井口昇と谷崎潤一郎と同じ脳みそだった!? 最新作は何とあの「卍」のリメイク!

井口昇×谷崎潤一郎? 一体世の中に何が起こっているのか? いやしかし「クルシメさん」「まだらの少女」や、AVにおける一連のレズものなど、女性2人の物語といえば井口昇の真骨頂でもある。そして予告編を観て、おおっ、すごい、ちゃんと「卍」な雰囲気だ・・・と思えば、川津裕介が荒川良々だったりして椅子から落ちそうになったり、もうあらゆる想像で脳内大混乱。不安と期待で卍マークが脳内をうずまく中、観た井口昇版「卍」は井口作品史上、最もエロティック、そして谷崎潤一郎と同じ脳みそだったのでは?と驚愕するシーンの連続だった!・・・というわけで、井口昇監督にお話を伺ってみた。
――いやぁこれまた傑作でしたね! この企画が井口監督に来た経緯はどんな感じだったんですか?
実は「卍」と「刺青」(「卍」に先立って、佐藤寿保が映画化)の企画が両方来たんだけど「おいら女蛮」(3/8にキングレコードよりDVD発売)とかぶったりして、片方のみということになって。女の子二人の話は昔からずっとやってて、AVでもレズものが多かったし、自分の作品は「卍」みたいだと言われる事も多かったんですよ(笑)。だから絶対一度は通過しなければと思ってたし、せっかくのチャンスだし絶対やろうと思いました。
――原作モノが続いていますが、何と今回は谷崎潤一郎の原作、増村保造×新藤兼人版の名作に挑んでます。リメイクに当たって気をつけた点、こうしようと決めた点などはありましたか?
まず今「卍」をやる意味は何だろうって考えましたね。時代設定とかもどうしたらいいかな、と思って原作を読み直したら可笑しかったんですよ。何度も笑ってしまって。ブラックユーモア小説だと思ったんです。笑えて不条理で。で、その直感を信じてやってみようと。原作変えてもいいと言われていて。でも敢えて変えない事にしようと思いました。それでいて2006年的なニュアンスを出せたらと。それに増村版とも絶対比較されるでしょう? 向こうは岸田今日子と若尾文子だからねぇ? それで、比べられるんだったら振り切っちゃおうと(笑)。笑える「卍」でいこうと。エンターテインメントとして、笑って泣けてと開き直ろうと。あと、携帯電話が出て来る映画って大嫌いなんですよ、話が成立しなくなる。だから今回は時代考証とかも考えましたね。昭和8年は実感ないんで、自分にとってリアルな70年代にしました。
――「まだらの少女」「おいら女蛮」、そして本作と、原作をきちんと踏まえつつ、端々を自分流にアレンジしているのが面白いですね。
いやぁ、それでもやはり井口テイスト強過ぎ、という感想も聞きますよ。原作に忠実なんだけどなぁ。園子が見る幻想のシーンとか、実は原作とかのまんまです。元々がわけわからないんですよ(笑)
――なるほど、谷崎潤一郎と井口監督が同じ事考えてたってことですね!(笑) ところで喘ぎ声から始まる冒頭ですが、冒頭からお客を試すようなギャグが・・・(笑)
そうそう。喘ぎ声で始まってドキドキしてると、最初の映像で「過呼吸でした〜!」っていうギャグ(笑)。 (↑この意味は観てのお楽しみ)
――お客さん絶対呆然としますよね。ある意味あれが2006年度版「卍」宣言ですね。今回はちょっと違うぞ!という(笑)。それから本作は、台詞がかなり耳に残る映画ですよね。
そうですね。関西弁にはこだわりました。誰も関西人いなかったけど(笑)リズム、テンポを重視しました。原作の会話のテンポが面白かったので。
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――今回はラストのみ原作に無いシーン(死の直前の不二子と秋桜子のカラミ)がありますね。これがあったことで、あっさりした印象だった増村版よりもドラマチックだったような気がしたんですが、その辺は意図して入れたシーンですか?
手紙のやり取りとかものすごい長くて、綿貫(増村版では川津祐介が、今回は荒川良々が演じている悪役)がいかに美少年かっていう描写が延々と続くのに、クライマックスは5ページも無いくらいであっさり終わっちゃうんだよね(笑)。だから最後に性愛、レズシーンを追加してみようかと。映画的にするための工夫ですね。あと、三角関係になってから野村宏伸さんがビンタされて「何で僕がビンタされますの〜ん」ていうのもオリジナルですけどね(笑)。
――確かに増村版はじっくりと描いてますが、文芸映画にありがちな心地よい眠気が…(爆)。今回はかなり笑わせるシーンとかが次々出て来る印象であっという間ですね。
そうそう。2006年版だから今度のはデジタルな感じにしてみたんですよ(笑)。ところで卍オールナイトやってほしいよね。今まで映像化されたものを全部同時上映っていう、卍大会(笑)。
――原作のリーディングとかもいれて(笑)
そうそう(笑)
――今回はカラミについて、かなり濃厚。今までのAVのカラミよりもエロいように思えました。ピンク映画のように何回入れて、どの程度やってという指示はあったんですか?
