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2004.9.27(月)更新
【東京シネマのぞき見隊】(32)
傑作は夜にこっそり作られた!? 新星アニメ作家・辻直之
カンヌ国際映画祭凱旋上映<辻直之アート・アニメーション>
【東京シネマのぞき見隊】(32)傑作は夜にこっそり作られた!? 新星アニメ作家・辻直之カンヌ国際映画祭凱旋上映<辻直之アート・アニメーション>
「闇を見つめる羽根」('03):辻監督が独自に神話などからイメージした、天地創造の物語。“9.11”に大きなショックを受けたというストーリーは、善と悪の力の拮抗の末に、辻監督が模索し続けた開放的なラストをむかえる。
【東京シネマのぞき見隊】(32)傑作は夜にこっそり作られた!? 新星アニメ作家・辻直之カンヌ国際映画祭凱旋上映<辻直之アート・アニメーション>
辻直之:アーティスト・映画監督。1972年静岡県生まれ。1995年東京造形大学卒業。在学中は、彫刻を専攻していたが、ブラザーズ・クエイの「ストリート・オブ・クロコダイル」('86)を見てアート・アニメを志す。アニメ制作と平行して、インスタレーションや平面作品でも活躍。2002年岩崎ミュージアムにて個展。バンコク、ソウル、ロンドン、パリなどの映画祭で作品が上映される。2004年「闇を見つめる羽根」が、カンヌ国際映画祭・監督週間に招待。
【東京シネマのぞき見隊】(32)傑作は夜にこっそり作られた!? 新星アニメ作家・辻直之カンヌ国際映画祭凱旋上映<辻直之アート・アニメーション>
会場には、撮影に使用された原画が展示されていた。原画は1シーンにつき1枚しかなく、残っているのは最後の1コマのみ。1コマ撮影した後、その絵を消してしまうためで、もちろん途中からの取り直しはできない。辻監督は、フィルムを入れ忘れて作業していたことに気づいた時のショックで、泣いたことがあるそう。
【東京シネマのぞき見隊】(32)傑作は夜にこっそり作られた!? 新星アニメ作家・辻直之カンヌ国際映画祭凱旋上映<辻直之アート・アニメーション>
9月11日(土)には、辻監督の大学の先輩である宮崎淳監督がゲストとして来場。宮崎監督は、辻監督と同じく2004年カンヌ国際映画祭・監督週間に「FRONTIER」('03)が招待され、若い視点賞を受賞した。10月16日(土)から、同会場で宮崎監督の作品が特集上映される。
【東京シネマのぞき見隊】(32)傑作は夜にこっそり作られた!? 新星アニメ作家・辻直之カンヌ国際映画祭凱旋上映<辻直之アート・アニメーション>
「呼吸する雲」('03):雲の輪郭が、次々と人のカタチに変化する。エロティシズムを感じさせる時もあれば、哲学的でもある不思議な作品。辻監督の最新作。

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資金が足らず出品中止の危機も…
いかに、カンヌ上映を果たしたのか?


 今年(2004年)のカンヌ国際映画祭での日本人の活躍といえば、柳楽優弥くん(14才)が最年少で主演男優賞を受賞したことなどが思い出されるだろうか。しかし、一方で日本の実験的なアート・アニメーションが招待作として上映されていたことは、意外と一般では知られていない。そのアニメ作品とは、最新のCG技術満載の押井守監督作「イノセンス」ではなく、木炭画によるアニメ「闇を見つめる羽根」だ。この作品を、たった1人で8年をかけ完成させた辻直之監督は、カンヌ上映が決定した際、渡航資金が足らずカンパを募集している記事が新聞に掲載された。辻監督はいかにして、カンヌへ飛んだのか? カンヌ国際映画祭凱旋上映として、特集上映<辻直之アート・アニメーション>が開かれた渋谷・UPLINK FACTORYへ行ってきた。トークショーで辻監督の口から語られたカンヌへの道は、たいへんな苦労の連続だった。
世界的に珍しい木炭アニメとは?
17分に8年間をかけた作品「闇を見つめる羽根」


 そもそも、木炭画アニメーションとはなにか? 普段、テレビなどで見るアニメーションは、1コマごとにキャラクターの動きに沿った絵を1枚ずつ描いていくが、木炭画によるアニメは、1度描いた絵を少し消し、同じ紙に次の動きを描き加えていく。消した部分は、完全には消えず薄いグレーの跡が残り独特な味わいとなるのが特徴。人形や粘土を素材にしたアニメは多く作られているが、木炭画によるものは珍しい。カンヌ出品作「闇を見つめる羽根」は、あいだに4年間のブランクをはさんだものの、8年間もの歳月を費やした。創世記的な物語で、世界が破壊される描写が、終盤ちかくにあるのは“9.11”の影響だという。17分の作品のために描いたコマ数は“13000”。木炭を消すためにはパンを使うため、部屋がパンくずだらけで大変だったとか。
 作品の上映が始まると、月曜日のレイト上映にもかかわらず、ほとんどの席がうまり、観客は一心にスクリーンを見つめていた。辻監督の作品は、セリフやナレーションがほとんど無く、キャラクターの造形や動作にメッセージを込めて、ストーリーを観客の想像力に訴えかけるスタイル。その豊かなイマジネーションに、見る者は引き込まれてしまう。
監督の女装にビックリ!
遠かったカンヌへの長い道のりとは?


