動物看護師としての経験を基にした漫画「もふもふ看護師」。動物を相手にする大変さや飼い主とのやりとりなど、知られざる動物病院の実態が働く側の目線で描かれている。獣医師を支える動物看護師の仕事とは?作者の中村ありすさん(@alicetti1214)に話を聞いた。
大学を卒業してから2年間、動物看護師として働いていた中村さん。「子供のころから動物が好きで、小学生の時はセキセイインコ、小学生から17年間は犬を実家で飼っていました。そのころから『動物関係の仕事に就きたい』と考えていました」と、動物看護師になった理由を教えてくれた。
※動物に関するエピソードはあくまで作者の体験、感想です。すべてのケースにあてはまるわけではありません。
その仕事内容は、「受付、会計、問診、獣医師のサポート、備品管理、調薬、手術準備、検査、院内清掃などです。動物病院の体制や規模によりますが、私が勤めていた病院では診察や運営以外の業務は動物看護師が行っていました」と多岐にわたるそう。
動物看護師になるには、国家資格など特別な資格は不要。「しかし、即戦力を求められる傾向があるため、動物の扱い方、獣医師のサポート方法、検査方法、調薬方法など、動物病院で動物看護師が行う仕事内容を学ぶ必要があります」とのこと。
動物看護師のリアルを伝えるために描き始めた漫画
「もふもふ看護師」を描こうと思ったのは、実際に働いてみて、動物看護師=獣医のサポートだけ、のように仕事内容が勘違いされがちだと思ったのがきっかけだという。「どんな仕事なのか、少しでもリアルな話を知ってもらえたらと思って描き始めました。そして、動物病院は獣医師だけではなく動物看護師の存在も大切であると理解してもらい、効率よく診察が行えるように飼い主さんに『ちょっと協力しようかな』と考えてもらうきっかけになればと思っています」と話す。
動物看護師になったからこそ、わかったことも。「動物は言葉がしゃべれないということの大変さを痛感しました。そして、動物にとっての飼い主さんの重要性も改めて感じましたが、実際には動物の飼育を軽く考えている人が多いのも同時に感じました。動物が幸せに過ごすためには、動物は飼い主がいないとすぐ死んでしまうこと、しっかりと責任を持って飼育することの重大さを、もっと多くの人に知ってもらう必要があると強く思うようになりました」
読者からは、「本当にこれそう!」「人間の病院でも同じ!」など、共感の声が多かったそう。「『本当にこんなことがあるのか…』と動物病院について詳しく知らない層からは驚きの声が上がっていました。また、『自分も気を付けよう』と考えるきっかけになったという声もあり、いいきっかけをもたらせたのかなと思いました」
動物を大切にしない飼い主に腹が立つことも
動物看護師として接した中でも特に印象的なのは、あるネコの飼い主だという。「今後描こうと思っていた内容なのですが、裁縫用の針をネコが誤飲したと緊急で来院した飼い主さんです。内視鏡では取り除くのが難しく、自然排出も危険なため、開腹手術しか選択肢がないと獣医師が説明していました。しかし、手術料の高さから、飼い主が手術をかなり渋ったのです。緊急性を伴うのに。結局手術をすることになりましたが、家族ともいえる大切な存在にそんな扱いをする飼い主がいることにかなり強い衝撃を受けました。しかし、現実には他にもお金を渋って、手術を嫌がる飼い主は多かったです。動物を飼うと決めた時にお金がかかることを理解していなかったのかと、その都度腹が立っていました」
動物の中で印象的だったのは、柴犬だそう。「動物看護師として働く前は、飼い主に従順で落ち着いた犬種だと思っていました。その一途さのためか、病院に来て飼い主が目の前からいなくなると、豹変して警戒心をむき出しにする子が結構いました。ほとんどの柴犬が当てはまり、飼い主“だけ”に従順過ぎたため、私にとって柴犬は可愛いイメージより面倒・怖いイメージが強くなってしまいました」
また、自分の飼っている動物と患者とはやはり違うそう。「働いているときは、犬を一匹飼っていました。自分の家の子なら表情を見るだけで感情が分かるのですが、患者として来た子とは一緒にいる時間が短く、お互いの理解が乏しいため、何を考えているか分からず怖がらせたり、困惑させてしまったりしてしまった経験があります」
現在は「もふもふ看護師」は更新できていないが、需要があれば積極的に描いていきたいと意気込む。「先ほどの誤飲のエピソードや、飼い主さんとのほっこりエピソードなど、多くの方に知ってもらいたい話がまだまだあります。また、少し笑える夫婦のエッセイなんかも描けたらなと思っています」と今後の展望について語る。
最後に、「もふもふ看護師はあくまでも一例ですが、『今後、動物病院を利用する可能性があるすべての人』と『これから動物看護師を目指す人』にぜひ見てほしい内容だと思っています。また、自分の話だけではなく他の動物看護師の話も聞けたらなと思うので、機会があれば取材をして、私が漫画を描いて発表することもできたらと思っています」と話してくれた。
取材・文=上田芽依(エフィール)