実は規定は曖昧なままで任されちゃったんですよね(笑)。サービス好きなんで、文芸エロスとしても単なるエロ目的の人向けでもどっちでも成立するように目指した。今回は力はいりましたね。AVだと男優と女優に任せざるを得ないんですが、助監督と二人でスタンドインしてここをこう7秒舐めて〜とか実際やって観せたり(笑)、時間があって丁寧に時間をかけられたのがラッキーでしたね。「これぞ俺のレズ!」っていうのが撮れたかな、と。AVと違って、見せないエロスの方がいやらしいって思いますね。観る側が勝手に想像して補える余地がある方が。
――そのレズシーンで、肌を噛み合う音が壮絶でしたが(笑)
あれはねぇ、増村さんへの俺からの対抗ですよ。うん。あの人も変態原作に対する変態監督だったでしょう…つまり今回は変態合戦だったわけですよ!(笑)。増村さんも「べちょべちょ」とか「びしゅびしゅ」とかわけのわからない擬音とか過剰に入れるじゃないですか、だから俺も「がぶっ!」みたいな(笑)。
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――あの音は某ゾンビ映画評論家からも誉められたという(笑)
それ、嬉しいんですよね。「サンゲリア」みたいで良かった、って(笑)少しずれますが、こういう映画でもアクションの多い活劇風のイメージはずっとあったんですよ。俺の中では「レズだって戦いなんだ!」ってのを表現したかった(笑)。
――69(シックスナイン)の体位にこだわったというのも聞きましたが(笑)
渋谷ユーロスペースでやるって聞いて、絶対やってやろうと(笑)。プロデューサーには切れないかっていわれたんですが、これだけは一番譲りませんでした(笑)。親とテレビ観てる時にラブシーンが映って気まず〜いあの感じを劇場で出せればと。お客さんいじめをしたかったんですよ。さらには「なめごたえあるわ〜」「なめてもなめてもなめたりへん」って台詞もアフレコで追加したし(笑)。カップルが劇場に来てどんな反応か観察したいですよね〜。
――井口ワールドは、キスシーンなど「口」にこだわりますよね。今回も光子が園子の口の中を見ることに執拗ですよね(笑)。
そうですね。無意識もあるんですが、口の中覗いたり、口から何か出てきたり、今度の「猫目小僧」でも妖怪が女の子の口に手を突っ込みますからね。口いじめが好きなんですよ。キスがそれの最たる物というか。映画館で「本気キス」みたいなのは出てこないじゃないですか、そういうのを取りたかったんですよね。それが某オムニバス映画用の新作「おばあちゃんキス(仮)」へと繋がるんですが(笑)
――それも実に楽しみですね(笑)。今回は秋桜子さんが非常に良かったですね。表情がAV時代のミューズ・倉本杏奈を思い出させました。井口ワールドlに共通して泣いたり笑ったりと女の子のアップの表情の豊かさがあると思いますが、何か共通して演出中に女優さんに伝える事などはありますか?
「歯を食いしばるような顔をしてください」って言いますね(笑)。あと、「どひゃーっ!」って顔をしてください、って言いますね(笑)。誰にでもは通じませんが。吉永小百合とかには言えないですけどね(笑)。
――なるほど(笑)女の子たちが思うどひゃー!がそれぞれのヒロインが見せるあの表情なんですね〜。とにかく今回は足をバタバタさせたり、ほうれん草とご飯粒ふんずけてよろよろしたり、岸田今日子とは違った妙にキュートな感じですよね。
そうそう。実は最初はもっと年齢が高いイメージだったんですけどなかなかハマる人がいなくて。思い切ってこの2人にしようかと。実は原作の年齢が近いのはこの2人なんですよ。今までの作品の方が年齢高めだったんですよね。フレッシュな「卍」にしたかったっていうのはあります。昔だと、性愛の全てを知り尽くした大人が同性愛に走る、みたいなイメージだったかもしれないんですが、今は若い人でも普通に同性愛者だったりしますよね。園子と光子を若返らすのは僕のテーマでもありましたね。それと、秋桜子さんはアラーキーの写真とかで割と無表情のイメージだったんですが、今回はそれを壊したかった。良く喋る秋桜子っていう。いろんな表情が一本の作品に出て来る作品にしたかったんですよね。三白眼とかめちゃくちゃいいんですよね(笑)。ぷーっとしていつも不機嫌な感じもいい。
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――足をバタバタさせていややーって言った後ガバって起きて野村さんにつかみかかるところとか意外に敏捷ですよね(笑)。不二子さんの方はやってみてどうでしたか?
