海外進出の花火ショー「STAR ISLAND」ヒットの背景、拡大・縮小の二極化進む”花火大会の今”

東京ウォーカー(全国版)

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STAR ISLANDの仕掛け人、エイベックス・エンタテインメントの坂本茂義氏、クリエイティブディレクター小橋賢児氏、総合演出の潤間大仁氏


日本の夏の風物詩である花火に変化が起きている。長年続いた花火大会の開催中止や規模縮小が増える一方、音楽フェスやグルメイベントと融合した新興の花火が人気を集めつつある。その中でも象徴的なイベントが、2017年にスタートした「STAR ISLAND」だ。日本の伝統花火と、3Dサウンドやライティングなどの最先端テクノロジー、ショーパフォーマンスを組み合わせ、無料観覧エリアを設けず完全有料制を取り入れているのが特徴で、毎年人気を伸ばしている。無料で楽しむイメージが根強い花火にあって、その対極に位置する完全有料の花火ショーが好調な理由はなにか。STAR ISLANDのクリエイティブディレクターを務める小橋賢児氏、STAR ISLAND事業プロデューサーのエイベックス・エンタテインメントの坂本茂義氏、STAR ISLAND総合演出の潤間大仁氏の3人に話を聞いた。

初開催からチケット完売、わずか3年で海外進出を果たす


2018年のSTAR ISLANDの様子


大規模な花火大会と規模を縮小する花火大会、その二極化が進む中にあって、「STAR ISLAND」の出現は鮮烈なものだった。未来型花火エンターテインメントを掲げ、花火大会の常識に反し入場は完全有料制を採用。最も安い席種でもチケット代は1人8000円からであるにもかかわらず、2017年、2018年ともに1万5000枚のチケットは完売した。2018年末には早くも海外進出を果たし、シンガポールのマリーナ・ベイを舞台に約2万1000席が完売、86か国の人々が来場するなど好調だ。 この成功を受け、サウジアラビアでも 「STAR ISLAND」の開催に基本合意。その他にも数か国からSTAR ISLAND実施のオファーが寄せられているなど、国内だけでなく海外からも注目を浴びる。

【画像】86カ国の人々が観覧したシンガポール開催の STAR ISLAND


3年目となる今年の東京開催は、STAR ISLANDの会場はお台場から豊洲ぐるり公園へ移転し、会場の規模はお台場に比べ約1.5倍に拡張。打ち上げられる花火との距離も、観覧席から約900mの距離から約200mに近づき、さらに迫力あるパフォーマンスが用意されている。夏の大型イベントが数多く開催される中にあって、わずか3年で世界規模へと成長した勢いは本物だ。

来場者数で競わず有料席のみ、「伝統を守るには、アップデートが必要」


これまでの花火大会の常識からかけ離れたイベントとなった「STAR ISLAND」。同イベントを作り上げた小橋賢児氏は、世界最大級のダンスミュージックイベント「ULTRA MUSIC FESTIVAL」の日本上陸の立役者だ。日本版である「ULTRA JAPAN」では、DJプレイが最高潮に盛り上がるクライマックスの時間帯に、花火を上げることで会場の一体感を演出している。小橋氏は、同イベントに携わった花火師との会話が、STAR ISLANDが誕生したきっかけの1つだったと話す。

「花火師さんとのやり取りの中で、無料の花火大会が近年、協賛集めや警備コストの増大などで立ち行かなくなっていることを知りました。ですが、これまで無料だったイベントをただ有料にするというだけでは、客の立場からからすれば納得できません。花火という伝統を続けていくからには、お金を払ってでも見たい新たな体験に花火をアップデートしたいという思いがありました」(小橋氏)

既存の花火大会でも有料観覧席は普及しつつあるが、小橋氏は花火大会の有料化の形に違和感を持った。同時に、東京の摩天楼の美しさのように、あって当たり前のものとされている景観にも着目。「STAR ISLAND」は、東京湾と都心の摩天楼という光景に、花火をはじめとする様々な演出を加えるという、従来の花火大会からすれば異端ともいえる構成となった。

STAR ISLANDのクリエイティブディレクターを務める小橋賢児氏


花火だけではない総合的な演出を体験してもらうという意図から、来場者の上限を設定。2019年は会場をお台場から豊洲ぐるり公園に移したことで会場規模は拡張し、来場者の上限を設けつつも規模・キャパシティともに拡大している。

