連載第17回 2005年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

東京ウォーカー(全国版)

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


いいかげん、目覚めなさい。


郵政民営化法案が成立し、エロかわいいファッションが大ヒットした2005年。テレビでは堀江貴文が「想定内」を連発して流行語になり、アニメ「ドラえもん」は26年ぶりに声優を一新。オタク文化が大流行し、秋葉原にはメイド喫茶が立ち並び、「お帰りなさいませ、ご主人様!」という声が飛び交った。影山貴彦氏が「2005年はドラマも豊作で、語りたい作品はたくさんありますが、まずは平成ドラマを代表する1本について語りましょう」と数多ある名作の中から選んだドラマとは?

ネット社会はどう変わったか。「電車男」から「3年A組-今から皆さんは、人質です-」へ


―この年、平成という時代を象徴する、エポックメイキング的なドラマがあるということですが。

「電車男」ですね。これは見事に当時の流行を詰め込んだドラマでした。映画は山田孝之さんと中谷美紀さん、ドラマは伊藤淳史さんと伊東美咲さんでした。アニメオタクの冴えない主人公が、電車で酔っ払いに絡まれた美しい女性を助ける。そのお礼にエルメスのカップが送られてきて、いい感じで距離が縮まるのですが、主人公はとんでもなく不器用。自分に自信が持てなくて、なかなか心のうちを言い出せない……。流れは2004年の大ヒット作「世界の中心で、愛をさけぶ」と共通するところがありますよね。どちらもテーマは〝純愛〟です。ただ「電車男」は、その恋を面識のないネット掲示板の仲間がコメントを入れて応援する。当時の世相と文化がギュッと詰め込まれていました。だからこそ、この作品に特別な懐かしさを感じるのだと思います。

「電車男」のもう一つの主役が「2ちゃんねる」。1999年に開設されましたが、匿名で何を書き込んでもいいという、これまでのモラルから外れた発想でした。実際殺人予告などトラブルの連続でしたし、人の悪口を垂れ流す場所というイメージが強かった。しかし、「電車男」での使われ方は全く違いました。ああ、こんなプラスの側面も持っていたのだな、と驚きましたね。「掲示板、しかも匿名という交流手段に拒否感を抱いていたけれど、このドラマによって親近感を持った」という人もいるのではないでしょうか。また、今までは日陰の立場という印象が強かったオタクという存在が、このドラマによって肯定的に認知されたのも大きいです。

とても興味深いのが、この「電車男」と、今年冬クールに放送され、SNS社会に大きな警鐘を鳴らして話題となったドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」を、ともに同じ脚本家、武藤将吾さんが手掛けているということです。「3年A組」については、後にもう一度語りたいと思いますが、「電車男」は原作があるとはいえ、ネット時代のターニングポイントをしっかりと捉え、見事に視聴者にメッセージを届けた、素晴らしい才能だと思います

この頃からネットでコミュニケーションの仕方が変わったことによって、恋愛も社会もエンタメも変わりました。ケータイ小説やブログがそのまま書籍化され、それらを原作としたドラマも増えていきます。2005年には「電車男」以外にも、ブログで人気を博した「鬼嫁日記」が、観月ありささんの主演でドラマ化されています。実は私がブログを始めたのも、この頃なんです。きっかけは当時〝ブログの女王〟と呼ばれていた眞鍋かをりさんのブログ「眞鍋かをりのココだけの話」(2004年に開設)でした。驚きましたよね、すごいアピールの仕方だと。これからは自分から発信できる人が活躍する時代だ、と確信しました。

詰め込み教育に警鐘を鳴らした「女王の教室」


この年は、社会に馴染めない存在への温かい眼差しを感じられたドラマが多いのも特徴ですね。オタクが肯定的に受け入れられるようになった世相も、少なからず関係しているのかもしれません。「野ブタ。をプロデュース」然り「ドラゴン桜」然り。強い劣等感を持っていた若者が長所を自覚し、輝いていきます。しかも苦労を重ねて開花させるのではなく、要領の良い者、方法論をわかっている者がフォローして目覚めさせる設定が多かったのも、当時の世相を感じます。「ドラゴン桜」は受験のヒントが盛り込まれていて、雑学的な面白さもありました。

―目覚めさせるといえば、あの問題作も2005年でした。

「女王の教室」ですね! 私が遊川和彦さん脚本の中で一番好きなドラマです。天海祐希さん演じる、児童の将来のため鬼教師になることを決めた亜久津真矢が、生徒に自分で考える大切さをリアルに体験させ、厳しく追及していくという、挑戦的な一作でした。遊川作品は奇をてらっているように見えて、実は社会に対してのアンチテーゼを剛速球のストレートで発信しています。2011年に大ヒットした「家政婦のミタ」、今年の冬ドラマ「ハケン占い師アタル」など、メッセージが直球だからこそ、時に目をそむけたくなったり、痛みを伴ったり、視聴者の反応が極端になるのだと思います。

