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2006.12.15(金)更新
【単独インタビュー】
沖縄を独自の視点で映画の舞台にする中川陽介監督
「真昼ノ星空」と、前作「FIRE!」に秘められた想いを語る
【単独インタビュー】沖縄を独自の視点で映画の舞台にする中川陽介監督「真昼ノ星空」と、前作「FIRE!」に秘められた想いを語る
背が高い中川陽介監督。撮影した那覇の公設市場2階の食堂街でもかなり目立つ存在だった。タイトルの「真昼ノ星空」は、「ヒマラヤでは昼間でも星が見える」という山岳部だった監督の父親の言葉がヒントになっている。しかし、公開後に本当なのか不安になって調べたがわからなかったそう。監督曰く「まぁ、いいかって(笑)」
【単独インタビュー】沖縄を独自の視点で映画の舞台にする中川陽介監督「真昼ノ星空」と、前作「FIRE!」に秘められた想いを語る
「真昼ノ星空」の鈴木京香。ロケ場所選びにこだわる中川監督は、常に方位磁石を持っている。気に入った場所があると、その場所に俳優が立った時に、どんな時間にどんな光線が入るかを調べるのだそう。ちなみにココは沖縄市の照屋1丁目。昔、黒人街だった場所だ。鈴木京香には西日が当たっている。
【単独インタビュー】沖縄を独自の視点で映画の舞台にする中川陽介監督「真昼ノ星空」と、前作「FIRE!」に秘められた想いを語る
「料理を作ったシェフが燃えてくれた」という「真昼ノ星空」の食事シーン。オリオンビールを飲みながら、これでもか、というぐらいの美味しそうな料理の応酬。こんなアタックなら女性も大歓迎かも
【単独インタビュー】沖縄を独自の視点で映画の舞台にする中川陽介監督「真昼ノ星空」と、前作「FIRE!」に秘められた想いを語る
映画「FIRE!」のライブシーン。唄っているのがシバリエ。2007年1月24日、最初にして最後の彼女のソロ・アルバム「横顔」(CD/ハピネット 2,800円・税抜)が発売される。沢田穣治プロデュースで、そうそうたるミュージシャンが参加。アコースティックな曲から、音響派っぽいナンバー、ブラジリアン・サウンド、中国語で歌われるアジアン・トラッド風の曲まで網羅。豊かな音世界が広がる
【単独インタビュー】沖縄を独自の視点で映画の舞台にする中川陽介監督「真昼ノ星空」と、前作「FIRE!」に秘められた想いを語る
取材に同行していた沢田穣治。「真昼ノ星空」「FIRE!」など中川作品の音楽を担当。ショーロクラブのコントラバスとして知られているが、ミュージカル、演劇、ダンスなど幅広く音楽活動を展開。小沢昭一、バッファロードーター、ポラリス、Jimama他、多数のアーティストのアレンジ、サウンドプロデュースなどを行っている。「中川監督の映画は観る側が考えなきゃあかん。受動的な観方しかできない日本映画ばかりの中で、監督の映画は観る側が参加できるのが魅力なんよ」とのこと
【中川陽介 プロフィール】
1961年東京生まれ。武蔵大学経済学部を卒業後、出版社SSCを経て、FMラジオ番組やビデオプログラムの監督・プロデュースを行う。1995年、東風創作社を設立。映画「青い魚」('98)を監督・脚本。ベルリン映画祭ヤングフォーラム正式出品作品に選ばれる。2作目の「Departure」('00)も同映画祭ヤングフォーラム正式出品作品となり、サンダンス・NHK国際映像作家賞優秀賞を獲得。その後「FIRE!」('02)を製作。2006年に「真昼ノ星空」('04)で3度目のベルリン映画祭ヤングフォーラム正式出品作品に選ばれるという快挙を成し遂げる

【真昼ノ星空 STAFF&CAST】
監督・脚本:中川陽介 音楽:沢田穣治 出演:鈴木京香 ワン・リーホン 香椎由宇 玉城満(2004ホリプロ=スローラーナー)92分

【FIRE! STAFF&CAST】
監督・脚本:中川陽介 音楽:沢田穣治 出演:柴理恵 近藤将人 平敷慶吾 及川仲 玉城満(2002大風)110分

■「真昼ノ星空」「FIRE!」は
12月28日(木)・29日(金)に沖縄市民小劇場あしびなー
1月6日(土)より桜坂劇場にて公開


>> 公式サイト
>> 「桜坂劇場」上映スケジュール
>> 沖縄市民小劇場あしびなー
>> 「真昼ノ星空」作品紹介
>> 「FIRE!」作品紹介
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70年代以降に急激に変化した日本
そこで失われた風景が沖縄にはあった


