、どんどん出番が増えていった。つまり、視聴者の反応が「冬彦さん」をあそこまで育てていったんですね。今となっては、冬彦さんが木馬に乗ったり、「んんんー!」と下唇を出してグズったりするシーンばかりが切り取られますが、全体を通して見返すと、ものすごくしっかりした純愛ドラマです。例えば「半沢直樹」もそうなんです。「倍返しだ!」で視聴者は、待ってましたと盛り上がったし、今でもあの台詞でドラマを思い出します。しかしそれは、そこに至るまでのドラマが丁寧に描いてあるからこそキャッチーなんです。どんどんデフォルメされて、骨子のドラマ性が崩れていけば、視聴者は賢いのですぐ離れていきます。「伝説」として残る名作は、その部分がきちんと作られていたということです。

ただ、狙い通りにヒットするというケースは稀です。発信側に立った人なら誰でも覚えがあることだと思いますが、力を入れずに投げたものが、高評価を受けることもある。かと思えば、魂を込め「これはいける!」と自信満々で書いたセリフや作品が、誰にも響かず、しぼんでいくこともしょっちゅうです。どちらもすごく複雑な気分になりますが、このジレンマは絶対に解消できません。これは逆に見れば、受け手と作り手の化学反応で新しい世界を作ることができる、という可能性でもあります。時代と環境に影響されながら、思わぬ成長を遂げていき、作り手の思惑とは別のところで驚くようなムーブメントが起きる。これこそメディアの面白さといえるでしょう。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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