映画 情報 新作 試写会 上映スケジュール
ようこそ!   メンバーページ
占い
2003.12.16(火)更新
【東京シネマのぞき見隊】(12)
アニメーションの巨匠の特別講議
<ユーリ・ノルシュテイン ワークショップ>で生体験!
【東京シネマのぞき見隊】(12)アニメーションの巨匠の特別講議<ユーリ・ノルシュテイン ワークショップ>で生体験!
「霧につつまれたハリネズミ」('75) (C) Yuri Norshtein
友達のクマとお茶を飲むため出かけたハリネズミは、霧の中に迷い込んでしまう。切り絵アニメということを忘れてしまうほど、美しく幻想的な霧の表現。短編ながら、霧の中の心細さ、ピンチを助けてくれる大きな動物たちとの交流を小さなハリネズミと体験すると、心がひとまわり豊かになった気にさせられる。
【東京シネマのぞき見隊】(12)アニメーションの巨匠の特別講議<ユーリ・ノルシュテイン ワークショップ>で生体験!
アート・アニメーションの巨匠ユーリ・ノルシュテイン氏
スタジオ・ジブリの高畑勲監督をはじめ、多くの作家からも支持されている
【東京シネマのぞき見隊】(12)アニメーションの巨匠の特別講議<ユーリ・ノルシュテイン ワークショップ>で生体験!
スクリーンに映し出されたスタジオの写真
バラバラの切り絵のパーツが、ノルシュテイン氏の手にかかれば素晴らしい作品になる!
しかし、本当にこの散らかったスタジオから生まれているのか!?
【東京シネマのぞき見隊】(12)アニメーションの巨匠の特別講議<ユーリ・ノルシュテイン ワークショップ>で生体験!
「歌舞伎の動きを参考にした」という動きを、大きな声を発しながら実演するノルシュテイン氏
あまりに激しく動くため、カメラでは追いきれませんでした
【東京シネマのぞき見隊】(12)アニメーションの巨匠の特別講議<ユーリ・ノルシュテイン ワークショップ>で生体験!
スクリーン上で「一茶と北斎を参考にした場面構成に、ロシアのイコン画の色彩を合わせた」と説明するノルシュテイン氏
喋る勢いが速くて通訳が追いつかないこともたびたび

>> 公式サイト
MovieWalkerレポート TOPへ
「霧につつまれたハリネズミ」('75)などの
“映像詩人”ユーリ・ノルシュテイン氏が
やって来た!


 粘土で作ったキャラクターを少しずつ動かし、1コマ1コマ撮影して作られたクレイ・アニメの「ウォレスとグルミット」シリーズ('89〜)や、パペット(人形)・アニメの「チェブラーシカ」('69)など、さまざまな表現方法を用いる、いわゆるアート・アニメーションと呼ばれるジャンルは日本でも人気が高い。その中でも“映像詩人”と名高いロシアのアニメーション作家ユーリ・ノルシュテインをご存知だろうか? 手法に、切り絵を使ったノルシュテインは世界中で高い評価を得ている人物で、代表作は「霧につつまれたハリネズミ」('75)などがある。この「霧につつまれた〜」と私との出会いは、昨年、友人から借りたDVD。切り絵ということを忘れさせる画面の美しさ。それだけでなく、彼の作品はどれも短編で、「霧につつまれた〜」も12分しかないが、私にはその中に人生の悲喜こもごもがすべて詰め込まれているように感じられ、何度観てもその感動が薄れないのです! 私は1度観ただけで虜になってしまい、その後、彼の作品を観られるだけ観返しまうほどハマってしまったのは言うまでもない。
 そんなユーリ・ノルシュテイン氏が新作「冬の日」の公開にあわせて来日することが決まった。そして、自ら講義する“ワークショップ”まで開催されるのだ。これぞ天の思し召し! はやる気持ちを抑えつつ、ワークショップの会場である中野ZEROに向かった。
静的な作品を生み出す巨匠は、意外に情熱家!?
その時、彼は壇上で奇声をあげ、飛び上がった!


