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2008.2.15(金)更新
【現場レポート】
忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く
感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
消息を絶った犯罪者の夫を、愛息子と共にひたすら待ち続ける妻・芳枝役に扮した工藤夕貴。自宅の2階から顔を出している。2種類のパジャマを手にした監督が、下から「芳枝のパジャマはどっちがいい?」って尋ねると、「監督の趣味に合わせますよ。ネグリジェじゃなくていいんですか?」と言って笑わせた。さすが、大物!
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
天気は晴れていたが、時折雲の合間に太陽が隠れてしまう。場面がつながらないということで、しばし時間待ち
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
こちらが芳枝の家のキッチン。こぎれいだが、生活臭が漂う明るいキッチンで好感度大。芳枝の前向きな性格が表れているよう
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
左がメガホンをとった三枝健起監督。時任三郎(右)が扮するのは、ふとしたきっかけで殺人を犯して逃亡してしまう芳枝の夫・修治役。「時任さんは論理的な方ですよね」と三枝監督。「シナリオっていうのは現場にくるとうまくいかないことが多いけど、そういうときに、彼はリアリズムを考えながら、いろいろアイデアをくれるんですよ」
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
とても細かく書き込まれた三枝監督による絵コンテ。これを見て、スタッフが適材適所でテキパキと動く。非常にきびきびとしたいい雰囲気の現場だった
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
中央が、修治から借金を取り立てようとやってきた野田に扮する吉田容臣。修治と争う場面について時任三郎と三枝監督と3人で打ち合わせ
【現場レポート】忘れかけた母と子の温かくも力強い愛と絆を描く感動の人間ドラマ「春よこい」の撮影現場に潜入!
ロケが行われたのは、透明なイカで有名な佐賀県唐津市の呼子町。澄み切った青空と海がまぶしい!
STAFF&CAST
監督:三枝健起 音楽:三枝成彰 主題歌:夏川りみ 出演:工藤夕貴 時任三郎 西島秀俊 宇崎竜童 高橋ひとみ 吹石一恵 犬塚弘 小清水一揮(2008東映)
■5月24日(土)より佐賀先行ロードショー、6月より全国ロードショー

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佐賀・唐津の静かな猟師町に、心の物語を紡ぐ
工藤夕貴、時任三郎、西島秀俊ら演技派が
集結!


 透明なイカで有名な佐賀県唐津市の呼子(よぶこ)町。この海に囲まれた静かな町で、この冬、1本の映画の撮影が続けられていた。その映画のタイトルは「春よこい」。昭和の終わり頃を背景にしたこの作品は、実際の事件をもとに、不慮の事故で借金取りを殺して逃亡の身となった漁師の父を慕い続ける息子を守りながら、夫への変わらぬ想いを胸に、必死に生きる母の愛をまっすぐに描く感動編。オーソドックスな話ではあるものの、ヒロインの気丈な母親・芳枝に「SAYURI」(2005)への出演など国際的に活躍する工藤夕貴、逃亡する夫・修治に時任三郎、息子のツヨシに「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの名子役・小清水一揮、さらに芳枝を支える新聞記者の岡本に西島秀俊が扮するなど演技派が集結したと聞けば、本物の感動が味わえる映画になるに違いない! といやがうえにも期待が高まる。

 そこではやる心を抑えきれずに、12月の初旬に呼子町にある加部島の撮影現場を訪ねてみた。すると、普通にしていても寒さが身に沁みるというのに、見学初日の撮影はなんとナイト・シーンで、しかも雨降らし。雨の中、舫(もやい)を結んでいる修治が、芳枝の待つ網小屋(美術スタッフが建造したもの)に駆け込んでくる、まだ幸せだった頃の回想シーンだ。桟橋一体に均等に、さらに遠方にも雨を降らすなどの準備に約1時間。いよいよシュートとなったが、時任がずぶ濡れになりながらも慣れた手つきで舫を結び、わずか2テイクでこのカットの撮影は終了。その後も同種のカットがスピーディにフィルムに収められ、撮影の合間に暖をとる三枝健起監督や工藤、時任らの楽しそうな笑い声が現場の雰囲気のよさを印象づけた。
「子供のために一生懸命生きている女性を
共感できるようにリアルに演じたかった」
(工藤夕貴)


