一作ごとに人気上昇中の西加奈子が、初めて地元の大阪を舞台に選んだ作品「通天閣」。執筆のきっかけは、「さくら」の大ヒット後、久々に通天閣へ上った時の不思議な感覚だったという。
「近くに住んでた時、しんどいことがあると上ってた。ただボーっとできる感じが好きで。そのころと景色もなんも変わってないのに、自分の状況だけが全然違うんだと思ったら変やな〜って。その気持ちを違う形にして小説に書きたいなと。それでタイトルも決めて書き始めたころ、リリー(・フランキー)さんの『東京タワー』がドカンと売れたんですよ。みんな、続編と間違えてくれへんかな(笑)」
主人公は、通天閣の見えるミナミで暮らす40代の男と20代の女。2人が見た夢の挿話もはさみつつ、別々の物語が交互に語られる。
「夢のところは、1つだけはウチがホンマに見た夢やけど、それ以外は全部作った話。2人のキャラや状況は夢の内容から決まっていったんです。電車がいつまでも着かないっていう夢を見てるから、目的地のない、行き詰まってる男なんやろうなぁとか。男の人と女の子で似ているのは、“自分は間違ってない。幸せなんだ”って自分に言い聞かせてるところですね」
やがて幸せと思い込むこともできない状況に直面する2人。しかし、冬の夜に通天閣で起きたある珍騒動が小さな奇跡を生み、男と女の未来に優しい光を灯す。
「結局、2人とも自分はなにも変わってない。ちょっとしたきっかけで気持ちが変わっただけ。でも、それでええやんって思う。新しい自分を探すとか言う人がいるけど、自分の体は1つやから、別の自分なんてどこにもいない。変わるのは気持ちだけってことを意識して書きました。2人の気持ちが変わるきっかけのところは、自分でも“いい話やなぁ”って(笑)」
著者ならではの笑いも場面場面にちりばめられたこの作品。主人公たちと同じような悲しみや悩みを抱える人にとっては、気持ちを変えるための“ちょっとしたきっかけ”となるに違いない。