 いくら巨匠ノルシュテイン氏とはいえ、まだまだ一般的な認知度はまだまだと思っていたが、会場に到着していきなりビックリ! 10:00の開場時間には、入口に長い列ができており、結局、会場は300人ほどの参加者であっという間に埋まった。日本での彼の人気は私の予想を軽〜く越えていたらしい。
 壇上に現れたノルシュテイン氏は、ヒゲに覆われた顔の、巨匠らしい落ち着いた佇まい。講義は彼の新作、松尾芭蕉の手掛けた連句“冬の日”を映像化した「冬の日」のなかから、ノルシュテイン氏が制作した一編を題材に行なわれた。
 スクリーンに直筆のスケッチを映して、講義を始めたのだが、やがてハプニングが発生する! 「作品制作にあたり、資料を可能な限り集めた」と説明していただけあって、壇上のノルシュテイン氏の机上にはスケッチなどの資料がどっさり。しかし説明に必要な資料が見つからず探しまわるという一幕が起きてしまい、講義が一旦中断。
 また、ロシアの撮影スタジオのことを説明する際には、突然不機嫌になるという事態も。なんでも、「大切なスケッチを捨てられてしまったことがあり、さすがに怒鳴り散らしてしまったよ」とのこと。そのときの怒りがブリ返してきて、オカンムリの様子なのだ。しかし、スタジオでの彼のデスクの写真が映し出されたとき、そこもかなりグチャグチャだったので、「それはしょうがないのでは」と心の中で呟いてしまった。
 そして極めつけは、キャラクターの動作を壇上でオーバーに実演し始めた…。その瞬間、私の中の“寡黙で温和な映像作家”という勝手なイメージはガラガラと崩れていった。会場の人たちも私と同じイメージを彼に持っていたのか、笑って良いのか戸惑いを隠せない様子。しかし、やがて会場全体に笑い声がわき始め、いつしか穏やかなムードに包まれていた。彼いわく「スタジオでも、いつもスタッフに笑われているんだ。慣れているよ」とアッサリ。こんなにユーモラスで、情熱的な人だとは思っていなかったので、いい意味で驚かされました。
 さらに驚かされたのは、ノルシュテイン氏が参考にした資料には、小林一茶の俳句と絵、葛飾北斎による富嶽三十六景など我々日本人でも、知識に自信のないものばかり。ノルシュテイン氏は芭蕉だけでなく、一茶の俳句にも詳しく好きな作品を次々と並べたて、さらに一茶が描いた絵を取り上げて「軽やかなタッチ、無駄な線が1本もない」と熱く説明。「冬の日」の強風のシーンで参考にしたという、北斎の“駿州江尻”では、「強風の中で笠を押さえている男の体の構図を、北斎は完璧に捉えている」と絶賛。ロシア人である彼がここまで詳しくなるにはどれだけ調査したのかと想像すると、その徹底した努力の積み重ねに、彼の作品の美しさの秘密が見えた気がした。
「何ごとも、難しく考えてはいけない。ときには
友人と酒をくみかわし〜」味わい深い人生論に、
さすがは巨匠! と男惚れ!


 その後、ノルシュテイン氏は「色彩、キャラクターの動作、照明、物語など、すべての要素が統一された構成となり、どこで止めても1枚の絵として完成されてなければいけなく、そして、そこから高度な精神性を表現する」と独自のアニメーション論を説明。では、その境地に行き着くには実際にどうすれば良いのかというと、「苦しむこと」と深〜い一言をおっしゃられてました。  講義の終了時間がくると「もっと時間をかけなければ、すべて伝えきれない」と本当に悔しそうでしたが、いえいえ、会場からのなかなか鳴り止まぬ拍手を聞けば、巨匠の熱意はみんなに伝わったこと間違いないでしょう!
 そして、拍手の後に「何ごとも、難しく考えてはいけない。1人では良い作品はできないからこそ、ときには友人と酒をくみかわすことも必要で、語り合い、お互いに刺激しあうことが大事だ」と味のある言葉でしめくくってくれました。この言葉は、まるで彼の作品を観た後に残る余韻のようで、やはりノルシュテイン氏の作品の魅力は、彼の人柄そのものだと確信させるものだった。ところで、彼は新作の「冬の日」には、制作時間が足りなかったため満足していないらしく、撮りきれなかったシーンを独自に撮影し、さらに色彩に磨きをかけているとのこと。妥協なき名匠の満足した完成作品の上映を、いちファンとして心待ちにさせていただきます!!!
(取材・文/根本悠 ワークス・エム・ブロス)


(C)KADOKAWA X MEDIA ALL RIGHTS RESERVED.