俳優・向井理の祖母の半生をつづった「何日君再来」を映画化した、「いつまた、君と ~何日君再来~」が、6月24日より公開中だ。
本作は、向井が大学生のときに、祖母の手記をパソコンで打ち直し、家族や親戚と共に自費出版をして、卒寿を迎えた祖母へお祝いとしてプレゼントしたという原作を基に、向井自身が7年前から映画化を熱望し、企画にも携わった意欲作。戦中・戦後の激動の時代を、夫・吾郎(向井の祖父)と妻・朋子が、数々の苦難を抱えながらも、誇りを失わず懸命に誠実に生きる、壮大な“愛の実話”だ。
公開に先立ち、キャンペーンで福岡を訪れた主演の尾野真千子、向井理に単独インタビュー。夫婦役としては初共演となる二人に、作品に対する思いなどを聞いた。
――おばあさまの手記が原作ということですが、映画化したいと思ったきっかけは?
向井理(以下、向井):大学の時に手記を自費出版したときは特に考えなかったのですが、今の仕事に就いて、事務所に入った時から映画化の事は漠然と考えていました。いろいろな作品と出合っていく中で、身近にあるものが映画化された時にいい影響を及ぼすんじゃないかと、徐々にその思いが強くなっていきました。
――今回の作品が向井さんの企画と聞いて、どのように思われましたか?
尾野真千子(以下、尾野):5年前に一度共演させてもらってから、すごく信頼があったので、(向井さんの企画は)必ず面白いと思ったし、必ずいいものができるんだろうなと思いました。向井くんだから安心してお芝居ができるだろうと、すぐにお引き受けしました。
――今回演じた役柄について、どんな思いがありますか?
向井:祖父だからという思いは特になくて、今までと変わらず、台本から感じることをそのまま表現できればと思って演じました。男からすると「もう少しうまくやれば生活が楽だったのでは」と反面教師なところもありますが、自分の理想だったり、信念を貫くこと、そして、それを支えてくれる人がそばにいることや子供たちが健全に育っていく様は、すごくうらやましいと思いました。
尾野:(演じた)朋子さんは「憧れの人」。もちろん、時代ということもありますが、現代を生きる自分では、きっとこんな風に相手を支えたり、いつも笑顔でいたりすることは難しいだろうなと思いました。親の世代と重なるところもあって、ただ憧れるばかりです。
――激動の時代の中で絆を深めていく朋子と吾郎夫婦。現代では忘れがちな想いを感じましたが、いかがですか?
向井:時代が違うと価値観も変わり、夫婦や家族の在り方も変わってくると思うので、吾郎と朋子のような在り方であるべきというのは一概には言えませんが、ただ、戦後の大変な時期を乗り越えてがんばってきた人たちが、自分の先祖にいたということを知っていてほしいという思いはありますね。
――「大人のラブストーリー」としても見応えのある本作。丁寧に想いを重ね合う夫婦の姿は素敵でしたね。
向井:当時の古き良き夫婦のしっとりした感じで、直接的な言葉がないというのが、僕はすごく好きで。「結婚してよかったよ」という言葉だけで伝わったり、それはきっと夫婦が経験してきたことがあるから、その一言の重みがあるのだろうなと思いました。(多くを語らない)日本男児のかっこよさが僕は好きでした。
尾野:日本男児!かっこいい!
向井:そういう人だからこそ、ついて行きたいと思うんじゃないかな。いくら(この時代の)女性が強いといっても、女性だけががんばってもしょうがなくて、ついていきたいと思われる男性でないとダメだったんですよね。旦那さんがちゃんと“憧れられる男性”でいないと。
尾野:日本男児って言われると、ついていきたくなりますね。そういうの好きです。
向井:かっこよさそうな気がするよね(笑)
――そんなかっこいい吾郎が、いじめられている息子を叱った後やりきれずに家を飛び出すシーンは、明るく支え合ってきた夫婦にとっての、初めての葛藤が見えて印象的でした。
向井:あのシーンは吾郎さんぽくないと思っていたんです。ああいうことをしない人だと思ってずっと演じていたので。(家族に)八つ当たりしているのがわかるから、実はあのシーンはスムーズに出来なかったんですよ。
尾野:確かに少しやりづらそうだったよね(笑)。
向井:わかってた?でも、それが逆にリアルだったのかな。(吾朗の)そういう部分は、よくも悪くも人間なんだなと思います。
――最後に、この作品を通して伝えたいことは?
尾野:時代背景や夫婦の絆、家族の愛情など、一番大切なものが「普通の暮らし」だからこそ見えてくると思うんですよね。この時代というものを、ちゃんと今の人たちに見てもらって感じてもらうことが、今を生きる自分たちにとって必要な気がしています。だからこそ、自分たちが生かされているということを感じてほしいです。
向井:僕の場合は、祖父母がいて、大変な時代を生き抜いてがんばって子供たちを育ててくれたからこそ、母がいるわけで、それで自分が生まれたんですよね。たった三代ですけど、そういう風に受け継がれバトンをつないで生きてきたのだと、この映画を通して実感しました。すごく大事に命をつないできてくれた人たちがいるから今の自分がいると知ることで、ありがたいという気持ちはもちろんですが、人生の幅が広がるような思いがあります。そんな風に一歩振り返ってみることも、大事なのかなと思いますね。戦中・戦後という時代を映画で「記憶」として残したいので、とても意義があると感じています。
親から子、子から孫へ受け継がれる愛の物語。普通の暮らしを生きた人々の姿が、現代の私たちに、温かく大切なメッセージを伝えてくれる作品となっている。【九州ウォーカー編集部/冷川絵美】
冷川絵美