第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞したデビュー作「池袋ウエストゲートパーク」が2000年春、長瀬智也主演でドラマ化され、一躍注目を集めた石田衣良。番組放送中に、続編となる「少年計数機-池袋ウエストゲートパークII」を、今年2月にはその外伝「赤・黒」を発表。さらに7月には大学生の主人公がデートクラブで女性に身体を売るという設定と、官能的なセックス描写で話題になった「娼年」を刊行し、新しい読者の開拓にも成功している。
まさに右肩上がりの人気上昇中である著者が本書で描いたのは、なんと経済サスペンス。一留してそこそこの私大を卒業したものの、就職浪人し、仕送り+中途半端なパチプロとして生計をたてていたおれ=白戸則道はある日パチンコ屋の前でひとりの老人と出会う。後日そのジジイ=小塚泰造にスカウトされて月給30万でアシスタントとして働くことになった「おれ」は、仕事の内容を聞いて驚く。
(1)毎朝新聞を読んで気になることは切り抜きスクラップすること。
(2)毎朝ある特定銀行株の前日の終値をノートに記すこと。
ジジイが指示したのは、そのたった2点だけだったのだ。
しかし、当初「それだけで月給30万!」と喜んでいた則道は、しだいにジジイから教わる「マーケット」の魅力と魔力に引き込まれていく。そして明かされる無謀ともいえる計画。大手都市銀行を相手に、ジジイが仕掛けた企みと、その動機、結果は?そこで「おれ」が経験したこととは…?
経済サスペンスとうたわれているだけに、本書には株や市場の知識はもちろん、政治・経済の暗部も記されている。とはいえ、そこは石田衣良。小難しい理論ではなく、素人である「おれ」の体験を回想するという構成で、同じく株知識など何ひとつない読者にもその醍醐味を「体感」させていくのだ。株価の動きを息を詰めて見守る場面などはその緊張がビンビンと伝わってくるため、読んだ後に相当なエネルギーを消費していることに気づく。しかし不思議なことに、それを心地よく感じるのだ。
完全失業率5%という今、マーケット感覚をもつということはもはや投資家や証券会社だけの常識ではなくなっているのかもしれない。不況と呼ばれるこの時代の波に乗るにはどうすればいいのか。おもしろくてためになる、一挙両得の意欲作である。