 ベルリン映画祭で高い評価を受けた「青い魚」('98)以来、沖縄を舞台に映画を撮り続けている中川陽介監督。最新作となる「真昼ノ星空」('04)は、那覇で暮す男女の孤独感と、かすかに心が触れ合っていく喜びをストイックな映像美で綴っている。控えめだが心に残る沢田穣治の音楽も南国都市・那覇にぴったりとハマる。

 中川監督の作品にはいわゆる“沖縄テイスト”、青い海、三線の音…などは登場しない。青い水面はプール、澄んだ空には電線が映っている。古いコンクリートの建物と路地、ざわめく庭の木々…、しかしそれらは沖縄だけが持つ強烈な光と、空気感を見事にとらえている。
「本土が高度成長してた70年初頭に、区画整理が徹底されて、今の日本の風景ができあがった。東京の下町生まれの小説家、池波正太郎が『江戸がなくなっていく、東京がなくなっていく』って言ったんだけど、その頃、沖縄はまだアメリカの占領下にあって手が付けられなかった。負の遺産みたいに残っちゃったんだけど、おかげで美しい70年代が残ってるんです」

 地元沖縄の人にも、新しい発見があるようだ。
「よく言われるんですけど『この道、私、毎日通学します。でも、映画で観るとキレイですね』ってすごく驚かれるの。それは僕が異邦人の目で見てるからで、毎日住んでると見えなくなっちゃうものなんですよ。画面に切り取ると、いかに那覇の街がエキゾチックで美しいか。だからあえて僕は沖縄には住まない。東京で山手線に揺られて暮らしながら、たまに沖縄に来るから『いいなぁ』と思うんです。本当に惚れた女とは結婚しちゃダメ、って感じかな(笑)」
「真昼ノ星空」でしか観られない鈴木京香の姿
3人の俳優が見せるコンビネーション


 「真昼ノ星空」に出演している3人の俳優も魅力的だ。圧倒的な存在感を持つ鈴木京香は、他の映画ではなかった生々しい女の顔を見せる。
「やっぱり場所がそうさせたんじゃないかな。最初、撮影現場の那覇市安里にある、由起子(鈴木京香の役名)の家に連れていった時、部屋に入るなり『監督、由起子になれそうな気がする』って言ってくれたのね。“場”が役者を力づけるんですよ」
 沖縄に身を潜める台湾人の殺し屋リャンソンを演じたのは、台湾のトップスター、ワン・リーホン。
「100人くらいオーディションやったんですが決まらなくて。そんなとき、別のルートからリーホンに会ったんです。すっごくニコニコ笑っててフレンドリーなのに、ピリピリしたものを感じたんですよ。ここだけは絶対に触れるなよ、という感じの二面性。実はすごい気難しいところが見え隠れしてるのが気に入ってね」
 これが映画デビュー作となる香椎由宇も、みずみずしい表情が印象に残る。
「絵になるんですよ。映画女優の条件を持ってる。完全に素でやったから、本人は『香椎由宇そのままなんで、痛い』って言ってます(笑)」

 殺し屋を主人公にしながら、派手な殺人シーンや暴力シーンもない。由起子とリャンソンは小さなコインランドリーで出会う。
「映画に使いたい場所が見つかると、いつか使いたいなと思いながらストーリーを作る。今帰仁で撮影したんですけど、コインランドリーって面白いでしょ、みんなが使うオフィシャルな場なのに、パンツとか洗ってる訳で(笑)、私生活が外にはみ出た場所なんですよ」
 やがて、ひとりの世界で生きてきたふたりは手作りの中華料理をきっかけに、人への信頼感を取り戻す。物語は少しずつ静かに進み、ラストでほのかな温かさを放つ。
「映画を作る時には、世の東西のどっちに足を置いているかっていう事を考えるんです。アジアっていうでっかなとこに住んでる気持ちは常にある。そこで中国の食文化は外せなかった。ハンバーガー食ってる国とは違うぜ!って」
歌姫、シバリエとの出会いと別れ
映画「FIRE!」に、永遠に封じ込まれたもの


 今年の夏、「真昼ノ星空」の前作である「FIRE!」のサントラ盤が、オンライン通販の最大手アマゾンのサントラ盤ヒットチャートで突如3位を記録した。大々的に公開されていないこの映画のサントラ盤が、なぜそれほど売れたのか。その裏にはある理由があった。

