
今回はおばあちゃん同志の純愛を描くという難題に挑んだ新作「おばあちゃんキス」(オムニバス映画「そんな無茶な!」に収録)が上映中の井口昇監督のインタビューをお届けします。果て無きおばあちゃん映画構想、セクシー動物企画など、次々と溢れ出るアイディアに悶絶必至の井口ワールド、はりきってどうぞ。
◎幻の企画「ザ・おばあちゃん」
――“おばあちゃん映画”の構想はいつ頃からあったんですか?
「かれこれ5年前くらいからアダルトビデオの企画会議で必ず『ザ・おばあちゃん』っていうのを出してたんですよ。おばあちゃんが視聴者に『何かくたびれた顔してるわねぇ、何かあったの?』と問いかけるようなやつ。おばあちゃんフェチ物ですね。でもまぁ当然企画は通らず。それで今回の『そんな無茶な!』で佐藤佐吉さんからオファーがあって、出した企画のうちのひとつがこれです」
◎女は女である。おばあちゃんも女である
――そもそもおばあちゃんの魅力とはどのへんでしょうか。
「子供の頃両親が良く巣鴨(今や“おばあちゃんの原宿”として有名な東京都内の街)に連れてったんですよね。そのせいか、おばあちゃんの香りを嗅ぐと落ち着くようになって。何か好きなんですよねぇ。
あと僕の中で最近“お洒落おばあちゃん”っていうのがいるんです。昔は着物だったんだけど、今はリュックしょってて髪に色入れてるんですよ。紫とかオレンジとか。それで帽子とかかぶってて・・・。意外とギャルっぽいんですよ。集団で歩いてるし、なんか迫力あるんですよね。映画に出て来るおばあちゃんって主人公たちを温かく見守る存在が多いじゃないですか。でも実際におばあちゃんはそういう自覚ないんですよ。やっぱり女の子なんです。ギャルなんですよ。それで“おばあちゃんも女である”という映画は今までないな、と。現代のおばあちゃんは息子とか孫とか落ち着いたら自分の人生を欲望のままに生きてるというか、みんな結構贅沢ですよね。歌舞伎観に行ったりコマ劇場行ったり。それで普通にドキドキしたりときめいたり羞恥心があったりしてると思うんです。
ちなみにこの映画、女の子の評判がいいんですよ。『おばあちゃん可愛い』って普通に言います。女の子の方がこの世界を理解できるっていうか、女の子って40になってもおばあちゃんになっても変わらないし、それをわかってるんですよ、これを女の子映画としてちゃんと理解してくれるのは女の子の方でしょうね」
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◎映画の神様が届けてくれた 3人のおばあちゃん

――キャスティングはやはり難航しましたか?
「もちろんそこが一番大変でしたね。『キスできるおばあちゃんいないか』って問い合わせるんだけどなかなか『これだ!』っていうおばあちゃんがいない。そこで製作会社とかプロデューサーの佐藤佐吉さんは『最悪井口さんのお母さん出せば?』といか言うんですよ。自分の母親が他のおばあちゃんとキスするっていうのはどんな気持ちなんだろうって一晩考えたりして・・・。ところが撮影3日前に、ひとつの事務所から今回のキャスト3人全員のFAXが来たんです。これだ!っていうキャラが。映画の神様が降りて来た瞬間ですね。思えば『おいら女蛮』の主演・亜紗美や最新作『片腕マシンガール』の主演・八代みなせも面接の一番最後ギリギリに来たんですよ。そういうことってあるんですよね」
――おばあちゃんの演出で苦労した部分はどのへんでしょうか。なかなか台詞が覚えられなかったとか?
「キヌさん役の山本緑さんが50年前の東映の『ひめゆりの塔』(監督:今井正)に出てた女優さんだったんだけど、本人は現場でなかなか台詞が覚えられなくて自分に苛立ってましたねぇ。トメさん役の戸山貞子さんなんかはお芝居したことないから、状況とかひとつひとつ説明しながらやりました。根気強く、大抵3テイクくらいずつ。
苦労したのは・・・やっぱりキスシーンですよね。トメさんは唇噛み締めてこらえてました(笑)。キヌさんは女優魂で何とかやってて、もう1人のおばあちゃん(田嶋和江)は『キスなんて戦後の困難に比べたら大したことないわよ』っていう、今更何も怖くないわよっていう感じで頼もしかった。あわよくばヌードも有りだったかもってくらい(笑)。『キスした後でうっとりと・・・そういうのってご経験でわかりますよね?』って聞いたら『40年くらいしてないから覚えてないわよ』とか言われたり。それにみんなほっとくと唇離そうとするんで、あと15秒、カットかかるまでは我慢してもらえますか?とおばあちゃんたちを責め抜きました(笑)」 |
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◎カメラ目線と説明台詞の妙

