自主映画にも関わらず異例のヒットを記録した「SR サイタマノラッパー」シリーズを手掛けた入江悠監督。その後も「日々ロック」(2014)や「ジョーカー・ゲーム」(2015)など精力的に多くの作品を手掛けている。最新作「22年目の告白－私が殺人犯です－」(公開中)は、実力派俳優・藤原竜也と伊藤英明を迎えた意欲作。入江監督は本作について、今の日本だからこそやるべき作品だと語った。
ストーリーは「はじめまして、私が殺人犯です」突然人々の前に現れた殺人犯、曾根崎雅人（藤原竜也）。かつて5人の命を奪った彼は、時効を迎え、自らの意思でメディアに登場する。真相を綴った殺人の告白本を出版するなど世間を挑発し、22年間事件を追い続けてきた刑事・牧村航（伊藤英明）も曾根崎に翻弄されていく。そして、日本中を巻き込んだ曾根崎の計画にはまだ続きがあった…というもの。殺人犯・曾根崎を藤原竜也、事件を追い続けてきた刑事・牧村を伊藤英明が演じ、実力派俳優による共演が実現した。
元になった映画は2013年に日本でも公開された映画「殺人の告白」。入江監督はシナリオの面白さに惚れ、脚本の段階から参加することを決める。それと同時に、今の日本でこの作品をつくる意味を見出したと話す。
「今の日本の世相や社会的風土を入れると、もっと面白くなると思いました。出版、テレビなどメディアやSNSなどを利用した内容なら、原作と大きく異なるので日本でつくる意味があるんじゃないかと感じました」
殺人犯の曾根崎は、記者会見や告白本のサイン会を行い、度々メディアに登場する。国民は、曾根崎の行動の善悪がわからないままメディアに踊らされ、カリスマと崇めていく。作中のTVカメラやスマホなどで多角的に撮影された映像を見ていると、観客もメディアに踊らされているように感じる。
「今は事件が起きるとすぐに撮影ができて、情報が正しいと判断せずに拡散されていく。メディアによって崇められていく、ある種のダークヒーローをシニカルに描きたいと思いました」
物語が進むにつれ、大きな展開を迎え、最後には驚愕な事実が。入念な時間をかけ作り上げたシナリオについて入江監督は満足の様子で、全てを知った上でもう一度見ても面白いと、リピート鑑賞を勧める。
「ミステリーは観客との知恵比べ。観客に考えてもらい、その先の驚きを用意する。そこの駆け引きには苦労しました。観客が腑に落ちて満足するミステリーを、今の日本映画では避けてきたような気がします。ハリウッド映画の上質なミステリーのような作り方を意識しました」
主演の藤原と伊藤は初共演。俳優としての実力を高く評価していた入江監督は、役作りに関して特にディレクションをしなかったと明かし、現場での2人の演技を見て安心したと話す。
「2人とも経験値や勘があるので、役の軸からぶれることがなかった。役柄上、秘密がある部分をどこまで観客に見せるのかは、3人で相談してやっていました。2人とも俳優としての実力があるので、2人になったときのオーラーが2倍どころか5倍以上になって、監督としてはプレッシャーを感じていました（笑）」
物語のきっかけにもなる連続殺人事件が起きる1995年を、入江監督は当時起きた阪神淡路大震災と絡めて描いた。1995年は阪神淡路大震災の他に、地下鉄サリン事件など激動の年だといえる。1995年を描く際に入江監督は、ある方法で撮影することを決める。
「1995年のシーンだけ16mmフィルムで撮影しています。フィルムはコストがかかるけれど、現在のシーンとの対比ができるのでいいんじゃないかって。よく観るとわかりますが、現在のシーンと1995年シーンは画角が違うんですよね。意図的に補正しないでそのまま使いましたが、夢中で観ていると気づかないかもしれません」
一方、曾根崎が登場する2017年では大規模なシーンが多い。告白本のサイン会などは約1000人のエキストラが参加している。中盤の報道番組で曾根崎と牧村が対峙するシーンでは、テレビスタッフもすべて役者が演じている。
「エキストラの人も作品では顔が見えるのでリアリティをもってもらいたい。そう思って一人ずつ芝居をつけていました。報道番組のシーンでは撮影の半年前からプランをつくり、スタッフを演じる役者さんには報道番組に取材にいってもらうなど、リアリティある演技を追求してもらいました。そこは手を抜きたくなかったですね」
綿密に練られたストーリーとリアリティの追求。登場人物に感情移入をしているうちに、先の読めない展開にどっぷりはまっていく。映画「22年目の告白－私が殺人犯です－」は上質なミステリーとして楽しめる作品になったと、入江監督は自信に満ち溢れた表情で話してくれた。
【関西ウォーカー編集部/ライター山根 翼】
山根翼