夏木マリ独自の表現「印象派NÉO」関西初登場【その1】

関西ウォーカー

1970年代前半、妖艶な雰囲気とフィンガーアクションで大ヒットした「絹の靴下」の歌手として知られた夏木マリ。それからドラマや映画に出演する20余年を経て、93年に自ら制作・演出する「印象派」を立ち上げた。97年3月の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ。コンテンポラリーダンスをたった1人で踊る、その姿に驚いた。変わらぬ美しさに、その鍛えられた身体に。肉体の表現者として、凄みと迫力を感じた舞台だった。「身体を鍛えることは、心を鍛えること」。後日、テレビ番組で語っていた言葉に、それまでの彼女の歩みを思った。

それから20年後の今年4月。2009年に設立した主宰カンパニーMari Natsuki Terroir(マリナツキテロワ-ル)を率い、「印象派NÉO」シリーズの第3弾となる最新作「不思議の国の白雪姫」を、京都ロームシアターで上演する。

キャンペーンのために大阪を訪れた彼女は、かっこよく、変わらず美しかった。そしてどこか肩の力が抜けたような、新たな魅力をまとっていた。今回の舞台について、また自身の生き方について、「気持ちいい感じで生きてます」と語る夏木マリのロングインタビューをどうぞ。

Q:これまでの歩みは?

「『印象派』は93年からスタートしました。自分の実験劇場だったんです。印象派の絵画のモネやマネという宮廷画家だった人たちが反抗心を抱き、太陽の光で絵を描こうって初めてイーゼル持って外へ出た。その反抗心が私を押してくれたんです。それまでやってきた演劇が、自分の中でわけがわかんなくなってきていて、整理しようと思って。で、彼らと同じように、8回続けばいいわと思っていたんです。試行錯誤しているうちに、だんだん、ダンスシアターみたいになってきてね。私、ダンサーじゃないけど、ダンスが好きになっちゃったし。でも、8回なんてすぐ終わりました。それで『印象派NÉO』になって、もう一回やり切れてないことをやろうと。『NÉO』からはマリナツキテロワールというチームにして、私の踊らない分を踊ってもらったり。ポールダンサーやミュージシャン、歌手、俳優とか、いろんなバックグラウンドの人がいるチームです」

Q:「NÉO」では「赤ずきん」や「シンデレラ」など、おとぎ話を扱っていますね。

「それまでの舞台は、自分の中ではテキストがありますが、お客様にはストーリーがわからない。なので、万人にわかるテーマをと。私、おとぎ話がすごく好きなんです。おとぎ話って、魔女やいろんな動物が出てくるおもしろさ以上に、戦う、倒す、退治することが物語のおもしろさだなと思って。で、おとぎ話を取り上げて、今回が3作目。前作から3年も経っててビックリしたんですけど、自分の中で沸点がないとできないから、そうやって時間は過ぎて行く(笑)。『印象派』の舞台があってもなくても、年に2回ワークショップをやりながら、次回の作品に向けてキャスティングをしたり、つねに動いているので3年も経った気はしないんですけどね」

Q:今回の「不思議の国の白雪姫」はどんな舞台に 物語はありますか?

「私、自分が観に行くときも“なんだ、こりゃ!?”っていう舞台が好きで。だから、いつも“なんだ、こりゃ!?”を目指しているんです。今まで見たことのない空間と時間を共有したいというか。今回は、おもちゃ箱のようにやってみたかったので、私の好きなコンテンポラリーやストリートダンスなどのジャンルから、旬な振付家を入れて、その後、演出をしていこうと。新たな試みなんですけど。12人で演じます。2つの物語が皆さんにはわかるようになりますけれど、起承転結はつくりません。それは場面の見た目で私が気持ちよいつくり方をしようと思って。

今回は、笑えるような、わりとナンセンスなことをやりたいと思っています。私は作品のテーマやメッセージを言うのはイヤで、100人いたら100通りの解釈の仕方があっていいと思ってますけど…。人間て、いつも自分を探してるでしょ。観ていただいた時にイメージで、自分探しのきっかけや自分の思いや考えていること、好き嫌いだったりが、あ、私ってこういう嗜好なんだとか、こういうのは好きなんだなとか、自分を作っていくための、次につながるおもしろい90分の作品にしたいんです」

Q:「不思議の国のアリス」「白雪姫」を組み合わせようと思ったのは?

「全部読み直してみて、3つともにね、おとぎ話のなかで特に愛を感じたんです。冒険心もあったし…。最終的には、舞台で愛することを表現したいんだけど、なかなかうまくできない。普段、自分では愛されたいんだけど、舞台では愛したいのね(笑)。そんな作品をつくりたい。今回は、読んだ時に、“あ、これだ!”って感じて、両方とも捨てきれなかった。だったら2つやればいいじゃないかと思って(笑)。今、絶賛稽古中です」

Q:音楽は?

「斉藤ノヴ、私のパートナーが音楽監督で、相談しながらやってます。今回、生音が欲しかったので、カホン(CAJON)というペルーの楽器も使います。貧困のため、子供たちが箱だけ叩いて音を出してたのが、スペインに行って箱の裏に線が張られて、楽器となったもので。今、ストリートミュージシャンがよく使ってますね。今回は大きなカホンを特注で作っていて、それも楽しみなんですけど、おもしろい音が出るみたいです」

Q:演出で大事にしていることは?

「ダンサーがダンサーとしてでなく、人間として見えたい。ただ踊るだけなら、うまい人は世界中にいますよね。ダンスを身体言語として見せるんだけど、なにがその人を動かしているか、その動かしているものを見せるようにつくりたい。だから、あなたらしく、と。ウチのカンパニーには技術のない人もいます。その踊れないところがいいのよとかね、私なりに魅力を感じてる人が残ってるんですよ」

Q:今回一番楽しみにしていることは?

「今回公演する東京・京都・パリの、劇場の舞台機構が全然違うんです。世田谷パブリックシアターはすり鉢型にして、ロームシアターはプロセニアム、パリはステージが半分ぐらいでホリゾントを作る。全部しつらえが違うので、それがすごい楽しみ。どうなるのか、苦しみでもあるんですけど(笑)。今回は、パリに行くので大きなセットは作りません。テクノロジーの力を借りて映像を使います。だから、とっても私の演出力が見られてしまう作品なんです(笑)」

【その2】http://news.walkerplus.com/article/103013/ へ続く

高橋晴代

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