「スチームボーイ」のルーツは、大友克洋が「MEMORIES」('95)製作中に手掛けたオムニバスの一編「大砲の街」にあった。これは大砲を撃つためだけに暮らしているという特異な住人たちを描いた短編だが、そんな歯車や蒸気機関が登場する時代の世界観をもっと大きなスケールで描きたいと思って構想を練った作品が「スチームボーイ」だったのだ。さらに製作にあたって監督が意識したコンセプトは、手塚治虫の「鉄腕アトム」だったという。でもそれは未来の世界ではなく、蒸気の力、すなわち19世紀のイギリスという形で広がっていった。もともと「大砲の街」の時代設定も第一次世界大戦のヨーロッパをイメージしたものだったが、蒸気機関の発明以降、次々と新しいものを生みだしていくという時代背景こそ、まさに監督が求めていたものだった。それらのコンセプトを投影させた映画は、監督の言葉どおり「過去の時代を描きながらも未来を見つめている映画」となった!


従来、蒸気機関動力を大きくするためには巨大ボイラーが必要だったが、レイの祖父ロイドと父エディは蒸気の圧力を高密度に圧縮・小型化するという実験に成功。その偉大なる発明品が“スチームボール”で、すさまじい威力を誇る


1954年宮城県出身。1973年に短編「銃声」で漫画家デビュー。その後、「気分はもう戦争」('82)や「童夢」('83)で一躍ブレイクし、同時期連載していた「AKIRA」('88)がメガヒットとなり、その新しい表現方法は、業界内外でも多大な影響を及ぼす。その後アニメ界に進出し、原作・脚本・監督に携わった劇場版アニメ「AKIRA」('88)が国内外で高い評価を受け、「MEMORIES」('95)では、原作・製作総指揮・総監督の他、第3話「大砲の街」では、監督・脚本・キャラクター原案・美術を担当している


83年 「幻魔大戦」(キャラクターデザイン)
88年 「AKIRA」(原作・脚本・監督)
91年 「老人Z」(原作・脚本・メカデザイン)
95年 「MEMORIES」(原作・製作総指揮・総監督/Episode 3「大砲の街」原作・脚本・キャラクター原案・美術・監督)
98年 「スプリガン」(総監修・構成)
01年 「メトロポリス」(脚本)


まるで写実的な絵画を見るような背景画に思わずうっとり。ディテールの細かさはもちろん、どこかざらついた感じのある質感がいかにも産業革命時代を思わせる


19世紀のロンドンを忠実に再現するために、まず大友監督や美術監督の木村真二たちスタッフが行ったことは、イギリスを回る10日間のロケハンだった。ロンドンからマンチェスター、ヨーク各地の博物館や紡績工場など、産業革命の名残を残す建造物から、機関車、潜水艦、エンジン機構にいたるまでをロケハンし、そこで得た写真をもとに、綿密な背景画を作り上げていったのだ。加えて19世紀ならではの空気感や質感を投影させるために、手書きの背景データをモニター上でレタッチするという手法がとられ、まるで絵葉書を思わせるような重厚な絵が作られていった。さらに、これらの背景画を最大限に生かすために、“カメラマップ”という背景美術を3Dカメラ側から投影して映像を作っていくという手法も取られた。その他、大友監督が特に力を入れた蒸気の表現だが、これについては手書きにこだわったエフェクト作画監督の橋本敬史が、本当に熱気で包まれるようにリアルな蒸気を作り上げた。

CGカメラから見た方向から絵を張りつけるという手法のこと。たとえば右上のイラストにご注目! 手前の蒸気メカのみ3Dで描かれ、後ろから走ってくる蒸気機関車や、その手前を走るレイの一輪自走車は2Dで表現されている。

また、背景の田園風景のゆがみも、ほぼ完成画面と同じ遠近法で描かれている。でもこれらの3Dや2Dの映像や背景という異なる要素を違和感なく組み合わせることによって、劇中のハイライト・シーンのひとつであるド迫力の走行シーンが出来上がったのだ!

壮大なる「スチームボーイ」の世界観をさらにドラマチックに膨らませたのが、新進気鋭の作曲家スティーブ・ジャブロンスキーの音楽だ。このジャブロンスキーは、「ライオンキング」('94)でアカデミー賞も受賞したハリウッドを代表する音楽監督ハンス・ジマーの愛弟子という注目株。躍動感に溢れた叙情豊かな曲目の数々を大友監督も大絶賛していて、完成披露記者会見で「ジャブロンスキーが仕上げてくれた音楽が非常に良かったから、すごくラッキーだったと思いました」とコメントしていたのも記憶に新しい。

「スチームボーイ」オリジナルサウンドトラック
発売元: ビクターエンタテインメント3045円 7/14(水)発売