「猫目小僧」製作秘話

――宜しくお願いします。
宜しくお願いします。「チョーおもしろ」って書いてください(笑)。
――チョーって(笑)。いやぁいよいよ公開ですね。この企画自体は随分前から話されてましたもんね。
そうですね。2年前くらいですかね。別の製作会社の人と立ち上げたんだけど、会社側からあっさり切られて(笑)。その後、「楳図かずお恐怖劇場」をやった時に原作権がいろいろ動いてるっていう話があって。担当した「まだらの少女」('05)の評判も良くて、やってみないかと。でも実現するまではいつこの企画無くなるだろうっていう不安でハラハラしてました。
――撮影されたのも随分前ですよね。「卍」('06)より前ですか? 作品の順番で言うと。
ちょうど1年前。ロケハンした日が尼崎の列車事故だった。順番で言えば「まだらの少女」→竹中さんの舞台に出演→「まだらの少女」仕上げ→「猫目小僧」撮影→大人計画の舞台でダンスの稽古→「卍」→「おいら女蛮」('06)。
――なるほど。その順番で観ると何となく井口監督の精神状態の変化がわかるかもしれませんね(笑)。
そうそう(笑)。一般映画というプレッシャーもあって、やりたいことをやりつつも気持のベクトルが違った「猫目小僧」があって、更に休む間もなく稽古でしょう。そこでたまったストレスから「卍」でぷつっと切れて、「おいら女蛮」で遂に大爆発。あの足ミサイル(劇中で両足を切断された登場人物の断面がマシンガンのように変化して撃ちまくるシーンがある)に繋がってるわけです。みんな死ね〜!って(爆)。
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子供たちにトラウマを

――(爆笑)…話は戻りますが、以前から思い入れがあった井口さんにとっての「猫目小僧」の魅力とは何でしょう?
まずルックスが好きでしたね。子供の頃から。妖怪なのに半ズボン履いてるのがたまらなかった(笑)。あとTVで観た劇メーションが強烈な印象があって。それで原作を読んだら、妖怪自体に思い入れはないんだけど、これの妖怪は所謂“フリークス”的というか。妖怪界からも人間界からも嫌われてるのが面白いなぁ、と。あとさすらい人=アウトロー(木枯紋次郎とか)という存在も好き。他人は他人、人の不幸を楽しんでいるようなところとか。何だかんだ助けないことも多い(笑)。「恋する幼虫」('03)の後、敵でも味方でもないピカレスクなキャラクターものをやりたいなと思ったんですよね。ティム・バートンみたいな。それで「猫目小僧」があるじゃないか!って。
――なるほど。数ある名エピソードの中から「肉玉」にした理由は何でしょう?
最初は3つくらいの話をいろいろ入れてたんだけど、どうもまとまらなくて。醜い存在が人間に復讐する話、あと猫目小僧が味方だった女の人に裏切られる「水招き」というエピソード、それと「肉玉」の造型の気持悪さ。プロデューサー陣からはやっぱり反対されましたけどね。むしろじゃあこれだ!と思って(笑)。とにかく一番グロテスクで気持悪いでしょ。一見ファミリー映画なのにカップルとか子供をどん底に突き落としたいと思って(笑)。普段マゾなんだけど、発想の時だけはサディスティックになるんだよなぁ…。
――今の時代、子供にとってトラウマになる映画自体少ないですもんね。
そうそうそうそう。トラウマを作ってあげることが大人としての優しさだと思いますよ(笑)。怖いものを観たから犯罪しない、いじめはいけない、悪い事すると酷い目に遭う。猫目小僧の性格も悪い奴だし友達だと思ってると避けられたりするんだぞっていう(笑)。企画会議でも「家族もの」っていうところを強調されたけど、僕的には「子供たちにトラウマを!」っていうことが一番だったかな。 |
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やっぱり天才・楳図かずお

――本作の前に「まだらの少女」もやっていますが、そこで学んだこと、経験から今回に活かせたことなどありますか?
あの時は少女漫画をやりたい。ただやはり小中千昭さんの世界が確固たるものがあったので、それを崩さずに…っていうのがあって。今回は自分の世界に楳図ワールドを引っ張り込むとどうなるのかっていう実験をしたかったんですよね。楳図さんの作品はコンプレックス持った少女、孤独な少女の話が多い(=井口ワールドにも通じる)。「まだらの少女」でその片鱗が出来たので、それをさらに拡大したいなと。猫目でも最初は“あざ”がなかった。でも、それがないと猫目小僧がその子を好きになる理由がないんですよね。人の弱いところに興味を持つから。映画化の時に悩んだのは原作で「水招き」以外ほぼヒロインが登場しないんですよ。年輩のおじいちゃんとか少年とかばかりで。そこに少女の物語を入れたかった。それをやって猫目の世界観が壊れないか…っていうことで楳図先生にも相談しました。「猫目小僧が恋をするっていうのはあり得ますかね?」って。そしたらそれはいいんじゃないですか?って言ってくれて。ただやっぱり猫目が女の子を好きな理由がちゃんとわからないと。そこでヒロインの子が変なスキップをするところを気に入って好きになるのはどうでしょう?ってアイディアをくれて。賛成!と共にこの人天才だーって思いましたね(笑)。そのカット、実は残ってますんで、気にして観てください。
――最終的に猫目は少女にあざがあるところに惹かれているっていう設定は井口さんらしいですよね。
あざにはこだわりましたねぇ。そのあざのエピソードに関してはほぼオリジナルですね。劇中であざが無くなるファンタジーを描きつつも、最終的にまゆかがコンプレックスを抱えて生きていく。乗り越えてゆくっていうところは現実的に、辛口にしなくちゃって思った。
――楳図作品の実写化の時はどっちも脚本を人に託してますが…
まぁ自分が書きたいっていうのはもちろんあるけれど。今回だったら製作側からファンタジーにしたいっていう意向があって女性に頼みたいっていうのがあったのかな。実際自分が書いたやつがすごいハードな奴で。やり過ぎのような感じが。例えばヒロインのまゆかが子供の頃に皮膚病で顔に包帯ぐるぐる巻きで村人にいじめられて、何であたしばっかり、って思ってふと見ると猫目小僧が石投げられて血みどろになってそれでも平然とむしゃむしゃおにぎり食べてるようなところから始まるような(笑)。 |
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偶然ぽっちゃり体型の猫目くん