――本作では役者陣が“カメラ目線”で心情を口に出して説明する、っていうところが非常にインパクトありますよね。新作『片腕マシンガール』でも『○○が××だったなんて!』とか撃たれた人が『撃たれた!』とか過剰に説明したり(笑)。
「いや、実は時間がなくてカット割ができなかったんで、役者さんがカメラに近づいてカメラ目線で喋る事でカット割を省略できる、っていうアイディアから生まれてたりするんです。カット割れないなら振り返ってもらえばいいんだ、っていう(笑)。それで観てる観客もドキッとするしと思って。
過剰な台詞は、僕が永井豪世代だからかなぁ。あの人の漫画で武器の説明しながら攻めたりするでしょう。『くそー、俺の何とかミサイルで倒してやる!』みたいな(笑)。あと台詞で言えば、今回は“葛藤”とか“接吻”って言葉をおばあちゃんに言わせたかったんですよね。『片腕マシンガール』でもそうですけど、今あまり使われなくなった“接吻”という単語を映像作家として守ってゆきたいなと思いまして。どの映画でも必ず一回は使おうと(笑)」
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◎究極の企画「セクシー動物シリーズ」?

――「おばあちゃんキス」という危険な題材を撮るにあたって念頭に置いたことはありますか?
「これは僕にとっては一種のフェチ映画です。デス・プルーフが足なめだったりデビッド・リンチが顔ばっかり撮ってるように僕もおばあちゃんの口と口が合わさったらどうみえるだろうっていう(笑)。あの物を食べてるときのもごもごした口を撮ってみたいというか。それで一番気をつけてたのは、単にえげつないものにしないということ。今の観客は想像力が欠けてると思うんですよね。直接的な裸を見せなくてもエロかったりするっていうのがあると思うんですよ。だからこれはおばあちゃんだって見せ方によってはエロティックなんだぞ、という・・・これがなかなか伝わらなかったりするんですけどね(笑)。
タランティーノだっていい女用意して色っぽく撮ってたらそれは当たり前に色っぽいだけなんですよ。だから僕が次にやりたいのは“セクシー動物シリーズ”というやつです(笑)。猫の胸を撫でて猫がうっとりする顔を撮るとか、動物だってセクシーな瞬間があるはずだ!と。女の子でも可愛くない素材をどう可愛く撮れるか、が監督の力量だと思うんですよ。突き詰めればカレーをセクシーに撮れないかとか、やかんをセクシーに撮れないかとか思うんですよ。やかんがセーラー服着たりとかレイプされたりとか。ピザトーストを犯す!みたいなのとか。“物”で美少女映画が作れないかな、と」
――それができたら無敵の映画監督ですよね(笑)。他に何か現場での印象的なエピソードはありますか?
「キヌさんがタンスの上のおせんべいを取ろうとしてスカートが破れてパンツが剥き出しになるシーンがあるでしょう。あれは本当は所謂パンチラで行こうと思ってたんですよ。ところがキヌさん役の方が『あたしねぇ。チラッっていうのがダメなのよ』と言うんですよ。『直接下着が見えるのはいいのよ』って(笑)。じゃあそれでっていう。おばあちゃんの乙女心。女性の不思議さ、ミステリアスに触れた気がしましたねぇ。そういえばアダルトビデオでもウンコはいいけどおならはダメって言われたこともあるし」
――フクザツな乙女心はおばあちゃんになっても変わらないと(笑)。ちなみにおばあちゃん映画シリーズの構想は考えたりしますか?
「考えてますねぇ(笑)。第2弾が『おばあちゃんのはらわた』っていうスラッシャー物。おばあちゃんとおばあちゃんが殺し合うっていう。第3弾が『おばあちゃんチェイス』。初心者マークが付いた車でおばあちゃんが次々と若者をひき殺す。『あら!ネギが安いわ』と言いながら八百屋に突っ込んだり、『あら!知り合いの○○さんだわ』と言いながらその人轢いたり。おばあちゃんが運転してるのって怖い映像ですよね。運転中に心臓発作が起きたりするんですよ(笑)」
――そこまでいくとハラハラドキドキどころではない騒ぎですね(笑)。最後に、ご多忙と思いますが、近況を教えてください。
「海外出資のスプラッターアクション『片腕マシンガール』が完成しました。これはまだ日本では上映が決まっておりませんが、もし決まらない場合は自宅を井口昇シアターにして上映会をやろうかと(笑)。それから『hon・nin』で原作を担当した『脳子の恋』という漫画(作画はかの中川翔子!)が発表されました。中川さんすごい頑張ってくれてますので是非読んでみてください。さらにはENBUゼミで講師をやるので実習制作もやりますね。『遠くの空に消えた(仮題)』っていうのを撮る予定です(笑)。あと撮りたい企画が他に25個以上ありますんでそのうちのどれかができるといいですね(笑)」
インタビュー・構成:直井卓俊 (SPOTTED PRODUCTIONS) |
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