質感まで見事再現!ケント紙で作られた白のアートに圧倒される

関西ウォーカー

履いたことのある人、現在愛用中の人も多いであろう、スニーカーのコンバースオールスター。珍しい真っ白のモデルなのかと思いきや、これはケント紙で作られたもの。細かく編まれた靴紐、本体のキャンバス地に残るステッチ、コンバースらしいダイヤ形のラバーの凹凸、そのすべてが紙からできている。この驚異的なペーパーアートを制作するのは、美術作家の小坂学さん(Twitter:@coca1127)。制作風景写真を交えつつ、その精微で美しい作品の数々を紹介する。

小坂さんが学生の頃愛用していたコンバースオールスターズを再現


ゴム、キャンバス地、紐と違う質感をすべて紙で表現

小坂さんは作品の制作工程を随時ツイッターに写真付きでアップしている。コンバースオールスター制作にあたって最初にツイートされていたのは、靴底を細かく計測した写真だ。本物そっくりに仕上げるためには、まず対象物の分析が重要なのだろう。細かい部分まで計測、計算しているのが見て取れる。

細かい計測をしていくことで、モチーフへの理解を深めていく

靴底が完成したところ。細かい凹凸も表現

制作中のツイートでは、「一度作ると決めたら徹底的に。常に濁らず。」と発言。その言葉の通り、靴底のスニーカーならではの複雑な模様や、極小さな丸い滑り止め、コンバースのロゴまで再現されている。

キャンバス地は細く切った紙を縦と横とそれぞれ1枚ずつ貼っていくことで作り上げている。「布地の様な柔らかい表現は苦手です。どうしたら表現できるのか」「納得できず色々試してやり直しの作業。少しは布の表現に近づけたかどうか」とツイートされているが、その苦心に見合う仕上がりとなっている。

柔らかい質感を表現するため、試行錯誤が続いたという

足に沿う柔らかな質感が伝わってくる

最後に取り掛かったのは靴紐の部分。紐も細く切った紙を編んでいくことで造形している。キャンバス地の部分とは紙の細さが異なることで、布と紐の質感の違いが表現されていることがわかる。

コンバースの靴紐部分の制作風景

靴紐が通され、命が吹き込まれていく…

外側だけではなく、内部のパーツまで分解できるこだわりよう!

2021年3月から制作をスタートさせていたのは、30年近く前に親に買ってもらったというパナソニック製のラジオ。思い出深く、現在も愛用されているとのことで「いつか必ず作らなければならない」と思っていたのだそう。

モチーフになるのは小坂さんの愛用品

てっきりラジオの外側を作って完成になるのかと思いきや、小坂さんのすさまじいところはラジオの内部パーツもすべて再現されるところ。「完成後はあまり見えない部分もしっかり作り込んで。自然体な作品を表現する為には必要な作業だと思っています」とのこと。

ラジオの基板部分

細かいパーツが一つずつ組み立てられていく

1文字ずつ配置されていく文字。置かれる場所にも気を使っているのがわかる

スピーカーの内側のメッシュ

スピーカー内側のメッシュ部分はコンバースのキャンバス地の作り方と比較的似ているが、メッシュの分、隙間が必ず必要になってくる。その微妙な隙間が布との違いを明確にしているのだ。また、メッシュはスピーカーの内側にあるので、パーツを分解なければ見えないにも関わらず、この手間を惜しまず制作する姿にはため息しか漏れない。ツイッター上で「作り方を作っている」「手癖で作らない」という発言されているように、ストイックな姿勢が随所に表れている。

ケント紙で作り上げたラジオ

背面の文字もすべて1文字ずつ切り取って表現

驚異的なのは分解しなければ見えない内部のパーツも作り込んでいること

どれだけの時間と集中力をかけているのか…制作工程を想像しながら観たくなる作品だ

小坂さんが手掛ける作品は、「履き潰すまで愛用していたコンバースオールスター」「過去に愛用していた腕時計」「中学生の頃、怪我で入院した際に母に買ってもらったパナソニックのラジオ」と思い入れのあるものがモチーフになっていることが多い。しかし、この莫大な集中力と忍耐力を要する作品作りを見ていれば、物に繋がる思い出たちが制作の後押しをしているのだろうと感じられる。

2021年7月4日(日)まで、東京都・神田の「3331 ARTS CYD」の「205a: ex-chamber museum」にて作品を展示中(木・金曜14:00〜18:00、土・日曜12:00〜18:00開廊)。紙でできた「パナソニックのラジオ」を間近で観られるチャンスなので、興味がある人はぜひ足を運んでみてほしい。

文=西連寺くらら

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