――なるほど。人が入ることでバランスが取れるといいますか…。ところで猫目小僧の着ぐるみですが、最初中身が井口さんかと思いました(笑)。何だか体型がぽっちゃりしていて…。竹中直人さんも劇中にアドリブで突っ込むという(笑)。
(笑)中に入ってるのは女の子で。巨乳だったんですよ。それでさらし巻いたんだけど隠れない。それでお腹に詰め物したらぽっちゃりしちゃって(笑)。ペットが飼い主に似るのと同じで、不思議と撮ってる僕に似て来るんですよ! 竹中さんも「太ってる〜」って撮影中からもずっと言ってたからね。原作は普通の少年だからねー。ファン怒らないかな…(笑)
――観客がふと「猫目小僧、ちょっと太ってる?」って思ってるのをキャスト(=竹中直人)が代弁してくれたのが面白かったです。
お菓子ばっかり食べてるしね〜。妙な愛着持っちゃったりして(笑)。 |
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肉玉でトラウマ

――それから何と言っても従来の井口ファンは「妖怪肉玉」が口に入る描写にドキドキするかと思います。あそこはやはりこだわりましたか?(笑)
まぁ…好きなものはほっといても映像に出て来るってことですよね(笑)。予算は足りないからディティールで勝負する。原作だとおじいちゃんの口なんだけど、女の子にしたくって。CGの人に何秒作りますか、と聞かれて13秒でお願いして長いっすねーって吃驚された。しかもごつごつと長細くてぶっといやつを!って(笑)
――(爆笑)あれこそ子供が観てトラウマになってほしいですね。
なるかな〜。なるといいなぁ〜。そういえば主役の男の子役の子とその妹(8歳)が試写に来てくれて、おじいちゃんが目にクギ刺すシーンがあるんだけど、そこでもう大爆笑。子供って本当は残酷なもの大好きだからね。そういう反応嬉しいよね。ただ肉玉に関しては映倫的な問題もあって原作と設定変わってるからね。批判されるとしたらそこかな。結局大人が恐怖から観た妄想だったっていうのが楳図さんらしいしね、原作は。難しかったな、そのへんは。
溶け合う井口ワールドと楳図ワールド
――でもそのかわりに「少女」に楳図さんらしさと井口さんらしさの両方が見えているので良いのではないでしょうか。
そうだねー…。だからやっぱり原作を変えちゃってはいるんだけど、楳図さんが大事にしていることはちゃんと引っ張って来たいなと思ってたからね。三面鏡を見て泣いてるっていう描写とか、別の漫画も含めて楳図ワールドを出現させたかった。
――単なる「猫目小僧」の実写化と同時に楳図ワールドの実写化ということですよね。流石です。あと最後の勝負も「スパイダーマン2」('04)みたいで泣けました。近年の日本のヒーローものの実写版に欠けていたものがあると思います。
ありがとう〜。日本人撮るとかっこつけちゃうんだよね。外人とかの方がドライな描写多い。あと俺は高卒で良かったって思う(笑)。大学出た人と見え方違うだろうから。かっこつけないんですよ、僕は。猫目のコスプレもするし。サンドイッチマンもやったし、ふんどしで舞台挨拶でぶん投げられたりするからね(笑)。(*「おいら女蛮」の舞台挨拶で出演のデモ田中氏に投げられた)
道徳的メッセージと不道徳な欲望
――それでは、これから観る方へメッセージを。
そうだねー。とにかく子供に観てほしいですね。ちびっこたちがパニックになるところとか爆笑するところとか観たい(笑)。今の子供たちには毒が足りない。残酷なことを目の当たりにしてほしい。
――いや、ほんと道徳の時間で使えるエピソードがたくさんありますよね。子供にとって。
そうそう。子供にとって大切なメッセージ込めてますよ、かなり。それともちろんヒロインの口に肉玉を入れたいという欲望も…。俺の気持ち、伝わってるかな…(満面の笑み)
――だ、大胆な映画作りですね…。
「キャシャーン」「デビルマン」といったあたりのタイトルに続く大胆な実写化が果たされた「猫目小僧」。予算やキャストを比べれば前者には劣るが、井口監督は情熱とアイディアでそれらを凌駕し、堂々日本一のダークヒーロー映画の傑作を生み出した。孤独で歪な登場人物たちというのは実は井口昇のオリジナルな世界観とも通じており、傑作なのは必然の結果でもある。鏡のような存在の2つの才能が溶け合って生まれた2006年版“猫目小僧”。何度でも会いたくなる、ちょっとぽっちゃり気味のダークヒーローの誕生に乾杯!
インタビュー・文:直井卓俊 (SPOTTED PRODUCTIONS) |