なかなか人には言えない“尿もれ”の悩み。基本的には命に関わる病気ではないが、日常生活が送りにくくなったり、身近な人にも話しづらかったりと深刻な悩みを抱えている人も多いだろう。今回は長年、泌尿器のトラブルを治療してきた医師・高橋悟先生に、尿もれの種類や自分でできるセルフチェック方法などを教えてもらった。
※本記事は『全国から患者が集まる泌尿器科医の 頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方』(毎日が発見)から一部抜粋・編集しました。
あなたの「尿もれ」はどのタイプ?対策法もチェック
尿もれ(=医学用語でいうと尿失禁)にはさまざまなタイプがある。そして、高橋先生によると、自分の尿もれがどのタイプなのかは、セルフチェックである程度分かるのだそう。まずは画像のチャートを参考に、自分のタイプを探してみよう。※このチャートは目安です。正確な診断は医師の診察が必要です。
おなかに力が加わると、ちょこっともれてしまう「腹圧性尿失禁」
「腹圧性尿失禁」は女性に多いタイプで、ものを持った時や笑った時、せきやくしゃみをした瞬間など、おなかに力が加わった際に起こる尿もれのこと。もれる尿量はそれほど多くなく、いわゆる“ちょいもれ”といわれるタイプだ。
高橋先生によると、腹圧性尿失禁の原因は2つ。1つ目は、
「骨盤底筋群」という筋肉がゆるむこと。
骨盤底筋は男女ともに骨盤の底にあり、膀胱や直腸、子宮といった骨盤内にある臓器を下から支える役割をしている。膀胱や尿道も支えていて、おなかに力が加わったときにもこれらの位置を正しく保つことで、膀胱の出口と尿道を締めて尿もれを防いでいる。ところが、骨盤底筋がゆるんでいると膀胱や尿道が下がってしまい、尿道をうまく閉じることができなくなってしまう。そのため、尿がもれやすくなるのだ。
「骨盤底筋がゆるみやすい人は、出産した人、加齢によって筋力が低下した人、女性ホルモンの分泌低下がある人、便秘がちな人、肥満の人などがあげられます」(高橋先生)
2つ目の原因は、
加齢によって尿道を締める「尿道括約筋」が衰えてしまうこと。
尿道括約筋は、膀胱から尿道につながる入り口で尿道を囲む筋肉のことで、尿をためるときには収縮し、排尿時に弛緩するが、その力が弱くなってゆるみやすくなることで、尿もれしやすくなるのだそう。
高齢になると、骨盤底筋群の緩み・尿道括約筋の衰えという2つの原因が重なって腹圧性尿失禁を引き起こしているケースも多い。そうすると頻度も高くなり、日常生活への影響も大きくなる。「たまに起きる程度だから」と放置していると、徐々に回数が増えてしまう可能性もあるため、注意が必要だ。
がまんできない突然の尿意でもれてしまう「切迫性尿失禁」
突然、激しい尿意におそわれることを「尿意切迫感」という。膀胱に尿をためられないことで起こる尿意切迫感は、比較的重い症状のひとつで、繰り返し起こる場合は過活動膀胱の疑いが強くなる。
「トイレに行きたい!」と感じるのは、通常300ミリリットルほどが膀胱にたまった状態だが、過活動膀胱になると、そんなに尿をためられず、ちょっとたまっただけでも膀胱が収縮して尿を排出してしまおうとする。そのため激しい尿意におそわれるのだそう。
そして、尿意切迫感があり、トイレに向かうも間に合わずにもれてしまうのが「切迫性尿失禁」だ。“ちょいもれ”だった腹圧性尿失禁と違い、切迫性尿失禁はもれる量が多いのが特徴。いきなり「ジャー」と出てしまうので、本人のショックが大きく、不安や恐怖から外出を控えて引きこもってしまうケースも。
「基本的には、尿意切迫感が週1回以上ないと、過活動膀胱とは診断されません。しかし、尿意切迫感が週に1回未満の場合でも、切迫性尿失禁がある場合は過活動膀胱がある程度進んでいると考えられるので、早めに診察を受けることをおすすめします」(高橋先生)
尿意切迫感との違いは、“もれるかどうか”。急な尿意で、がまんできずにもれるのが「切迫性尿失禁」、急な尿意はあるが、なんとかトイレで排尿できるのが「尿意切迫感」と覚えておこう。
両方を持つ「混合性尿失禁」
切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の両方を持っている人を「混合性尿失禁」といい、特に閉経期を過ぎた50代以上の女性に増加する傾向がある。尿失禁がある女性が10人いたら、切迫性が2人、腹圧性が5人、混合性が3人という割合になるといわれている。
排尿障害を起こす病気が原因の「溢流性尿失禁」
尿意はないのにもれる、または尿意はあるのに出せないけれど、下着にチョロチョロと尿もれするのが「溢流性(いつりゅうせい)尿失禁」。
健康な膀胱は排尿によってほぼ空になるが、排尿がうまくできないと膀胱が空にならず、膀胱に残尿が多くなる。すると短時間で膀胱が尿でいっぱいになり、限界を超えた量が少しずつ溢れ出てしまう。少しずつではあるが持続的にもれるため、結果的に大量になり、不快感や下着の汚れ、匂いが気になることも。
溢流性尿失禁には、普段から尿意がはっきりしない、残尿感がある、尿が出にくく勢いがない、おなかに力を入れないと排尿できないなどの特徴がある。排尿がうまくできない場合でも、無理に尿を出し切ろうと力むと膀胱や尿道にさらなる負担をかけてしまうので、注意が必要。症状を改善するには、泌尿器科を受診しよう。