

現在ロングランヒット中の「アイデン&ティティ」初日舞台あいさつ。長い長い行列が出来たため、急遽屋上を開放して開場を待ってもらうほどの大熱気だった

| 過去の大入り袋ベスト3 |
| ●2004.1.28現在 |
★1位「マトリックス リローデッド」
2003年6月7日〜8月15日

★2位「モンスターズ・インク」
2002年3月2日〜5月7日

★3位「オーシャンズ11」
2002年2月3日〜3月8日

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ムサシノ映画時代から勤めている映写技師の遠藤康雄さん(67)。映写歴40年以上という超ベテラン。バウス1と2は映写機が自動化されていないため、上映時間が重なると劇場間を小走りで移動する。「昔のフィルムは燃えやすかったし、映写室は蒸し暑かった。今はずいぶん楽になりました。苦労といえば、少ない人数でやっているから風邪なんて引いて休んだり出来ないことぐらいかな」と語る


バウス2の隠れ名物・ホットサッポロポテト(¥150)。こーゆーゆるい所もバウスの愛すべきとこ


「アイデン&ティティ」は2月29日までバウス3でレイトショー上映中
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支配人が語る、吉祥寺バウスシアター

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支配人 本田拓夫さん

1944年2月3日、東京都武蔵野市生まれ。’79年に父・實男さんの経営する合資会社武蔵野映画劇場に入社。’84年3月1日、バウスシアターのオープンとともに支配人に。吉祥寺公園通り商店会の会長としても街の活性化に努めている
●好きな映画 素敵なシーンのある作品ならどんなジャンルでも好き
●好きな監督
●好きな俳優 ♂作品に合った役を演じている方 ♀作品に合った役を演じている方 |

「メジャーな作品だけでなく、ミニシアター系、自主映画、コンサート、演劇、寄席など多目的ホールとして活用していただいております。映画館とは人の集まる場所。スクリーンとの対話だけでなく、上演される作品を通して、人と人とが対話できる空間だと考えております。映画館って、とても人間臭い場所でもあるんですよ。5月の『吉祥寺音楽祭』、10月の『吉祥寺アニメワンダーランド』といった地元のお祭りと連動して、それぞれ音楽映画、アニメーションの特集上映を毎年組んでいます。吉祥寺という町とのつながりも大切にしています」

個人経営の小さなシネコンには80年に及ぶ町の文化史が秘められていた

新宿からJR中央線に乗って、18分。吉祥寺駅を降りると南口にはサクラの名所・井の頭公園が広がり、北口(中央口)はおしゃれなカフェや雑貨屋と古くからの飲食店が仲良く混在する商店街となっている。吉祥寺は街全体がアミューズメントパークのような面白さに満ちた町だ。その吉祥寺のメーンストリートといえるサンロード商店街の一番奥に鎮座しているのが、バウスシアター。小さいながらも街のランドマークといった趣きのある劇場なのだ。 吉祥寺の映画館で生まれ育ったというバウスシアター総支配人・本田拓夫さんに大河ロマン“バウス・クロニクル”を語っていただこう。
「’84年にバウスシアターが出来る以前は、吉祥寺ムサシノ映画劇場という名前でした。ムサシノ映画から数えると53年になります。さらに先代の時代をさかのぼると井の頭会館という娯楽場の時代がありました。吉祥寺で初めて映画を上映する施設でした。明治時代で、まだ吉祥寺村と呼ばれていた頃です。それから数えると、81年になりますか。当時は吉祥寺に遊ぶ所がなく、映画のほかに浪曲や浪花節なども上演し、選挙事務所にも使われていました。子供心にも、いろんな方が出入りする場所だったと記憶しています。創業者である先代は活弁士として壇上に上がっていたんですよ。今のバウスシアターを多目的ホールとして設計したのも、井の頭会館という歴史があったからでしょうね」
若者の町として人気の高い吉祥寺だが、その陰には郊外の小さな集落だった吉祥寺村に映画というポップカルチャーをもたらし、定着化させた先代・本田實男さんの体を張った奮闘があったのだ。
トーキーが主流となり實男さんは活弁士を廃業し、映画館の経営に専念。1951年に現在のバウスシアターのある場所に吉祥寺初の洋画上映館であるムサシノ映画劇場を建てる。時は流れ、1980年代。第1次ミニシアターブームの到来。いよいよ支配人に就任した拓夫さんの出番である。
「ムサシノ映画が老朽化し、サンロードも改装するということで思い切って建て直すことにしました。その頃、地元の若者たちに『ロックをやりたいけど、市はホールの使用を許可してくれない』と相談を受けたんです。一度は断わったけど、彼らの熱い気持ちは伝わってきた。それで旧館の最後に、とライブをやったんです。案の定、パトカーが来る騒ぎになりまして(苦笑)。若者がロックも出来ないのか。文化都市として知られる吉祥寺がこれではイカンと思いまして、コンサートも出来る今のバウスシアターに改装したわけです」
バウスシアターのオープンが’84年3月。客席218のバウス1、客席50のバウス2(当初はJAV50)、2000年に客席105のバウス3が加わり、3つを総称して“バウスタウン”と名付けている。バウは船首、スタンは船尾、バウ&スタンで荒波を乗り切る船という意味なのだそうだ。また、演劇用語でカーテンのひだのことをバウシェということにも掛けている。共同経営者で、演劇をこよなく愛した3つ上の兄・耕一さん(’99年に他界)と一緒に練った名前でもあったのだ。 劇場に歴史あり、である。
 音楽とアニメで観客と町を元気に 気取りのない居心地の良さも魅力

