クラゲもウミウシもガラス製!直径3センチのトンボ玉に閉じ込められた世界が神秘的

東京ウォーカー(全国版)

その大きさ約3センチ。指先にのる小さな玉の中でクラゲが優雅に泳いでいる。か細い触手は水の流れにのってゆらめいているようだが、実はこの玉はトンボ玉と呼ばれるガラス製品で、中にいるクラゲもガラスで表現されている。世界を切り取ってトンボ玉に閉じ込めたような神秘的な作品を発表しているのは、ガラス作家の増永元さん(@masunaga_gen)。Twitterで作品を発表すると、しばしば1万いいね以上を獲得しファンを増やしている。元はウミヘビの生態研究者だったという増永さんが、どうしてガラス作家として活動するようになったのか、どうやって作品を作り出しているのか話を聞いた。

「アカクラゲの海」。触手の一本一本まで美しく作られている画像提供=増永元


小さな生き物をトンボ玉で表現する技法は独学で確立

大学で非常勤研究員として、ウミヘビの生態研究に励んでいたという増永さん。

「当時国内でウミヘビ専門の生態研究者は他にいなかったのでとてもやりがいのある仕事だったんですが、咬まれたら命を落とす危険もあるし(一度咬まれました…汗)、なかなか常勤の研究職にも就けなくて将来への不安がありました。それで34歳の時にもう研究は十分楽しんだので終わりにして、次はアート関係でやっていきたいと思ったんです。学生時代から写真・絵画・陶芸・ガラス工芸など趣味でいろいろやっていて、自分には創作活動が向いてるんじゃないかと薄々思っていたので。その中でガラス作家を選んだのは、やっている人も少なめでガラスによる表現にまだまだ多くの可能性があると感じたからです」

増永さんがそもそもガラスアートに興味を持つようになったのは、2000年頃、小樽の観光スポットとしても有名な北一硝子を訪れたことによる。

「北一硝子に展示されていた、外国人作家のガラスでできたリアルなアメフラシの立体造形作品を見たことがきっかけで、ガラスアートに興味を持つようになりました。そこでは、トンボ玉も展示されていて、トンボ玉の技法であるバーナーの炎でガラスを溶かして成形する“バーナーワーク”も知ったのですが、その時はガラスで生き物のフィギュアを作りたいという思いが強すぎて、トンボ玉にはそれほど関心はなかったんです」

しかし、その後ガラスを溶かして遊ぶようになり、参考にしようと現代作家のトンボ玉がのっている本を見たことでトンボ玉への興味が俄然湧いたんだそう。

「想像以上にすごい作品がたくさんあって驚きました。それからすっかり、この小さな玉の魅力に取り憑かれています」

遊びでガラスをいじっていたという増永さんがガラス作家になると決めたのは2007年。トンボ玉の技法書やDVD、一度だけ参加したバーナーワークのイベントで一般的な手法は学んだということだが、驚異的なのは増永さんの作品のキモと言うべき、「小さな生き物をガラス玉の中で表現する」手法はまったくの独学というところだ。

「海藻の森」画像提供=増永元

「先にガラスフィギュアを作ってから、溶かした透明なガラスにフィギュアを封入する“インケース”という技法が海外ではよく使われていて、ガラスの生き物が入ったペーパーウェイト作品などが作られているのですが、この手法はトンボ玉のようにとても小さな作品には不向きでした。直径3センチほどのトンボ玉に入れる生き物は1センチ未満になってしまいます。その大きさのガラスフィギュアを作ることも、作れたとしてもその造形を崩さずに封入することもとても困難です。僕が目指す作品を作るためには、自分で別のやり方を考案するしかありませんでした。2007年に専用のエアバーナーを購入してガラス作家になると決めた時、絶対に1年以内にリアルなクラゲ、ウミウシ、キノコをトンボ玉の中に作り込むと目標を絞りました」

その目標通り、1年で自身の作風基礎となる作品が出来上がった。

「それで2008年からガラス作家として活動を始めることができて、その後も少しずつ表現の幅を広げていきました。1年というと意外と短期間でできたと思うかもしれませんが、僕の人生の中であの時ほど一つのことを考え続けたことはないっていうほど大変な1年でした」

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