暗闇で光るセミがSNSで話題!「サイバーアブラゼミ」撮影裏話

東京ウォーカー(全国版)

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夏も終わりに近づいたある日、一枚のセミの写真にTwitterが沸いた。


ブラックライトを当てたセミが暗闇の中で妖しく光り、特撮映画に登場するキャラクターもかくやと思わせるカッコよさ。「夏休みの思い出に挑戦してみてください」のひと言は、虫好きのお子様はもちろん、短い夏休みを終えた(あるいは夏休みなどない)大人にもグッとくるアドバイスだ。

Twitterでは「カッコいいい!」「やってみたい」「ブラックライトが欲しくなった」など、さまざまなコメントが寄せられている。

この写真を撮影・投稿したのは眼遊( @ganyujapan )こと、生物写真家として活躍する森久拓也さん。特に魚類の標本写真を得意とし、図鑑やテレビ番組などに多くの画像を提供しているのだそう。また、今回の「サイバーアブラゼミ」のような「UV撮影」と呼ばれる撮影技法をテーマにした作品も数多く手がけている。

話題となった写真の撮影の様子や、ブラックライトで生き物を光らせるコツについて聞いてみた。

なぜセミがサイバーに?光らせるコツは?撮影者にインタビュー

――普段のセミの姿からは想像もできないサイバーな写真に驚きました。そもそも、なぜこんな風に光るのでしょう?

「被写体にブラックライト、つまり紫外線を当てて撮影することで浮かび上がる像は“蛍光”という現象によるものなんです。蛍光する性質を持つ物質は、吸収した光のエネルギーを再び光として放出し発光します。鉱物が有名ですが、実は生き物にも蛍光するものがいるんですよ」

――以前からブラックライト(紫外線)を当てて撮影する「UV撮影」に取り組んでいるそうですが、いつから、どんなきっかけで撮影するようになったのですか?

「撮影を始めたのは2018年からです。生き物が蛍光するということを知ったものの、どんな生き物がどのように蛍光するのか、当時はほとんど調べられていませんでした。撮影した写真のほとんどが”世界初”の蛍光記録になることや、わからないことを明らかにしていく面白さに惹かれましたね」

――「サイバーアブラゼミ」を撮影された時のことを教えていただけますか?

「セミを撮影したのも2018年頃です。当時は”生き物も蛍光する”ということを知ったばかりだったので、とにかく蛍光しそうな生き物を探していました。ふと目についたアブラゼミをよく観察すると、翅脈(昆虫のはねに見られる葉脈のような筋)がいかにも蛍光しそうな色をしていたので試してみたところ、とても面白い蛍光を示しました」

暗闇に浮かび上がる「サイバーアブラゼミ」にSNSが騒然(撮影:森久拓也)


――撮影中に苦労したことがあれば教えてください。

「蛍光は非常に弱い光なので、写真で撮影するには光量が少なすぎます。また、真っ暗な状態で撮影しなくてはならないため、ピントを合わせたり構図を決めたりすることが大変でしたね」

――たしかに、暗い場所で撮影するのはすごく難しそうです。

「今回のセミのような標本だとなんとか撮影できたのですが、生きた状態で撮影するのはほぼ不可能でした。でもどうしても撮りたかったので、強力な紫外線を照射出来る機材を自作して、今ではなんとか撮影できるようになりました。といっても、滅多に成功しないんですけどね。

写真の性質上、クールな色合いになるので、生きた状態で自由に構図を決められる場合は、イメージに合う構図になるよう工夫しています」

――「サイバーアブラゼミ」の写真の仕上がりについて、ご自身はどのように感じましたか?

