連載第3回「大阪インバウンド最前線」急増する海外からの観光客 黒門市場はどのように対応したのか

関西ウォーカー

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この連載は、大阪で激増するインバウンド(訪日外国人観光客)の最前線を人気施設や旅行・観光に詳しい業界関係者などキーパーソンに話を伺うインタビュー企画。第3回は黒門市場商店街振興組合の山本善規理事長、吉田清純副理事長の両氏に、外国人観光客で賑わう黒門市場の現状や、インバウンドが成功した理由、さらに今後の展望などを聞いた。

左から黒門市場商店街振興組合の山本善規理事長、吉田清純副理事長


東南アジアを中心に外国人観光客が急増


――今日もすごいお客様の数ですが、一日の通行者数はどれくらいでしょうか?

山本:今年3月の調べでは、1日平均3万人。そのうち9割が外国人のお客様です。これがインバウンドの影響が出る前は1日平均1万2千~1万3千人でほぼ100%日本人のお客様でした。ですので、当時よりおよそ3倍近くの数になっています。

――インバウンドの影響が出始めたのはいつからでしょうか?

山本:2011~2012年ごろからですね。当時の黒門市場は、他の商店街と同じく、お客様の減少傾向にあり、少しずつ空き店舗ができていました。その頃から積極的に外国人観光客の受け入れをはじめて、徐々に人が増えていきました。

――外国人観光客が黒門市場に訪れる目的や理由はどこにあると思いますか?

山本:やはり“食”ですね。それも“立ち食い”です。日本人にとって店先に立って何かを食べることは、行儀が悪いという風潮がありますが、東南アジアなどは屋台文化が発展している分、そういったことに否定的な感覚があまりないんです。店先で食べられるように提供し始めたことが、彼らのニーズにうまく合致したんでしょうね。

フルーツも店先で食べられるように工夫!旅行者にも大人気だ


また黒門市場は食の市場ということで、あちらこちらで色々なものを食べられます。代表的なものだとお肉ですね。外国人にとって日本は正直で安心安全な国であるというイメージがありますから、神戸牛と書いてあれば、神戸牛。佐賀牛と書いてあれば、佐賀牛が間違いなく味わえる。しかも実際に食べてみるとおいしい。海鮮も人気で、カキやウニ、旬のお造りなどを味わっていただいています。

――様々な店舗がありますが、今のように店先で楽しめるサービスは、当初はどこもされていなかったということでしょうか?

吉田:最初はどこもやっていませんでした。また始まりも我々組合が率先したのではなく、個々のお店が独自に始めていったんです。そうすると外国人観光客の間でどんどんと需要が高まっていきました。

最初は「立ち食いなんか絶対にさせへん!」という店もあったんですが、隣の店が提供を始めるとお客さんがみるみる並ぶようになって。否定的だった店の方も「これはあかん」いうことで提供を始めて、あっという間に広がっていきました。そこはやはり商売人ですからね。その後は積極的に彼らに売れるような商品を、自分たちで工夫して売るようにまでなっていったんです。

――SNSでの拡散も市場のヒットに一役買っているそうですね

山本:日本人の方でもそうですけど、口コミほどありがたいものはないです。彼らは美味しいものがあるとインスタグラムなどのSNSでその場ですぐに発信してくれます。リピーターもすごく多くて、ビザの緩和や円安の影響、格安航空の発展なども手伝って、一度来てくれた方が2回目、3回目と何度も来ていただいている状況です。

――いろいろな理由が組み合わさって、この現象が起きていると

山本:幸運と言いますか、非常に恵まれた状況でございます。

しかし、単に「来て!来て!」というだけでは、簡単には来てくれないので、組合では吉田さんが中心となって、さらに外国人観光客がくるような仕掛けをいろいろと行っています。

前向きな取り組みが成功につながる


――具体的な仕掛けの内容をお聞かせください

吉田:2013年から黒門市場独自のパンフレットを製作し、ホテルや空港、各種交通機関に置かせていただいています。多言語による情報誌ですが、各店舗の情報を日本語のほか、中国語(繁体字)と英語で載せています。

黒門市場が制作し、ホテルや空港、各種交通機関で無料配布しているパンフレットは内容も充実


2015年からは、元々空き店舗だったところを組合で購入し、「黒門インフォメーションセンター」を設けました。多言語を使えるスタッフを常駐させて、道案内や店舗案内などの対応するほか、イートインもできる無料休憩所としても利用されています。これは全国の市場や商店街の中でもかなり画期的な取り組みだったと思います。

