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蜷川さんの作品でデビューできたのは、本当にありがたいことだったと思います」
廃墟と化した民谷家を訪れるひとりの若侍。彼は消息の途絶えた伊右衛門の身を案じ、親戚縁者のなかから代表で選ばれた青年──佐藤余茂七。
演じるのは、蜷川幸雄監督の秘蔵っ子との呼び名も高いアーティストのMAKOTO。故・尾崎豊のトリビュートアルバムにも参加するなど、ミュージシャンとしての活躍も著しい彼が、待望のスクリーン・デビューを果たす。観客の視線を一瞬にして奪う、精悍な顔立ちと強いまなざしが印象的だ。
「監督から"お前ちょっと、出ないか?"と電話がかかってきた時は、思わず"待ってました!"って。で、どうしても出たくて、決まっていたレコーディングの日もずらしてもらったんです。急いで京都の撮影所に行って、ホテルに着いてすぐ蜷川さんに会いに行きましたね。台本とペン持って、余茂七をこう演じてほしいっていう監督の注文をページの余白に書き出して、それをあとで自分なりに消化していったっていう作業をしました」
台詞が少ないだけに、複雑な心情を表現するのはなかなか難しい。さらに、会ったこともない親族の思いがけない姿に頬を涙がつたう。撮影前のちょっとした葛藤を、そっと打ち明けてくれた。
「泣けなかったらどうしよう、どうしようと思って、みんな昼飯食べててにぎやかな時に自分だけ精神統一してみたり。で、いよいよ本番っていう時、香川照之さんに"どうしたら泣けるんでしょう?"って聞いたんです。そうしたら"だったら泣かなきゃいいんだよ"って。その途端、涙腺が…(笑)。香川さんのひと言が、自分のなかのなにかをすっとつかんでくれたような気がしましたね。それから撮影後には監督が抱きしめてくれて。蜷川さんの作品でデビューを飾れたことは、本当にありがたいことだと思ってます」
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