20世紀が誇る天才画家も、デッサンが下手だった!?若き日のジュアン・ミロを描いた漫画に反響

東京ウォーカー(全国版)

後世に名を残すほどの画家は、多くの人から見れば「天才」に映るもの。けれど、そうした画家も創作の「壁」にぶち当たってきた。スペインの画家にまつわる青年期のエピソードを描いた漫画が反響を呼んでいる。

20世紀を代表する画家も、学生時代はデッサンが下手だった!?ジュアン・ミロの美術学校時代を描いたエピソードにSNSで反響作:三浦よし木 / 愛知県美術館


あの巨匠もデッサンが下手だった!?若き日の天才を開花させた指導法とは

愛知県美術館の公式Twitter( @apmoa )が投稿し、2400件を超えるいいねを集めている漫画が、『Miró & Galí~ガリ美術学校時代のジュアン・ミロ~』。ピカソやダリと並び、20世紀のスペインを代表する芸術家、ジュアン・ミロの若かりし頃を描いたエピソードだ。

「Miró & Galí~ガリ美術学校時代のジュアン・ミロ~」3作:三浦よし木 / 愛知県美術館

青年期、バルセロナのガリ美術学校で研鑽を積んでいたミロ。静物画のデッサンもさぞ卓抜した出来――と思いきや、当時のミロは形の取り方や立体感の表現もままならず壁にぶち当たっていた。小さい頃から絵を描くのが好きで「自分は画家になる」と信じていただけに、理想と現実の狭間に苦しめられるミロ。そんな彼に転機を与えたのが、美術学校のガリ先生だった。

「Miró & Galí~ガリ美術学校時代のジュアン・ミロ~」6作:三浦よし木 / 愛知県美術館

ガリ先生はミロに目隠しをほどこし、彼の手に何かを載せる。視界がふさがれたミロは、自分が何を持っているの知ろうと必死に腕の中にあるものを触って確かめようとする。そんなミロに、ガリ先生は「今のを描きなさい」と告げる。視覚にこだわっていたミロに対し、触覚で得たものを頼りに描こうというのだ。

「Miró & Galí~ガリ美術学校時代のジュアン・ミロ~」9作:三浦よし木 / 愛知県美術館

常識的なやり方とは違う形を指導するガリ先生の言葉に困惑しながらも、先ほど触れた時の記憶をもとに描き始めたミロ。出来上がった絵は、一見でたらめに線を引いた、描いた本人でさえ何だか分からないようなものだったが、その一方でミロは「僕が触ったものはこれでした」と、その絵に確かな手触りを感じるのだった。

めくるめくミロ芸術の世界へ誘う、ミロの原点

本作は、愛知県美術館で開催中のジュアン・ミロの回顧展「ミロ展──日本を夢みて」に際し、漫画家の三浦よし木が、若干の創作を交え描いたミロの実話だ。

「Miró & Galí~ガリ美術学校時代のジュアン・ミロ~」15作:三浦よし木 / 愛知県美術館

SNSで公開され反響を集めたことを受け、ウォーカープラスでは、本作の監修を行い、ミロ展を担当する愛知県美術館の学芸員、副田一穂さんに話を聞いた。

――ジュアン・ミロの若かりし頃を描いた漫画が話題です。この作品はどういった経緯で企画されたのでしょうか?

「ミロ展のウェブサイト制作の際、『子供や子連れ世帯といった若い層にうまく訴求するウェブサイトを』と依頼したところ、ウェブディレクターから『作家の印象的なエピソードを漫画化してはどうか』という提案があり、実現に至りました。漫画自体が広く拡散してほしかったので、ウェブサイトに誘導して読んでいただくのではなく、SNSで全ページ読める形式にしました」

ミロの若き日の実話をもとにしたエピソードとのことですが、このエピソードを選んだ理由を教えてください。

「現在開催中の展覧会『ミロ展──日本を夢みて』は、ミロの生涯を辿りながら日本との関係にフォーカスする内容ですが、そのテーマにとどまらず私から7つほどアイデアを、ディレクターと漫画家にお出しして、絵にした時に映えるか、物語に展開できるか、という観点から三者で協議して選びました。

決め手になったのは、このエピソードがミロのその後のキャリアの方向性を決定づけるような印象的な内容だったこと、ミロの性格や人柄が滲み出た話だったこと、そしてのちの日本への関心とも通底する部分があったことです」

「Miró & Galí~ガリ美術学校時代のジュアン・ミロ~」14作:三浦よし木 / 愛知県美術館


三浦よし木先生に漫画をお願いしたのはどういった経緯からだったのでしょうか?

「これもウェブディレクターからの提案でしたが、以前愛知県美術館で実施した別のプロジェクトでもご一緒した実績があり、登場人物の心理を独特の間合いで表現することに長けた漫画家さんだったので、今回のような内容にマッチすると考えました」

今回の漫画にはTwitter上で反響が集まっています。本作からミロ、そしてミロ展を知ったという人に注目してほしい、おすすめの作品や展示はありますか?

「この漫画に描かれているガリ美術学校で、ミロはアンリク・クリストフル・リカルやジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガスといった生涯の友人を得ました。リカルは浮世絵をコレクションしたり俳句や漢詩をカタルーニャ語に翻訳したりしていた日本通で、アルティガスは日本のやきものを研究し、民藝運動の柳宗悦や濱田庄司とも親しく交流した陶芸家です。

ですから、この学校はミロの描き方を変えただけでなく、のちにミロと日本とを繋ぐことになる友人関係が育まれた、とても大切な場所でした。そんな関係に注目しながら展覧会をご覧いただければ嬉しいです」

――最後に、『ミロ展──日本を夢みて』に興味を持った読者に向け、メッセージをお願いします。

「ジュアン・ミロがどんな芸術家だったのかご存知ない方には、絵画から彫刻、版画、やきものまで何にでも挑戦する多彩な作品で、その魅力に触れていただければと思います。また、ミロのことをある程度ご存知の方は、意外なほどに深い日本とのつながりに、きっとそのイメージがガラリと変わることうけあいです。ぜひ、会場でミロ芸術の面白さを堪能していただければ幸いです」

本作の他、ミロ展の公式サイトでは子供向けのジュニアガイドも公開されている。興味を持った人は、ぜひミロの作品世界を展覧会で体験してみてはいかがだろうか。

「ミロ展──日本を夢みて」公式サイトはこちら(外部サイト)

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取材協力:愛知県美術館

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