WEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.41その2をお届けします。その1は→https://news.walkerplus.com/article/106889/
★映画「花戦さ」
原作の鬼塚 忠著「花戦さ」(角川文庫刊)を、現在放送中の大河ドラマ「おんな城主 直虎」を手がける森下佳子が脚本、篠原哲雄の監督で映画化。華道の世界が初めて映画に登場し、主演の野村萬斎をはじめ豪華メンバーが揃い踏みで、安土桃山文化を味わえる痛快時代劇エンタテインメントに仕立て上げた。
「花をいけた」という記録から今年で555年を迎える、華道家元の池坊。その初代・専好が1594年、秀吉を迎えた前田利家の屋敷で松を使った巨大な“大砂物”を立て、称賛されたという記録を基にした物語だ。
今日、様々な流派がある華道界。池坊がいけばなの根源であり、戦国の世に人々の安寧を願って花をいけた花僧たちに始まったという、華道の真髄を知ることができる作品。また、2015年、初の女性家元に指名されている次期家元が、専好(四代)を襲名。映画の主人公と同じ「専好」を襲名したのは281年ぶりとなる。脈々と続く日本文化の歴史に畏敬の念を覚える。
【物語】
戦国の世。京都・頂法寺六角堂の花僧で、松を得意とする立花の名手・専好は、織田信長の前で花をいけ、千利休らの心をつかむ。が、思わぬ失態で、あわや打ち首!?その場を軽妙な機転で救ったのは、豊臣秀吉だった。10数年後。専好と利休は無二の友として互いの道を高め合うが、天下人となった秀吉は利休を自害に追い込み、専好を慕う町衆の命も次々と奪われていく。専好は刀ならぬ花を手に、前田利家の屋敷で一世一代の“戦さ”に臨む…。
【見どころ】
まずはキャスティングだ。専好に狂言師・野村萬斎、秀吉に歌舞伎俳優・市川猿之助、信長に中井貴一、利家に佐々木蔵之介、利休に佐藤浩市。この錚々たるメンバー!時代劇に文句なし、物語に重厚感と深みをもたらす。中井の信長は序盤だけの出演で、え~、もう終わり?とツッコみたいが、さすがの存在感。贅沢です。蔵之介も完璧。ちなみにほかの出演者では、専好の先輩花僧役の山内圭哉。ちょっと出だが、関西出身の上にもともと坊主頭で、最適キャラ。専好の友人役・高橋克実の温かさ、フレッシュな森川 葵にも注目したい。
ほのぼのとした町衆の味わいと、スリリングな展開。物語のおもしろさは、花僧からの視点で捉える歴史ものであること。私たちがすでによく知る秀吉の背景を側面からアプローチしていて新鮮。
そして圧巻なのは、花!まさに巨大アートないけばなのすごさ、美しさ。映画のもう一つの主役だ。200瓶以上も登場するという立花はまた、その姿で、専好の心情をも映し出す。恐るべし、華道。
さらにこの映画、日本文化を知るには最適だ。池坊の華道はもちろん、表千家・裏千家の協力による茶道、劇中の書や絵画も見逃せない。
【野村萬斎の会見より】
記者会見で「坊主から、やっと毛がのびた」と笑っていた萬斎。開口一番「初めて関西弁をしゃべる、京都の人を演じる冒険作でした」と言う。え?そう?そう言えば…と意外な感じだが、映画を見ても関西弁にまったく違和感がない。さすが、です。いけばなも練習したそう。劇中で萬斎が光明真言や観音経を唱えるシーンには、安倍晴明役で呪文を唱えていた姿を思い出した。やはり、いい。
作品については「主役級の人が何人もいるキャスティングで、お花の美しさと人情と、チャンバラではない戦さを描いています。崇高で重厚でありつつ、ひょうひょうとした役を演じさせていただきました。泣き笑いのある作品です。試写を見て、高橋克実さんと、いい出来でよかったね、と話していたんですよ」。
萬斎の代表作がまたひとつ増えた。日本映画の歴史に残る映画も増えた。
演劇ライター・はーこ