 上映後に行なわれるトークショーのため、客席の前に登場した辻監督は、ナント女装! 進行の鈴木朋幸プロデューサーに格好のことを聞かれると、辻監督は「作品発表ではしたい格好をしようと思って、3、4年前に始めました。ただ、この格好は作品発表の場だけです」とのこと。もちろんカンヌでも女装をしたのだが「フランスの女性、特におばさんがハデで、髪から靴まで真っ赤な人もいて目立たなかったです」。辻監督は、女装という思い切った格好とは裏腹に、アーティストらしい(?)おとなしい雰囲気を漂わせ、小さな声で一言ずつ言葉を選んで話す。

 話はカンヌ出品までの経緯に移ったが、辻監督は出品が決まっても、困難が山積みでカンヌを諦めかけたこともあったそう。まず、最初に“ドッキリじゃないか?”という疑問がわいたそうだ。美術大学時代の先生のすすめで、フランスの実験映画のアーカイブに作品を預けていた辻監督のもとに「映画祭のセレクターから“作品を上映したい”とEメールが突然きたんです。サギかもしれないと言う人もいて、最初いたずらかと思ったんです」と、事の真偽を確認するのに手間どることに。
 次に問題になったのは費用。「良く分からないままやりとりする内に、経費が100万円ほど必要なことが分かって大変でした」(辻監督)。カンヌでは上映フォーマットを35mmフィルムに限定しており、16mmフィルムで作られている辻監督の17分の作品を35mmに現像所でブローアップする必要があり、そのために約60万円、さらに、渡航費、宿泊費など約40万円が必要だった。その時点で、映画祭まで約1ヶ月。自主製作で作品を作っている辻監督に、短期間で100万円を用意するのは大変なこと。「友人が上映会を開き、カンパを集めてくれて、あと国の助成金を申請することもでき、なんとか皆さんのお陰でお金の用意は整いました。でも…」と、辻監督の苦難は続く。
 「ブローアップするための35mmフィルムは扱ったことがなかったので、分からないことが多くて大変でした」と、現像所などの数々の手続きと、せまる時間との戦いの末、辻監督はやっとカンヌへ旅立てたのだった。

 辻監督の作品が上映されたのは、カンヌ国際映画祭の監督週間で、今年、石井克人監督の「茶の味」が、日本映画では始めてオープニング上映を飾って話題になった。「会場は600席ぐらいの大きさで、カンヌの中では小さい所だったんですけど、でも、その大きさで上映したことは今まで無かったので、見に来てくれる人がいるか心配でした」と、謙虚な辻監督。
 結果、会場は6〜7割ほど観客で埋まった。「観客の反応もまずまずで、作品が気に入らなくて途中で席を立つ人や、ブーイングする人も出ずに最後まで見てもらえました。話かけてくれた人もいたんですが、通訳がいなくて、片言の英語でしか話ができなかったり、会期中は出品者がそこらじゅうでパーティを開き作品の宣伝をしていて、慣れないことばかりでした」。しかし、片言でも好意的な海外のファンとの交流を経て、辻監督は「神話や宗教などのモチーフが入った作品だったので、欧米人からは厳しいことを言われるかと思っていたんですが、作品の意図が伝わっていたようなので、もっと、多くの人に作品を見てもらいたいと意欲が出てきました。新しい作品の構想もいくつかあります」。カンヌの劇場で、上映が終わった時に満場の拍手を受けたことで「一時はカンヌへ行けるかどうかも分からない状態でしたが、(行けて)良かったです」と、何ものにもかえ難い思い出となったようだ。
傑作は、夜にこっそり作られる
新星アニメ作家の今後に注目!


 カンヌでの上映を経て、「個人で製作するよりもメジャーな場で活躍したいという思いがでてきたのでは?」と、鈴木プロデューサーがたずねると、辻監督は「作品は自分のペースで作っているので、締め切りのあるメジャーでは通用するか自信がないです。技術的にも、まだまだ至らない部分がありますし」と、またも謙虚な姿勢。辻監督は、デパートなどのディスプレイを製作する仕事をしつつ、「自分の作品を深夜に、こっそりと作るのが性に合っている」という。「夜型の生活で、昼間が苦手なだけなんですけど」と照れながらも、真剣に作品に取り組んでいる様子が伝わってくる。
 「実は、木炭画のグレーの残像効果は、最初、カメラに写らないと思って始めたんです」という辻監督。結果的に、その演出効果を発見し魅力に取り付かれた。辻監督は、人形を使ったアニメも作っていたのだが、今では木炭アニメのアイディアしか浮かばないそう。「人形アニメは、有名な巨匠が多く、それ以外にはライバルも多いですし。それに、キャラクターを空に飛ばしたりする時、人形より木炭画は楽なんです」と笑っていたが、辻監督の作品が意欲的なものであることは一目瞭然。カンヌで新たに力を得てとりかかる、新作の完成が今から楽しみだ。

 辻監督は、2ヶ月に1回、横浜岩崎ミュージアム内の山手ゲーテ座ホールで開かれる自主上映会“ペペ馬場キネマ劇場”の主催にかかわったり、旧友の芸術家・寺上匠と組み、街中でインスタレーション作品の展示をする“スクラップ祭り”などの芸術活動も行なっている。新作の完成まで待てないという方には、左下のリンクからチェックして、是非、辻作品の魅力に触れていただきたい。
取材・文/根本悠(ワークス・エム・ブロス)

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