さて、バウスシアターは、個人経営の小さなシネコンでもあるわけだが、コンプレックスという言葉を使わずに“バウスタウン”と名付けているところも人間的な温かみを感じさせるではないか。本田支配人にタウンを構成する3つの劇場を解説してもらおう。
「バウス1のスクリーンは可動式で、コンサートや演劇、寄席などのイベントも出来る多目的ホール。音響もコンサート用のPAを設置してあるから、ガンガン鳴らして聴く音楽映画は迫力があります。バウス2は、もともとはJAV50という名前でした。ボクシングのジャブのように小さいながらも小気味よい作品を発掘していこうという考えから付けたんです。50席と小さな空間ですが、スクリーンは映像がもっともきれいに映るパールスクリーンを使用しています。メジャーな作品以外にも、もっといろんな作品を上映していこうということで、2000年にバウス3を増設しました。バウス2と3は威張れる大きさではありませんが、なかには『私の試写室』なんて呼んで通っていただいているお客さまもいらっしゃいます」
オープン当初は「吉祥寺にミニシアターを定着させよう」と意気込み、トーキングヘッズのライブドキュメンタリー「ストップ・メイキング・センス」 (’84)や大林宣彦監督の16ミリ作品「廃市」 (’84)などミニシアター系の話題作を放ってきた。が、どうしても都心の先鋭的なミニシアター館に比べると、郊外という立地上、観客動員で難しいものがある。’95年からは東急系のロードショー館に移行。最近では主にバウス1と3でメジャーなロードショー作品を、バウス2とモーニング&レイトショーの枠でミニシアター系の作品を上映している。
「ロードショー作品で多少余力をつけて、その分ミニシアター系の作品をいろいろ紹介できればよいかなと考えています。やはり映画館はお客さまが集まる場所であることが基本。いくら素晴しい作品だと思って上映しても、人が集まらなくて赤字経営が続いては健全とはいえません。ひとりよがりになってしまいます。頭を柔軟にして、うまく映画館を続けていけば、いずれまた素晴しい作品とも巡り会えるわけですから」
プログラムの選定は、週に1回営業スタッフが中心となったミーティングを開き、固めていくとのこと。若いアルバイトスタッフの意見を採り入れることもある。そして最終決定するのが、総支配人の本田さん。長年映画館を経営してきた商売の勘で、上映のタイミングだけははずさないように配慮しているそうだ。
昨年末から現在もまだロングランヒットを記録している田口トモロヲ監督のホロ苦青春ムービー「アイデン&ティティ」(2003)は同じJR中央線の高円寺が舞台。また、「ストップ・メイキング・センス」やボブ・ディランのカリスマ性がいかんなく記録されている「ラストワルツ」(’78)といった音楽映画を大切に扱い、ヒットさせてきたバウスシアターゆえに、配給先から上映のオファーが来たようだ。
「うれしいことに『アイデン&ティティ』はずいぶんお客さまに来ていただいていますね。音楽性も豊かな作品だし、物語としても面白い。やはり吉祥寺という町には音楽が合うのでしょうね。『ラストワルツ』はバウスでは’88年に初上映したのですが、新宿や渋谷では上映してくれる劇場がないということで回ってきたんです(笑)。『ストップ-』に続いてこの作品がヒットしたことで、バウスは音楽映画に力を入れていこうという流れが出来ました」
音楽映画とともにバウスが力を入れているのが、アニメーション作品。チェコアニメの巨匠カレル・ゼマンを日本で初めて一般上映したほか、キュートな人形アニメ「チェブラーシカ」といった旧ソ連作品も積極的に上映してきた。 「アニメの語源であるanimateは、元気づける、活気づけるという意味。映画館に来られたお客さま、吉祥寺という町をもっと元気にしたい」という本田さんの願いが込められているのだ。映画館とともに人生を歩んできた本田さんだが、最近は寂しさを感じることもあるという。 「以前は映画の上映後に『面白かったよ』なんて私たち映画館の者に声を掛けてくださる方、作品について質問される方が多かったんです。ロビーで話し込んだり、事務所の中まで入ってきて映画談義される人も。お客さまとお話しすることで、こちらも作品の評判が分かるわけですよ。私は映画館で生まれて育った人間。子供の頃から舞台あいさつ、ロケなどに来られた俳優の方たちとも接する機会があったので、映画の世界も特別という意識がないんです。映画館は映画を上映するためだけでなく、人と人とが触れ合う場所だと考えているんですよ」


