書道(文字)で人物や動物などをかたどり、文字と絵を組み合わせた“書道アート”という新しいジャンルを確立した、書道アーティストの原愛梨さん。公式グッズとして福岡のプロ野球チーム全選手の漢字Tシャツを手がけるなどして話題に。
書道家として最年少で文部科学大臣賞を受賞するなど順風満帆に思われた原愛梨さんが、書道アートとしての活動をはじめた理由とは。これまでの歩みや作品について、またプライベートの過ごし方など、さまざまなお話を聞かせていただきました。
幼稚園のころには、すでに書道家としての自覚がありました
――まずは書道をはじめたきっかけから教えてください。
【原愛梨】きっかけは、姉のマネしたがりだったからです。小さい頃から、姉がやっていることは何でもマネしたがる子で、書をはじめたのが2歳のころ。物心が付いたときにはもう筆付けの毎日で、幼稚園に通うころには、すでに書道家としての自覚がありました。
――いちばん最初に書いたものは、覚えていますか?
【原愛梨】ヨコに真っすぐ線を引いて、「一(いち)」の漢字をずっと書いていました。筆のタッチが身に付くまで、ひたすら何千本、何万本と。その後は、タテ線を加えた「十」の漢字や、ひらがなの「つ」を書いてカーブの練習をしていました。
――そんな原愛梨さんがいまでは書道アーティストですね。書道アートは、いつごろからはじめたのですか?
【原愛梨】思いついたのは2年くらい前で、いちばん最初に書いたのは「鶴の恩返し」という作品でした。それから「うさぎとかめ」などの童話シリーズをいろいろ書いて、スポーツ選手を手がけるようになったのは2019年の5月くらいです。毎日SNSにアップをしていたら、おかげさまで話題になりました。
――なぜ書道アートを手がけようと思われたのですか。
【原愛梨】書道家として個展を開いたときに、興味を持っていただける方と、持っていただけない方とがハッキリとしていたんです。とくに若い方や海外の方には全然興味を持っていただけず、どうすれば興味を持っていただけるのか、ずっと考えていました。それで、文字と絵を組み合わせたらどうだろうって思ってはじめました。絵だったらわかりやすいですし、世界共通ですし… そう思ったのがきっかけです。
――過去には、いちど就職されたこともあったと聞きました。
【原愛梨】はい。実は銀行に勤めていました。当時は、あまりにも仕事ができなくて… 毎日 泣いている日々。でも、そのときの経験があって、いまの私があるんだって思います。つらいときも、私のいちばん近くには書道があって、一緒にがんばって乗り越えてきました。これからも今日の経験が明日につながるという気持ちで、前を向いてがんばっていきたいです!
30時間くらい、ずっと書を書き続けていることもあります
――作品を書くときは、どのようなイメージで書いていかれるのでしょうか。
【原愛梨】最初に全体的なイメージをして、書は余白が大事なので、余白を含めたバランスを考えます。作品の全体像は、最初のイメージでできてしまう感じです。なので、書きはじめたら迷いなく完成に向けて書いていきます。人物を書くときは、だいたい頭からはじめて、あとはバランスを見ながら身体を書いていく感じです。
――作品を書くのには、どのくらいの時間がかかるのですか。
【原愛梨】作品のサイズにもよるのですが、10分くらいで書き終わるものもあれば、壁サイズくらいの大きな作品になると、30時間くらいずっと書き続けているものもあります。
――楽しいとき、悲しいとき、気持ちは作品にも影響がありますか?
【原愛梨】はい。線がまったく違ってきます。たとえば、過去の有名な古典作品をもとにして書く臨書(りんしょ)をすることがあるのですが、もし悲しい文章の作品だったら、私も悲しくて落ち込んでいるときに書かないと難しいんです。私の場合、言葉にできない、感情にならないことを書であらわすことが多いのですが、同じ作品を書いても同じ気持ちで向き合うことはできないので、同じ文字になることはないんです。上手く言葉で説明するのが難しいのですが。
――私たちにも、感情によって作品が変わっていることを見分けることができるのでしょうか。どうしても、太い線は力強い… と思ってしまいます。
【原愛梨】太く書いても、あたたかい線や、やさしい線を表現することはできるんです。きっと作品を見ていただければわかると思います。思いを込めて書いたものは、そのまま伝わると思いますので。
――本当に、深い世界ですね。最近は、携帯電話やパソコンで文字を打つことが増え、筆を持つ機会も減ってしまいました。
【原愛梨】そうですね。なので私も、あえて筆ペンで作品を書くようにしています。気軽に「そういえば家に筆ペンあったな、書いてみようかな… 」と思っていただけたらうれしいです。
――「書を広めたい」という思いが強いのですね。
【原愛梨】それがイチバンです! たくさんの人に、書を好きになってほしいとずっと思っています。たとえば手紙を書いても、感情によって、人によって文字が変わるので、肉筆だと伝わる情報量が多いと思うんです。
色としてはピンクとか、女の子っぽい色も好きです(笑)
――いつもご自宅で作品を作られているのですか?
【原愛梨】はい。昨日はまるごと1日を作業日として当てていたので、ずっと家にいました。書を書くテーブル、お腹が空いたときのキッチン、あとはトイレと、その3カ所以外にはどこにも行きませんでした(笑)。
――今日は、珍しく私服の原愛梨さんですね。
【原愛梨】いつもは、パッとみて書道家とわかっていただけるように、また印象に残るように、赤い色の袴を着ています。撮影のスタッフの方から「今日の撮影は私服でお願いします」と聞いて、あえて赤じゃない色のお洋服を着ていこうと思いました。でも、めっちゃ考えましたよ! どの服にしようかなーって(笑)。
――色としては、どのような色がお好きなのですか?
【原愛梨】お洋服を選ぶときは、黒とか白とか、無難な色を選んでしまうことが多いです。でも、色としてはピンクとか…女の子っぽい色も好きです(笑)。
――ご自身の性格を自己分析すると、どのような性格だと思われますか。
【原愛梨】天真爛漫と言われることは多いです。でも、ずっと明るいわけじゃなくて、落ち込むことだってあります。ただ、寝たら忘れてしまう性格です!
新しい作品をつくりたいという思いがあるので毎日楽しい
――いま現在、どのくらいの作品点数があるのでしょうか。
【原愛梨】公開している作品は200点くらいですが、毎日書き続けているため、もう何百点か書いていると思います。日々新しい作品を作りたいという思いがあるので毎日楽しいです。
――大きな実績として、プロ野球チームの公式グッズにも携わられました。
【原愛梨】地元が福岡ですので、福岡のプロ野球チームが大好きで、子どもころからずっとファンでした。公式ショップのグッズも見続けていて、いつか文字に関わるアイテムを手掛けたいと目標にしていたので、全67選手の漢字Tシャツを公式グッズとして、携わらせていただけて本当にうれしいです!
――最後に、今後挑戦してみたいジャンルやテーマがあれば教えてください。
【原愛梨】来年、東京オリンピックが予定されているので、いろんな競技の選手をモチーフに、全種目・全制覇に挑戦してみたいです。とくに海外の選手を描いて、海外の方のリアクションを見てみたいです。目の前で作品を書いて渡したら、どんなリアクションをしてくださるのか… 夢は世界進出です(笑)!
撮影=槇野翔太 文=千葉由知(ribelo visualworks) 取材=野木原晃一