 翌日は、朝から芳枝の家のシーンの撮影。前日の網小屋の側に位置するその家は、地元の人が最近まで住んでいた日本家屋に手を加えたもので、洗い場から調度品まで美術スタッフによって細かく手が加えられていて、生活の匂いが感じられる。しかも、柔らかな朝の日差しと静かな海。東京とは違う、のんびりした空気が気持ちいい。

 撮影の合間に工藤さんに話を訊くと、彼女も「本当に帰りたくないな〜って思っちゃうぐらい、気に入っちゃってて。釣りもしょっちゅうしてるし、漁師さんから生きたタコをもらって、さばき方を教えてもらったりして、楽しんでますね」と笑顔を見せ、劇中の悲しみを背負った芳枝の雰囲気を微塵も感じさせない。そこで、今回の台本を初めて読んだときに、どう思ったのか? 尋ねてみた。
「『佐賀のがばいばあちゃん』(2006)のときもそうだったんですけど、私、家族の話に弱くて。この作品も単純に泣けたし、感動したし、自分が感動できる映画だったから、ぜひって感じで出演させていただきました。ただ、(逃亡した夫を)好きで待っている人なんて、そうそういないと思うんですよ。そこは、やっぱりリアルに描きたくて。こんな人いないよって言われるような人だったら、自分を重ねることができないじゃないですか? だからそこは、もし私だったらってことを考えたし、いろんな人に訊いたし、その中で監督と話し合いながら自分の芳枝像を少しずつ作り上げていったんです」

 その際に、工藤が信じた“リアル”の根幹はいったい何だったのだろう?
「やっぱり、子供への愛情だと思うんですよ。子供のために我慢して、一生懸命生きている人って世の中にたくさんいるじゃないですか? 子供がいなくてひとりだったら、死んじゃおうかな? とか、他に男を作っちゃおうかな?っていう気持ちも働くと思うんですよ。でも、新しい人生を歩み出したくても、逃げられない人間も世の中にはいっぱいいて。責任感が強くて、(子供への)愛情が深ければ深い人ほど、子供の笑顔を守るために必死に、とにかくできることを毎日一生懸命やろうとする。それしか方法がないんですよね。そういうリアルな女性を描きたかったし、みんなが観て共感できる女性にしたかったんです」

 だから逆に、監督に相談して、自分を支えてくれる新聞記者の岡本に少しだけ気持ちが揺らぐシーンが加えられた。
「自分にちょっと気がある彼にフラッとすることもありますよ。そんな“気丈に”なんて、綺麗ごとだけでは人間は生きていけない。芳枝はちゃんと自分でケジメをつける女性だけど、旦那さんがそのままずっと姿を現さなかったらどうなっていたか? そこはやっぱりリアルですよね」

 話ながら、どんどん熱くなってくる。ところが、説明的な台詞や画(え)を入れない三枝監督のことを「頼れる存在です」と語り、その例となるシーンを説明する彼女をふと見ると、今度は眼を潤ませている。
「息子のツヨシが内緒でお父さんの写真を見ているのを芳枝が発見した後、堤防でふたり並んで黙って海を見ているシーンがあるんですよ。それだけで泣けちゃうじゃないですか? それを説明されると冷めるけど、説明されないから、きっとこういう気持ちなんだろう? と思って逆に泣けちゃうんですよね。それに小清水くんもすごく演技が上手な子で、ふたりで並んでいるときに、手をすーっと伸ばしてきて、私の手をギュッと握ってきたんです。それだけでなんかもう……って感じでしたよね」

