【シン・ゴジラ連載Vol.11】「シン・ゴジラ」に見る伊福部音楽

東京ウォーカー

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「ゴジラ」シリーズの音楽を支えた立役者といえば、伊福部 昭、その人。彼の生み出したゴジラ音楽が「シン・ゴジラ」で再び目覚める!

「シン・ゴジラ」の面白さは仕込まれた数々のネタにあり


映画「シン・ゴジラ」よりTM&(C)TOHO CO., LTD.


庵野秀明は、引用を得意とする監督だ。「シン・ゴジラ」もまたしかりで、見返せば見返すほど、新たなネタを作中の至るところから見出すことができる。たとえば、本作の麻薬的ともいえるハイテンポな演出は、岡本喜八監督(劇中、牧五郎役で写真出演もしている)の映画「日本のいちばん長い日」が、よく引き合いに出されるが、大なり小なり実に多くのネタが仕込まれており、そのことがまたリピーターを生む要因になっているとも伝え聞く。

さて、その引用は映像面に留まらず、音楽においても顕著である。本作で「巨大不明生物統合対策本部のテーマ」として、様々なアレンジで聴かれる曲は、「新世紀エヴァンゲリオン」のファンであれば、一聴して「DECISIVE BATTLE」であると気付いたことと思う。だが、これ自体、映画「007 ロシアより愛をこめて」の「007 Takes The Lektor」のテンプトラックで、しかと元ネタが存在する。庵野作品では「エヴァ」以前から、こうしたテンプトラックが巧妙に行われてきた。

歴代ゴジラ映画、東宝特撮からチョイスされた伊福部音楽たち


一方、ゴジラシリーズの音楽といえば、伊福部昭を忘れることができないが、伊福部音楽に関しては、全く変えることなく、そのまま用いられている。それもそのはずだ。本作がゴジラ映画、東宝特撮映画である以上、伊福部の音楽をいじる必要は全くないからである。本編では「ゴジラ」、「キングコング対ゴジラ」、「メカゴジラの逆襲」、「宇宙大戦争」から4曲が使用されたが、そのいずれもが脚本段階で指定されていたという。

ここからは劇中で使用された楽曲について、順を追って辿たどってみよう。まず「ゴジラ」の「ゴジラ上陸」(M14)は、初代ゴジラのライトモティーフで、本作ではゴジラ第3形態のテーマとして用いられている。続いて「キングコング対ゴジラ」から「ゴジラの恐怖」(M16)と「メカゴジラの逆襲」から「ゴジラ登場」(М13)の2曲がほぼ連続して、鎌倉から再上陸した第4形態のテーマとして選曲。なお、前者は複数作品で使われてきたゴジラのライトモティーフ、後者は有名な「ドシラドシラ」のテーマで、ゴジラを代表する2曲がシン・ゴジラの標準的な形態を括った形である。そしてクライマックスの「ヤシオリ作戦」の口火を切る形で選曲されたのが「宇宙大戦争」から「宇宙大戦争」(М32)、俗に「宇宙大戦争マーチ」と呼ばれる楽曲だ。「宇宙大戦争」では地球侵略を狙うナタール人の円盤群と地球から飛び立った宇宙戦闘機隊との一大攻防戦に付けられた音楽であるが、それまでのリアルな事象の積み重ねから一転、多分に空想的な「ヤシオリ作戦」に相応しい選曲と言えよう。さらに伊福部音楽の特徴ともいえる、オスティート(執拗な繰り返し)が生み出す高揚感もまたカタルシスを増幅させている。エンドロールに関しては全曲、伊福部音楽で構成されており、「ゴジラ」、「三大怪獣地球最大の決戦」、「怪獣大戦争」、「ゴジラVSメカゴジラ」の4作品からいずれもタイトル音楽が選ばれている。

半世紀を経ても色褪せることのないモノラル録音のサウンドトラック


【写真を見る】映画「シン・ゴジラ」よりTM&(C)TOHO CO., LTD.


本作で使用された音源にも注目したい。当時のサウンドトラックはモノラル録音なので、通常であればスコアを用いて再演奏する手段がとられるはずだ。幸いにも伊福部は、ほぼ全ての作品のスコアを残している。しかし、庵野監督の耳に焼き付いていたのは、その演奏(当然ミスもある)も含めたところでの「伊福部音楽」だったのだろう。単にスタジオでオーケストラを鳴らせば済む問題ではない。特に元のサウンドトラックは、フィルムの画に合わせて演奏されており、テンポが一定していない。そこで鷺巣詩郎は、音楽編集ソフト、protools を用いて、微妙に変わるテンポを全て解析した上で、ステレオ録音で完コピ演奏した。これは全くもって気が遠くなる作業だったことは想像に難くない。だが、最終的には庵野監督の判断により、これら再現された音源はすべてキャンセルされ、オリジナルのサウンドトラックがそのまま使われる結果となった。5.1CH環境の整ったシネコン全盛の時代に、半世紀も前のモノラル音源が新作映画で鳴り響く機会も稀有な例だと思うが、オリジナルのインパクトは、それほどまでに捨て難いものがあるのだ。ただし、平成になってからの「ゴジラVSメカゴジラ」だけは唯一、最初からステレオ録音されている。あくまで主観だが、劇場でエンドロールを眺めつつ、モノラルからステレオに切り替わる瞬間、あたかも現実に引き戻されるかのような錯覚を覚えるのは筆者だけであろうか。

なお、本作での伊福部音楽の使用は、公開前は秘匿事項として伏せられており、果たして伊福部音楽が使用されるか否かは、ファンの間では大きな関心事のひとつでもあった。その賛否はともかく、映画音楽は作品の内容にまで干渉することはできないので、仮に全てが伊福部音楽、すべてが鷺巣音楽、そのいずれであっても「シン・ゴジラ」が傑作であることには変わりはなかったであろう。しかし本作が様々なネタの集合体であることは先にも述べた。そう、伊福部音楽もまたそれらを形成する、欠かすことのできないピースのひとつなのだ。

【トヨタトモヒサ(とよたともひさ)●フリーライター。「宇宙船」「特撮秘宝」などで活動中。伊福部関連は、2003年に伊福部昭監修の元、コンサートプログラム用に年譜を編纂。他に「文藝別冊 伊福部昭」の協力など】

編集部

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