山本:外国人向けのアンケートの結果も大変役に立ちましたよね。

吉田:近隣の外国語学校の学生に協力してもらい、外国人観光客に対するアンケートをとって、毎年インバウンドに関する統計資料を作成しています。どこの国から来られたのか、今回で何度目の来場なのか、そういったデータですね。

またこちらからの質問するだけでなく、要望なども聞いていまして、市場全域にフリーWi-Fiを設置したのも彼らの意見からです。また、英語でのコミュニケーションの需要が非常に高いことが分かりましたので、現在は各店舗の経営者向けに、英会話教室も開いています。

山本:アンケートを通じて、何が良くて、何が悪かったのかを正しく理解することは非常に重要な作業で、今後さらに外国人観光客を呼ぶためにはどうすれば良いか、次に取り組むべきことが何かという答えが見えてくるんです。

インバウンドの成功モデルとしても注目


――それにしてもインバウンドに対する対応の動き出しが早いですよね。全国の市場の中でも珍しかったのでは?

山本:市場と名のつくところでは早い方だと思います。もともとインバウンドとは関係なく、国内の観光客向けに市場の観光化を進めていたことも功を奏しました。今現在も国内のバス会社と組んで、毎年1万人程の日本人観光客が市場を訪れてくれています。

そのような下地があったことも、インバウンドに素早く対応できた理由のひとつになっていると思います。

――2016年には中小企業庁から「はばたく商店街」にも選ばれています

山本:全国で30の商店街が選ばれている中で、インバウンドで頑張っている商店街はわずか3つだけでした。また黒門市場以外の2つの商店街は免税店を揃えるというやり方で成功されていますが、当市場に関しては、あくまでも立ち食いや食べ歩きがメインで、免税云々で儲けるというお店はほとんどありません。

外国人観光客で賑わう商店街の中でも、従来の市場のカタチを残しつつ、お客さんがどんどん増えているところを高く評価されました。

吉田:中小企業庁からは「はばたく商店街30選」と同時に、日本全国のインバウンドのモデル商店街に認定されました。全国で10の商店街が選ばれたのですが、近畿圏では黒門市場だけなんです。

――つまり全国のインバウンドの参考モデルになっていると

山本:今は商店街の集まりとして全国どこに行っても、一番最初に必ず聞かれることはインバウンドについてです。年間外国人観光客が何人来て、いくら落としていったのか、インバウンドのためにどんな取り組みをしたかという風に。

例えば先ほど紹介した「黒門インフォメーションセンター」は、トイレの修理費に2,000万円もかかったんですが、その頃には市場のインバウンドに対する評価もあって、国からの融資も受けやすい状態になっていました。

全国どこの商店街も、国からの融資は欲しいところですが、そのお金をどう使うかという具体策があまりないんですね。我々はそういう意味では逆で、たくさん食べる場所だからトイレがいる、外国人がSNSで発信するためにはフリーwi-fiがいる、というふうに具体的に意見を出せたんです。

私たちは立地などいくつかの好条件にも恵まれたということもありますが、手探りでも前向きにインバウンドに取り組んだことが、今の状況を作ったと考えています。

地元客と外国人どちらにも愛される商店街へ


――最後に、今後の課題をお聞かせください

山本:インバウンドに関してはまだまだ開拓の余地があるので、今後も積極的に継続して取り組んでいきたいと思います。

また外国人観光客による賑わいがある一方で、日本人のお客様が来られにくい状態にもなっているのも事実です。その理由は外国人観光客が市場を占拠してしまったことではなく、外国人観光客向けの商品が市場を占拠してしまっているからなんです。酒にしても、果物にしても、土産物にしても、あらゆる商品が外国人観光客向けのものになっていますから、当然、日本の方は買い物をしにくいですよね。

この現状を変えていくために組合でも常々策を講じていまして、例えば日本人専用の売り場を作ってみようかとか、長期に渡って来場することで初めて参加できる抽選会を設けてはどうかなどですね。

また予算をかけて日本人のお客様に何か還元できないかということで、地域の子供たちも楽しめる夜店イベントも始めています。基本的に組合員によるボランティアで実施されていて、原価を割るほどの低価格で、おいしいものを振る舞うこともあります。

「これからも進化し続ける黒門市場へ!」とPRする黒門市場商店街振興組合理事長の山本さん


私たちの市場を育てていただいた日本の方に対して、常に感謝の気持ちを忘れず、絶えず何かを打ち出して、どう現状を打破していくかが、今後の課題ですね。

(了)

※本企画は、情報誌「関西ウォーカー」2018年8/28発売号の大阪インバウンド特集「YOUは何しに大阪へ?」との連動企画です。

山下敬三

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