 夫役の時任三郎とも、“手の触れ合い”に関する同じように印象的な出来事があったと振り返る。
「私、時任さんが昔からすごく好きだったので、旦那さんが時任さんって聞いたときはすごく嬉しくて。でも、お芝居をしてみるまで不安じゃないですか? しかも、時任さんとの最初のシーンが、彼と4年ぶりに再会する結構ヘビーなシーンだったんですけど、そのリハーサルで時任さんが歩いてきて私の手を握った瞬間、あっ、時任さんでよかった!って運命的なケミストリーを感じたんです。それが鮮明に記憶に残っているんですけど、お芝居ってひとりではできないものだし、やっぱり相手の感情をもらうんですよね」
「大きな事件が起きない話は難しい。今回は
綺麗な話に“記憶の音”を入れてみました」
(三枝健起監督)


 工藤さんにたっぷりお話をうかがい、すでに映画を1本観たように心がほっこりしたところで、今度はタイミングよく三枝監督にもインタビューができることに。そこで、前作「オリヲン座からの招待状」(2007)に続く昭和が舞台のこの作品で、今度は人の気持ちが通い合う様をどんなことを心がけながら描いているのか訊いてみた。
「僕は、テレビ・ドラマの場合はわりと尖がっているんですよ。唐十郎さんと不思議な感覚の作品を4本も作ってるし。でも、“オリヲン座”で少しスタイルを変えてやってみて、こういうものも僕はできるんだなーって思ったんです。とはいえ、大きな事件が何も起きない話っていうのはやっぱり難しいですよ。なので、この作品については、そこに修治に里心を起こさせる、帰ってみようっていう気持ちにさせる“記憶の音”をちょこちょこって入れる手法をとるようにしましたね」

 工藤夕貴との初めての仕事にも確かな手応えを感じているように見受けられる。
「少女がそのまま大人になったみたいな感じで、愛すべき人ですね。わりと自由奔放じゃないですか? 何が起こるか不安ですよね? ただ、今回はオール・ロケで、実際に人が住んでいた家の手垢とか脂とかが発見できる。工藤さんはそういうものを受け止めることができる人だから、無菌状態のセットで撮影するよりも向いていたような気がする。でも、イキイキとし過ぎていて、本番前に釣りをされたときには困りましたけどね(笑)」

 その日の午後は、修治がまさに借金を作る原因となった自分の船の上で、借金取りを過って殺してしまうシーンの撮影。カメラを廻す前に、監督と時任、借金取り役の吉田容臣が船に乗り込み、芝居の段取りをつけていく。すると、その様子を桟橋から見ていた工藤から「そんなことで、死ぬとは思えない! そっちに頭をぶつけた方がリアルなんじゃない?」と声が上がり、結局その意見が取り入れられることに。現場の意見を取り入れながら映画が作られていくのを目の当たりにした瞬間だった。

 時任三郎も、同じように自分の意見を強く主張したことがあった。それは父親の息子に対する気持ちの問題。物語の核心に触れ、映画を観たときの感動が薄れかねないので、ここでは詳しいシーンの説明は避けるが、時任の言葉を書き記すので、逆に映画を観たときに思い出して欲しい。
「どうしても納得がいかなくて、監督にお願いして、去り際に“車の中から叫ぶ”っていう表現を入れてもらった。じゃないと、僕のツヨシに対する気持ちが表現できない。本当の気持ちをぶつけてあげないとツヨシが可哀想すぎると思ったんです」

 映画「春よこい」は、そんな監督や出演者たちの細やかな作業の中で、人と人の大切な気持ちが通い合う素敵な作品に仕上がるに違いない。撮影現場を去る際に、「気持ちが映るのが映画ですよね?」と僕が何気なく口にした一言に工藤さんが返した言葉が蘇った。
「それがなかったら、こういう映画はどこを観るの? 人間を観る映画だし、それが映っているから、この作品に出演できて本当によかったです」

 季節が春に変わるころ、夫婦が、親子が奏でるその優しい“心”の物語が、日本全国を温かい涙で包み込むことだろう。ああ、春が待ち遠しい!

(取材・文/ライター イソガイマサト)


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