「数十万人という人が来たらそれはうれしいですが、その人数に東京湾を一望できるナイトロケーションや、3Dサウンドやパフォーマンスを合わせた総合的な演出を見せることは難しい」と坂本氏が語るように、既存の大規模な花火大会と動員数で競うことはしない。コンサートや舞台の観劇のように、提供するコンテンツをすべて楽しめることを前提としたイベント運営は、従来型の花火大会と一線を画している。

花火をショーの“名脇役”に 複合的な演出が人気


2019年のSTAR ISLANDは“2019: A SPACE ODYSSEY”がテーマ


イベントそのものも、花火をメインとして打ち出す構成ではない。競技花火大会をはじめ、日本の花火大会は花火そのものの美しさや芸術性をウリにしたものが主流だ。だがSTAR ISLANDでは、花火だけでなく、水域でのパフォーマンスや、ポールダンサーやストリート、ヒップホップにコンテンポラリといった様々なジャンルのダンサー、さらにSTAR ISLAND 2019ではロンドンオリンピックにフェアリージャパンとして出場した新体操選手を含めた新体操チームや、BMX、スティルトのパフォーマンスが新たに追加、多岐に渡るパフォーマーが出演する。いずれも、単体のショーの主役として成立するコンテンツばかりだ。

それらを「STAR ISLAND」という1つの舞台の演出として使うことで、花火単体での楽しみ方とは違った新たな魅力を生み出すことに繋がっている。イベント名に「花火」を冠していないのも、花火だけがメインコンテンツではないという思惑からだ。

STAR ISLAND総合演出の潤間大仁氏


7月20日(土)に開催される「STAR ISLAND 2019」のテーマは“2019: A SPACE ODYSSEY”。開催日のちょうど50年前となる1969年7月20日がアポロ11号が初めて月面着陸を成功させた歴史的な日であることにちなみ、宇宙への航海をしているような興奮を体感してほしいという思いを込めているという。こうしたテーマを元に、演出のすべてに一貫したストーリー性を持たせているところが既存の花火大会と明確に違う部分だと潤間氏は話す。

「まず伝えたいメッセージがあり、メッセージを伝えるためのストーリーを3人で考え、花火をはじめとする演出をあてはめて作っています。各パートごとに副題をつけて、グランドフィナーレでメッセージを伝えたい。構成としてはミュージカルに近い部分があると思います」(潤間さん)

伝統花火の魅力を「翻訳」し成功、シンガポールやサウジアラビアでも開催へ


初の海外開催となった「STAR ISLAND SINGAPORE COUNTDOWN EDITION」の様子


こうした独創的とも思える取り組みの裏には、日本の伝統行事である花火を残していこうという思いがあるという。「海外では花火大会のような長時間花火を鑑賞する文化があまりなく、花火は特殊効果の一部でしかないんです。そうしたところに『玉屋、鍵屋』の花火大会をそのまま持っていってもうまくいかない。本当に伝統を残していくには、今の時代にフィットすると同時に、グローバルに伝わる“翻訳”がないと伝わらないんじゃないかという思いがありました」(小橋氏)

「STAR ISLAND」が音楽やパフォーマンス、花火のコラボレーションを軸に据えた背景には、当初から海外進出という目論見もあった。その狙い通り、シンガポールで行われた「STAR ISLAND SINGAPORE COUNTDOWN EDITION」は初の海外開催にもかかわらず成功。マリーナ・ベイの会場外にも約50万人が訪れた。この成功を受け、シンガポールでは2020年末まで3年連続で「STAR ISLAND」の開催が決定。花火を軸にした複合コンテンツが世界的に通用することを知らしめた。

「世界共通で感動は作れるんだなと思いましたし、『STAR ISLAND』を通して花火を体感したら、今度は日本の伝統的な花火を掘り下げに行く文脈はあると思います」と小橋氏が語るように、既存の花火大会とSTAR ISLANDが別種のエンターテインメントであるからこそ、共存共栄の可能性があると言える。

エイベックス・エンタテインメントの坂本茂義氏


「STAR ISLAND」は、これまでの花火にない総合的なショーとしての演出があるからこそ、多くの花火大会が開催される夏の東京にあっても支持を得るに至っている。だが一方で、言葉や映像ではなかなかイベントの魅力を伝えきれないと坂本氏は話す。

「花火をはじめ、クリエイターみんなで作り上げたSTAR ISLANDの持つ圧倒的な没入感は、どうしてもその場で体験しないと分からないんです。今はネットでなんでも見られる時代になっているので、STAR ISLANDも『まあこんなものだよね』と体験したつもりになっている人が多いと思います。でも、実際に会場にいたら、周囲全てであらゆることが勃発している。だから、少しでも興味を持ったならぜひ来てもらいたいですね」(坂本氏)

国分洋平

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