【第27回】創意工夫を重ねて81年、今池の名物パン店「中屋パン」

東海ウォーカー

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自社ビルの1Fに位置する「中屋パン」。ビル名のにんべんは“人が集まるように”との願いで付けた


名古屋駅や栄などのデパートでも販売されている「あんドーナツ」で有名な「中屋パン」は、創業から81年を数える名古屋を代表する老舗パン屋さんである。

今池に在り続ける有名パン屋さん


3代目の平井成明さん。先代の叔父は引退して会長に就き、今も店に顔を出している


「中屋パン」の現主人は平井成明(しげあき)さん。店は1936年に成明さんの祖父が創業し、2代目の叔父から成明さんが3代目を継いだのは4年ほど前。現在は成明さんが、交代で出社する10人ほどのスタッフと一緒に店を回している。

店の奥にあるキッチンでは、スタッフが常に仕込みや焼成を行っている


成明さんは20歳から「中屋パン」に勤め、今年で41年になる。肩書こそ“社長”だが、今もキッチンでスタッフと一緒にパンを焼き続ける。「よくやってくれるスタッフに恵まれて、私が特に指示しなくても『○○パン焼いておきました』なんて、自主的に店を回してくれています。本当にありがたいです」と成明さん。なかには20年以上勤務しているベテランもいるそうだ。

【写真を見る】名物の「あんドーナツ」。どこかで配るのだろう、「今から行くで50個用意しといて〜」という電話予約も珍しくないそう


「中屋パン」の看板商品は「あんドーナツ」(140円)。「雑誌などで紹介していただいたり、食べておいしいとクチコミで広がったり。今でもあんドーナツ目当てにお越しくださるお客さんが多いですね」と成明さんは目を細める。またそれ以外にも、50種類ほどのバリエーション豊かなパンを店に並べ、新商品も頻繁に登場する。「新しいパンや改良レシピを思いついたら作ってみて、スタッフみんなに試食してもらいます。うちのスタッフは、いろいろなところで食べて舌が肥えていますから、クリアするのはなかなか大変です」。

“ほかよりおいしいパン”を目指した、酒種などの工夫


やわらかなパン生地に、どっしりとしたこしあんが入る。シナモンシュガーではあるが、和菓子にも似たやさしい甘さで味わえる


「中屋パン」のモットーは“どこにでもあるけど、どこよりもおいしい”だ。名物の「あんドーナツ」は、その象徴的なものだろう。店で作った酒種をパン生地に混ぜており、これによってパンが硬くなりにくく、ひときわふんわりとした食感に仕上がる。中のこしあんは北海道産小豆にこだわり、専用にオーダーして製餡所から仕入れている。外側にふりかけてあるのはシナモンシュガーだ。酒種の使用は手間も時間もかかるが、だからこそ多くのファンに愛されるというわけだ。

つぶあん、生クリーム、グラニュー糖で甘く仕上げられた「名古屋あんドーナツ」。甘味のインパクトはあるがしつこくなく、不思議なさっぱり感がある


そして、あんドーナツに続く新名物として誕生したものが「名古屋あんドーナツ」(170円)である。これもパン生地には酒種を使用しているが、あんはつぶあん、ふりかけてあるのはグラニュー糖という、名物とは異なる点がある。生クリームをただ追加しただけではない、試食とレシピ改善の積み重ねによって生まれた、傑作の1つである。

「かつサンド」のトンカツに染み込んだソースの内訳は企業秘密。トンカツはパンのサイズにカットしてあり、端までピッタリと配置されている


菓子パン以外にも注目してみよう。総菜パンで人気が高いのは「かつサンド」(440円)だと成明さんは教えてくれた。千切りしたキャベツと一緒にはさまれたトンカツは、成明さんの同級生が経営する精肉店からロース肉の塊を仕入れ、店で揚げたもの。トンカツの食感はやわらかく、ソースの味付けはまろやか。「ソースはウスターソースが少し、あとは3種類ぐらいを混ぜています」と成明さん。

焼き立てを出すために、キッチンは常に回転


サクサクとした食感のクッキー生地に、ピーナッツをちりばめて焼いた「ピーナツケーキ」


今回取材に行ったのは昼過ぎの時間帯。成明さんとスタッフは、取材中も常に手を動かし、パンの調理を行っていた。だから閉店間際を除いては、どの時間でもいずれかのパンは焼きたての状態で購入できる。取材中に焼きあがったのは「ピーナツケーキ」(140円)だった。成明さんは「商品を切らさないようにしています。特にあんドーナツは、これを求めていらっしゃるお客さんが多いですし、1人で20個30個と買われていく方もいますから」と嬉しそうに笑う。

左が注文生産の「ランタンスペシャル」。卸先でカツサンドに使用するのに合わせて少し大きく作ってある。右は通常販売の「食パン」(660円)


「あんドーナツ」の大量購入には電話予約も利用できる。また、店頭に並べてはいないが、予約注文で購入できる「ランタンスペシャル」(1本1160円)という特別な食パンも隠れた一品だ。「今池のあるバーに卸しているカツサンド用の食パンです。私がほかのバーに行く時、おみやげで持っていくこともあるのですが、そこで振る舞われたお客さんからは『お酒のツマミになる』と評判です。トーストにせず、何も塗らなくてもおいしいですよ」。

パンの購入は、客がトレーを持って選ぶスタイル。奥のキッチンから焼きたてパンが頻繁に届けられる


老舗であり、長年作り続けている人気商品がありつつ、常に工夫を凝らして“どこよりもおいしい”を目指す「中屋パン」。実は成明さんの娘も、この店を一緒にやりたいと言っているそうだ。「まだ製パンの専門学校に入ったばかりですが、うれしい話ですね。でも私がここしか知りませんから、娘には『ほかの店でも勉強してこい』と言っています。そうして学んで、いずれうちに入って、また新しい味を作ってくれたらいいなと思っています」と成明さんは照れくさそうに笑う。「中屋パン」は、これからも長く続き、おいしいパンを生み出してくれることだろう。【東海ウォーカー/加藤山往】

加藤山往

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