 「FIRE!」は沖縄市(コザ)の売れないバンドが、天才的なボーカリストに出会い、成功と挫折を経験するという切ない物語だ。その歌姫として登場したのが、シバリエ(柴理恵)だった。

 様々な作品にゲスト・ボーカルとして参加していたシバリエは、アルゼンチン音響派、ファナ・モリーナの2002年の来日公演でオープニング・アクトを務め脚光を浴びる。2003年、松本隆主宰の風待レコードから、バンド「neuma(ネウマ)」の一員としてアルバム・デビュー。そして沢田穣治とのデュオなど、精力的に活動を始めたときに「FIRE!」に出演する。映画では、才能あるボーカリストだがアルコール中毒という役柄。薄明かりのコザの建物の屋上で、鼻歌を唄うシーンの美しさは圧巻だ。
 そんなシバリエの魅力に取り憑かれたのが、人気ブログで時の人となった「きっこ」だった。その「きっこのブログ」で、映画とともに取り上げられる。シバリエの姿は、この作品以外で観ることができないことも…。

 映画出演の翌年2005年5月26日、シバリエは心不全のため急逝した。

 彼女の名前が出ると、中川監督は明らかに落ち着きがなくなった。視線が宙を泳ぐ。ためらったが、聞かなければならない、とも思った。
「脚本ができたとき、歌だけは本物じゃなきゃならないと思った。でも、いくらオーディションをしても主演が決まらない。追いつめられていたとき、あるライブで、シバリエが参加してるのを見たんです。バックなのに気がつくとシバリエを見てるのね。声が凄かった」
 この人だ、と思った監督はすぐ出演の相談を持ちかけ、撮影はスタートした。

 では、どんな女性だったのだろうか?
「ひと言でいえば、ぼんやり屋さん(笑)。演技はほとんど地のままだったんじゃないかな。苦しくて歌を唄ってるコだった、と僕は思うんですよ。いろいろ上手くできなくて、唄うことだけは自信があった。でも彼女はコンサートで、お客さんに何かを伝えようとはしてないの。自分の中から出てくるものを、ストーンと出してるだけでね。媚を売って、人の心をつかもうとか、感動させようとかってことを全く考えない。観客を突っぱねるような歌い手でしたね」
 その後、シバリエを気に入った中川監督は、「真昼ノ星空」の音楽にも起用。今後も協力してもらうつもりだった。そんな中での訃報…。

「寝耳に水ですよ。みんな絶句してる感じだったな……ちょっと失礼」
と、言うと監督は突然席を立ってしまった。
「ありゃ逃げたな」と、同席していた音楽担当の沢田穣治がフォロー。「僕も監督も、シバリエと2年間くらい一緒にやってきて、さぁアルバムを作るっていうときやったから…」

 最後に中川監督に映画「FIRE!」の舞台について聞いてみた。撮影場所の沖縄市(コザ)は戦後、嘉手納基地を中心として発展した独特の雰囲気を持つ場所だ。オキナワン・ロックというジャンルも生み出した。バンドを通した青春物語にこれほどぴったりの場所はないだろう。
「コザの人たちって、すごく独立独歩。映画撮ってても、やれば?という感じで、干渉してこない。でも主義主張は強くて、一見バラバラなんだけど、実は“バラバラ”という統一性があるんですよね。そこがいいところなんです」
 映画は決して甘い夢物語としては終らない。中川監督は、コザという土地がストーリーを増幅しているが、物語は普遍的だと言う。
「現実の怖さっていうものを描きたかった。でも“売れる”ということを捨てて、自分たちの好きな音楽を、好きな相手と演る道を選んだコたちは間違ってはいない。そこが沖縄文化の良い所で、成功することじゃない、音楽を楽しむことの意味っていうのをコザのみんなが知ってるんですね。誰もが天才じゃない。ならば、仲間と音楽を楽しむだけでも良いじゃないかと」

 「FIRE!」ではエンドロールのあとにシバリエからの贈り物と、スタッフのメッセージが添えられている。ぜひ、最後まで観ていただきたい。
 「FIRE!」のフィルムがある限り、中川監督だけが背負い続ける苦しみもあるだろう。でも、少なくともこの映画の中に、シバリエの姿は永遠に封印され、それを観た人の中で、また生き続けていく。それは、同時に映画監督にとって、最高の喜びでもあると思うのだ。

(取材・文/ライター・イラストレーター:温泉太郎)
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