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連載コラム

毎回、狗飼さんが「誰かに」「何かを」「贈る」をテーマにオリジナルエッセイを発信してくれます。
飾らない言葉のかけらから温かいメッセージを感じてください。

夢の叶った友達にペンをあげる

わたしの職業は作家である。

ものを書き始めてから、もう十数年。人生の随分と長い間を作家として過ごしてしまった。それなのに。ある日、はたと気づいたのだ。わたしには、作家の友人がいない。 いや、出会ったことはある。連絡先を交換したり、メールを打ち合ったり、何度かご飯を食べたり、そういった友達めいたことならした。でも続かない。いつのまにかどちらからともなく連絡を取らなくなり、そしてうやむやに友達関係が解消されてしまう。いや、友達になれないままだ。
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作家以外の友達ならいる。毎日一緒にご飯食べたい友達も、夜中の三時まで語り合える友達も、その人に何かあったら子供を引き取って面倒見ようって覚悟決めている友達もいる。男女年齢問わず。でも作家の友達はいない。物を作る職業の人だって、脚本家とか映画監督とか絵描きとかの友達ならいる。でも作家の友達はいない。普通作家って、いったいどれくらい作家の友達がいるのだ? と聞いてみたいが、まず作家の友達がいないのでリサーチすらできない。

そんなわたしに、はじめての作家友達ができた。


正確には、出会った当初はまだ彼は作家ではなかった。雑誌で賞を取ったことがあり、書いたものがときどき掲載されたりしていたけれど、本を出したことがなかった。それだって、世の中に小説を発表しているんだから立派な作家業だとおもうのだが、彼自身が「まだ俺は作家じゃないから」というので、こちらからはなんとも言えない。

はじめての同業の友達は、やっぱりそれ以外の友達とは違っていて、話をするのがとても楽しい。たとえば「この作家の作品は絶対読んだほうがいい」って本を貸し合って感想を言い合える。物書き的目線での感想だったりするので、ただ面白いとか面白くないとかだけじゃなく、「あれはなかなか売れないだろうねえ」とか、「構成がいい」とか「すぐに映画化されそうだ」とか、あるいは「まさに小説の書き方本どおりだね」とか。「なんとかっていう作家が暴行事件を起こした」とか「あの作家とあの作家は結婚している」とか、下世話だが作家じゃない人たちに言っても「誰?」と言われてしまうような人たちの噂話なんかもできた。


出会ってからほぼ一年。ちゃんと「友達」と言えるペースで会ったり連絡とったり、していた。そんな彼が、ついに本を出版した。「君には渡したいから」買わないでね、と彼は言った。

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本屋に行くたびに彼の本の位置を確認して、写メールを取って送ったりした。はじめて自分が本を出したときのことを、少しだけ思い出した。

彼はそれから数日後、「ありがとう」ってメッセージ入りの本をくれた。

代わりに、というわけじゃないけれど、わたしは彼に「本にサインがしやすいサインペン」をプレゼントした。たくさんの人が君の本を読みますように。著者にサインしてもらいたいと思うくらいに、みんながその本を気に入りますように。それから、君がいつでもサインに快く答えるくらい心が豊かでありますように。そんな気持ちを込めて。

ペンのインクが早くなくなったらいいな。そうしてすぐにゴミになるといい。
ゴミになる日を思いながら人にプレゼントを贈ったのは、はじめてだ。

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PROFILE

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狗飼恭子
KYOKO INUKAI
1974年埼玉県生まれ。92年に第1回TOKYO FM 「LOVE STATION」ショート・ストーリー・グランプリにて佳作受賞。95年に小説第1作『冷蔵庫を壊す』を刊行。著書に『愛のようなもの』『低温火傷(全3巻)』『温室栽愛』『Sea of Dreams 〜シー・オブ・ドリームス〜』など多数。最新作は『国境/太陽』。オフィシャルブログhttp://inuk
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