ドラマ化され、爆発的ヒットとなった「池袋ウエストゲートパーク」の著者としておなじみの石田衣良さん。「4TEEN」で第129回直木賞を受賞し、最も旬な作家のひとりとして活躍中だ。
取材当日、彼は黒い革ジャンとシルバーアクセサリーを身に着け、颯爽と現れた。全身、自分でコーディネートしたのだという。
「『4TEEN』の時は白いシャツにジーンズというさわやかな格好で取材を受けることが多かったけど、今回は暗い本なのでブラックで統一。表紙のイラストに合わせてアクセサリーはハート(心臓)モチーフにしてみました」
受賞後、50件近い取材をこなしてきた。クラクラしてしまいそうな数だが、それでも毎回、服を選んだり、インタビューを受けるのが楽しかったという。やわらかな笑顔、穏やかな語り口調……。私たちと距離が近いといってはいいすぎかもしれないが、親しみやすいキャラクターなのは確か。
そんな彼の最新作「LAST」にはこれまでの路線とは異なる、ブラック&ダークな短編7作が収録されている。
「あまりにもさわやか、さわやかといわれ続けていると、たまに苦い話が書きたくなるんですよ(笑)。さわやかテイストを求めて買った人に、がっかりしてもらったり、期待を裏切ることが楽しみなんです」
本作では、日本社会をピラミッドにたとえるなら、その一番下のさらに最低ラインで生きている人人が主人公。彼らのほとんどは借金ですべてを失い、犯罪まがいの仕事をしている。「ラストドロー」は盗んだ銀行通帳からお金を引き落とす“出し子”が、「ラストバトル」ではJR新橋駅烏森口で闇金融業者の“看板持ち”が、それぞれ登場する。
「僕、あまり借金をしたことないから実体験ではないんだけど。でも、看板持ちの話を書く時は学生時代にしていたガードマンのバイトを思い出しました。よく雨の中、ずぶぬれで1日中立っていたんですよ。そんな経験もあるし、いつか彼らのようになってしまう可能性もある。けっして人ごとには思えないんです」
不況のニッポンから目をそむけ、ファンタジーを描くことだってできる。でも、それをしないのは作家としての使命感から。
「小説はその時代のレポートだと思う。今の空気感を出して、時代を書き記すことも僕らの仕事だと思うから」
また石田さんの書きたいテーマのひとつに“東京”がある。
「僕、生まれ育った東京が大好きなんです。特に上野とか、新橋とか、さびれた街が好き(笑)。駅がひとつ変わるだけで違う街になるのもおもしろいし、やっぱり時代が濃縮して出るのは都市だと思うから。今後も、東京という街を舞台にした小説を書き続けていきたいと思っています」