「女王の教室」で神田和美を演じた志田未来さんが、「ハケン占い師アタル」で神田和実という役名を演じたのは大きな話題になりました。「女王の教室」では「和美」、「アタル」は「和実」。キャラクターが、人間的にいろいろ実らせたという意味があるのだと思います。同一人物と捉えていいでしょうね。志田さんのような個性を持つ俳優は、いるようでなかなかいないものです。2作ともモジモジしながらも人をつなぎ、本質を知るきっかけとなる。とても難しい役割ですが、彼女の持つ幼さと信頼感の絶妙なバランスが、それをアリにしている。すごい存在感です。「女王の教室」は日本テレビ土曜の21時、「ハケン占い師アタル」はテレビ朝日の木曜21時。局が違っても、脚本家と制作プロダクション(5年D組)が一緒だからこそできた、粋なキャスティングと演出でしたね。

ドラマというフィクションの世界で「危険」を仮想体験する


「女王の教室」は鬼教師が児童たちに問題と厳しく対峙させましたが、これと同じアプローチを感じたのが、今年冬の話題作「3年A組-今から皆さんは、人質です-」です。先ほどお話しした通り、「3年A組」の脚本は「電車男」の武藤将吾さん。「電車男」でネットによるコミュニケーションの可能性を、素晴らしいテンポで描き、それから14年が経った今、「3年A組」でネットやSNS社会への問題を突き付けてきました。確かに「電車男」を見ていた頃は、面識のない人と簡単に意見交換できるだけで新鮮だったのが、いまやどこにいても検索して情報を得ることができるし、メッセージは即リアクションがないと不満にさえ思う。これ以上、情報のやり取りが速くなることはないでしょう。だからこそ、ネットとの距離を、どう取るのか。一度立ち止まって付き合い方を考えなくてはいけない。そんな時代を迎えていると思います。

「3年A組」はテレビドラマで、テレビと隣接するメディアであるネットの危険性を訴えたというのも大きいポイントです。足を引っ張るとか、批判とかではないんです。1998年のアメリカ映画で「トゥルーマン・ショー」というのがありましたが、あの作品でも演出がどんどん過激になっていくテレビショーへの、警告のようなものを感じました。このように隣接するメディアが、その楽しさや便利さを認めつつも、危険性を視聴者に提示する。これはとても大切なことだと思うんです。時代の問題点を想像して膨らませ、視聴者へ仮想的にそれを見せつける。フィクションであぶり出されるリアルもあるということです。「3年A組」のようなメッセージ性の強いドラマが作られ、さらには遊川さんのように、少々過激なアプローチをする脚本家の方たちもちゃんと第一線で活躍できている。そんな今のドラマ業界は、まだまだ希望を感じます。言葉狩りや炎上を怖がり、こういった作品が淘汰されるようになったら、時代は黄信号です。「女王の教室」の決め台詞は「いいかげん、目覚めなさい」。そして「3年A組」は「Let's think」。自分の頭で考えることが一番大切というのは、いつの時代も変わらないですね。

二宮和也が醸し出す「昭和の香り」


―「電車男」が放送された木曜劇場は、王道のホームドラマも多くヒットしています。

私は寺尾聰さんと二宮和也さんが共演した「優しい時間」が大好きでしたね。平原綾香さんの唄う主題歌「明日」もよかった! 脚本を担当された倉本聰さんが、主題歌はこの曲しかない、と即座に決定したというエピソードも納得です。

物語は、寺尾さん演じるエリート商社マンの湧井勇吉が主役です。妻の死を機に会社を退社した勇吉が、富良野に移住して喫茶店「森の時計」を開く。そして仲違いした息子・拓郎と和解するまでが描かれます。寺尾さんはもちろんですが、拓郎を演じた二宮さんがとにかく素晴らしい。倉本聰さんが描きたい物語をわかり過ぎている、というくらい、ドラマの世界に溶け込んでいました。二宮さんの持つ「あたたかな昭和の匂い」は、どこからくるのでしょうね。主役でも脇役でも、作品を文学的にするといいますか、豊かな説得力を出す役者さんです。

―この年は松本潤さんの「花より男子」も大ヒットしました。嵐のメンバーが続々と頭角を現し始めた時期ともいえますね。

そうですね。嵐は1月27日に、2020年での活動休止を発表しました。もちろん寂しいですが、彼らがカジュアルな感じで明るく、自分たちの言葉で語った記者会見は素晴らしかった。早々に会見を打ち切ることもなく、見事な役割分担でしっかりと受け応えした5人はパーフェクトでした。座り会見ではなく立ったまま、しかも明るい服装を選ぶなど、マネージメントもとてもきちんとできていて、いい休止宣言の形を導き出せたと思います。個人での活躍、そして何年後かに期待される再始動がとても楽しみです。最新情報では、松本潤さんは、北海道150年記念ドラマ「永遠のニㇱパ」が2019年春に放送予定。幕末の蝦夷地を調査し、北海道の命名者となった松浦武四郎の話です。脚本は大石静さん。これは見応えがありそうです!

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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