「アブラゼミの写真は今見ると、紫の可視光も混ざっていて、点数をつけるとすれば85点くらいですね。あの後、Twitterのスレッドに他のセミの写真もアップしたのですが、僕の中で100点はニイニイゼミ。絵としての面白さはアブラゼミがダントツですが、ニイニイゼミは紫外線の質と強さが良かったんです」

森久さんが「100点の出来」と語るサイバーニイニイゼミ(撮影:森久拓也)


――セミ以外に、今までUV撮影した生物の中でとくにお気に入りがあれば教えてください。

「どれも思い入れがありますが、1番感動したのはイトヨリダイですね。これはずっと蛍光するだろうと思っていたのですが、紫外線を当てた時には眩しいほど光り輝いていました。写真だとどうしても適切な露出に合わせるため、本来の光の強さがお伝えできないのが残念です」

イトヨリダイは眩しいほどに蛍光する(撮影:森久拓也)

通常の光で撮影したイトヨリダイ。UV撮影との違いは一目瞭然(撮影:森久拓也)


――Twitterでの「夏休みの思い出に挑戦してみてください」との言葉に心惹かれました。ブラックライトはどんなものを選べばいいですか?他にも光らせるコツがあれば教えてください。

「ブラックライトはピーク光の波長が表記されています。セミを光らせるなら365ナノメートルのものがおすすめです。ブラックライトの質で全てが決まると言っても過言ではありません。

すでにお手元にある道具でより観察の精度を上げるとすれば、まずは自分の眼を暗闇に慣らすことですね。照明を消して、小さな灯りだけにしておき、目が暗闇に慣れた頃にブラックライトをセミに当ててみてください。ライトがセミに近いほど、当たる紫外線も強くなるので光りやすくなると思います」

――光らせる対象になるべく近づくのがコツなんですね。

「ただし、注意してほしいことがあります。絶対にブラックライトの発光部分を直視しないでください。目に悪い紫外線が出ていますが、見えないので眩しさや痛みは感じません。暗闇で瞳孔が開いている状態だと特に目に悪いです!」

――なるほど、気をつけます!セミ以外で光りやすい、挑戦しやすい生き物がいれば教えてください。

「最も簡単なのは植物ですね。緑色の葉に紫外線を当てると赤くなるので感動すると思います。コケなんかも綺麗です。動物ですと、陸の生物よりも海の生物の方が蛍光する生物が多いと思います。カニなどの甲殻類は青く光ります。特にイソギンチャクは光るものが多く、とても美しいですよ」

森久さんが初めてUV撮影に挑んだミドリイソギンチャク(撮影:森久拓也)

テナガエビ(撮影:森久拓也)

神秘的な光を放つアズチグモ(撮影:森久拓也)

タコクラゲの蛍光はとてもキュートな色合い(撮影:森久拓也)


――これからUV撮影で光らせてみたい生き物がいれば教えてください。

「撮ったことがない生物は全て撮りたいですが、中でも気になっているのはサンゴ礁に棲む魚ですね。水族館で見ると、蛍光しているようにみえる魚があるので、その色が蛍光によるものなのか確かめてみたいと思っています」

――今回Twitterで大きな反響があったことについてのご感想や、ご家族などまわりの反応をお聞かせください。

「私のメインテーマであるUV撮影に大きな反響があったことを心から喜んでいます。これまでごく一部の人にしか興味を持ってもらえず、UV撮影を始めて4年、これって実は面白くないのかな…と自信を無くしかけていた頃でした。家族の反応ですが、全く同じ日に甥っ子が”イカの赤ちゃん”を投稿してバズったので、僕の事は誰も気にしていない様子でした…」

――なんと、同じ日に!イカの赤ちゃんも気になります…。最後に、今後のご予定や挑戦したいことがあればお聞かせください。

「まだまだ作品数が足りないのでとても出せる状態ではありませんが、UV撮影の写真を集め、詳しい機材や撮影法を掲載した本を出せたらなと思っています。

蛍光は科学的な面白さに加えて、被写体自体がまさに光を放っている状態なので、写真としても面白いものだと考えています。これをきっかけに、UV撮影のムーブメントが起きたら嬉しいなと思っています」

身近な生き物の新たな姿を照らし出す「UV撮影」の世界。夏の終わりの思い出や自由研究に、ぜひ挑戦してみては。

取材・文=油井やすこ

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