本田さんの“人との触れ合いを大切に”という想いは、若いスタッフにも伝わっているようだ。バウスシアターのホームページにアクセスすると、掲示板には上映作品を見終わった観客の熱い感想や次回作への期待、豆知識を織り込みながら返答するスタッフのほほえましさを感じさせるやりとりがうかがえる。
また、各国の政府・大使館と提携して、インド映画祭(’88)、アフリカ映画祭(’97)、ロシア映画祭(2003)など、なかなか日本では一般上映される機会の少ない外国フィルムの一大特集上映も行なってきた。これも文化、価値観は違えど、映画を愛するいろんな人たちとの交流を望んでいるからだろう。
「各国の映画祭は、もう採算度外視なんです(苦笑)。哀しいことに、根っから映画好きな映画屋なんですよ。ほんとにもう映画館の支配人として、いろんな事やりました。悔いはありません。ここで生まれたんですから、後はもう少しでも地元のお役に立てればいいなと思いますよ」
メジャー一辺倒でなく、かといって気取り過ぎることもない。そして、こちらが忘れかけた頃に他ではやらないような特集イベントをどーんとやる。なんとマイペースなことか。バウスシアターみたいなヤツが友達だったら、一生付き合いたいと思うタイプだ。普段着で気軽に楽しめることこそ、バウスシアターの一番の魅力ではないだろうか。
●今後のおすすめ作品
「アイデン&ティティ」は2月いっぱいバウス3で続映することが決定。なるべく、長くロングランさせたいとの意向。その一方、2月14日からは「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」、5月中旬にはブラット・ピット主演「トロイ」と大作が待機中。メジャーな作品ばかりかと思えば、2月21日〜3月5日は、ルキノ・ヴィスコンティ監督のミステリー「熊座の淡い星影」(’65年)と「白夜」(’57年)といった極上のクラシック作品も用意している。「3月にはサンロード商店街のアーケードの改装が完成するので、バウスも内装に手を加えようと思います。また『吉祥寺音楽祭』『アニメワンダーランド』の責任者に今年は私が選ばれたので、バウスでもひと味違った特集イベントを今から考えています。楽しみにしていてください」(本田支配人)
(取材・文/長野辰次)
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