貫禄あるよね〜。カラミのシーンもリードしてくれて。光子が立ってないと園子も立ってこないから、説得力がある雰囲気で良かった。エキゾチックな感じというか。味方なのか敵なのかわからない、まさに峰不二子な感じですよ・・・!(笑)。(*実際に不二子は峰不二子に憧れて芸名をつけている。)ただ、台詞には戸惑ってましたね。「なめごたえあるわ〜」とか言いにくそうだった(笑)。あと、顔が70年代ぽくていいんです。安達祐実と言われつつ…僕的には真理アンヌとか。松岡きっことかその辺の感じかな。
――野村宏伸さんは増村版の船越英二の微妙に心がないような、振り回される説得力みたいなのがちゃんとありましたよね。井口ワールドにいは「18禁」で実の娘に振り回されるなかみつせいじや今回の野村宏伸のようにどうにも情けなくてチャーミングな男性像が多いですね。
そうですね。可愛そうな、不憫な感じの男の人が好きなんですよね(笑)。あと男の人の脱力した顔も好きです。考えてみれば頭のおかしな奥さんに振り回されてる旦那っていうのは「いい人」だろうなっていう見解だったんですよね。あと、野村さんはやはり上手な人でしたね。谷崎ものは以前からやりたかったらしいんですよ。そういう部分にも理解があって。まさかこういう感じの映画だとは思わなかったっでしょうけど(笑)。前半に「怒った!」って言って空手チョップするシーンがあるんですけど、戸惑ってましたね。「怒った・・・すか・・・」とか言って微妙に唇噛み締めてましたけど(笑)。だんだん諦めてくれて(笑)。
――予告編でも衝撃的な荒川さん(4人目の紹介でずっこける)。井口映画のイコン的な役者ですが、今回敢えて川津裕介のポジションに起用した理由は何でしょう?
荒川さんっていうのは基本的にとぼけたバカっぽい役が多いから、今回は計算高い悪のピカレスクな、ニヒルな男、岸田森のような芝居を伝えたんですよ・・・でもやっぱりあんな感じに(爆)。荒川君のあの変なカツラ、まじめなつもりでかぶせたんですけどね。70年代のプレイボーイは坊主じゃダメだろうって(笑)。シリアスな気持でかぶせたらギャグになってしまった。彼は髪が似合わないっていう衝撃の事実に気づきましたね(笑)。
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――血を吸い合う契約のシーンは恋する幼虫を思い出させました。やはりここも基本は原作まんまですし、井口ワールドと谷崎ワールドが見事シンクロしてますよね。荒川さんが暴走しても違和感が無い(笑)。
そうそうあのシーン。原作自体、何て滅茶苦茶なこと書いてるんだろって思って(笑)。それにオリジナルのネタを加えてみたんですが。ちょっとファンタジー感出たかなぁ。そういえば、綿貫はもっと出したかったんですけどね。原作でも割とあっさりした扱いで。あっ、「卍2」作れますよね(笑)。園子とお梅さんと綿貫がいれば。そこにおじいさんキャラとか足して・・・年齢層がどんどん上がるっていう(笑)。勝手に<原案:谷崎潤一郎>っていう(笑)。
――お梅さん役の大女優・吉村実子さんが凄いインパクトでしたね。知ってる人は衝撃では・・・?(笑)
そうそう。吃驚するよね。お梅さんは原作では光子側の女中なんだけど、ちょっと変えました。この映画では完全に園子の看守役(笑)園子の敵キャラですね。たびたび出て来て、青梅さん出ないと淋しいなぁって思うくらいにしたかった。園子とお梅さんのガンつけあいの演出はおかしかったですよ。吉村さんが育ちが良いんで、まず「暴走族っていうのがいましてぇ・・・」っていうところから説明して、それから実践して…(笑)。
――暴走族から説明するってすごいですね(笑)。それでは最後になりますが、これから「卍」を観る方へのメッセージなどを御願いします。
最初にも言いましたけど、文学というと固い印象があるんですけど、堅苦しくない映画にしたつもりなので、気楽な気持ちで観に来てほしいですね。男性はもちろん、女性の方には特に観てほしいですね。レイトショーで映画館も渋谷のラブホ街なので観賞後にホテルで愛をはぐくむカップルがたくさん出て来る事を心のどこかで祈ってます(笑)。
インタビュー・文:直井卓俊 (SPOTTED PRODUCTIONS) |