「東京で仮住まいを見つけよう。」をコンセプトに、東京都内に1209棟、約1万6000部屋のシェアアパートを展開する「TOKYO<β>」。シェアアパートとは居住者用の風呂、トイレなどが共用となっている個室タイプの住居でシェアハウスと異なり、リビングやダイニングなどの共用部がないのが特徴だ。
そんなTOKYO<β>は若者の「夢」を住居と金銭の面で応援しており、主に東京に上京する20〜30代や外国人留学生などに人気沸騰中だ。今回は、このシェアアパートの取り組みやビジネス戦略について、株式会社三好不動産(以下、三好不動産)取締役の笠清太さんにインタビューを行った。
TOKYO<β>が提供するのは「仮住まい」
三好不動産がTOKYO<β>の事業を開始したのは2022年3月。今年3月で事業開始1年を迎え、現在でも入居者数は上昇中。運営する物件の大部分はすでに入居済みという人気ぶりだ。そんなTOKYO<β>の運営をすることになった背景には、2018年に起こった「かぼちゃの馬車事件」があった。
「かぼちゃの馬車」とは、株式会社スマートデイズによる、オーナーが所有するアパートを一括でサブリース会社に預け、入居者に転貸するサブリース事業という業態で展開していた女性専用シェアハウスのブランド名。株式会社スマートデイズは不動産投資家に対して家賃収入を保証していたが、融資先の銀行と結託して不正を行い、結果的に会社が経営破綻したことで家賃収入が払えなくなってしまった。
「私たちは、かぼちゃの馬車を住宅インフラとして再生させるという米国の投資ファンドの思いに賛同し、ファンドと業務提携を行って事業再生に取り組むことになりました。その際、物件のリブランディングをするために『TOKYO<β>』と改称しました」
TOKYO<β>の名前の由来はソフトウエアのテスト版を表す「β版」で、東京で夢を追いかける若者や外国人にとっての「仮住まい」という意味が込められている。三好不動産が若者や外国人にターゲットをフォーカスするのには、彼らのような東京にやってくる人たちを、住居や金銭の面で応援したいという思いがあった。
「上京の際にネックになってしまうのが、部屋を借りる際の初期費用と継続的に支払う家賃です。入居時には前家賃や敷金・礼金などを準備する必要があり、とても高額になってしまいます。そこで、TOKYO<β>のサービスでは『スーツケースひとつで、気軽に引っ越しができる』をコンセプトに据え、若者が気楽に上京できる仕組みを作りました」
支持される理由は圧倒的な「安さ」と「便利さ」
TOKYO<β>が若年層に人気の理由は、なんといっても家賃の安さ。東京都内で家賃が3〜7万円と周辺相場より格安に設定されており、なかには共益費や光熱費を合わせて4万円台前半という物件も。そして、どの物件もキッチンや洗濯機といった共同設備、テレビや冷蔵庫などの個室設備が充実しているのもポイントだ。
「入居者が経済的な負担を最小限に抑えられるというのが最大の利点ですね。また、当社では若年層への訴求のため、40歳以下という入居の年齢制限を設けております。そのため、入居者の割合は20代が60%、30代が40%になっています。また、職業の内訳は学生よりも社会人が多く、リモートワークで複数拠点を持つ人にも利用されています」
また、全体の利用者のうち外国人は3〜4割。2020〜2022年ごろはコロナ禍によって外国人入居者は減少していたそうだが、ここ最近では以前の状態を取り戻しつつある。そのため、言語ごとに対応したり注意書きを用意したりなど、文化間の軋轢が生じないようにさまざまな対策を行っている。
支持される理由はほかにも。選んだ物件と相性が合わなかったり、ほかの場所に引っ越したいと思ったりしたとき、1209棟の物件から気軽に住み替えが可能。ほとんどの物件が東京都内にあるだけでなく、駅や都心部にアクセスのよい地区にあることが多いので、どこを選んでも住みやすいのが特徴だ。
実際に住んでいる入居者からは「ほかと比べて圧倒的に安い」「初期費用もランニングコストも安い」という声が多く上がっている。今後、三好不動産はTOKYO<β>ブランドを確立していくために、サービスの標準化や効率化を図り「どこの物件に入っても同じ水準で、快適に過ごせる部屋」を目指していくという。
夢や目標を応援するプロジェクトも始動
TOKYO<β>ブランドに入居する若者は「夢」や「目標」を抱いていることが多く、三好不動産が入居者600人弱に行ったアンケートでは、『あなたが実現したい夢はなんですか?』という質問に対して42%の人が『起業家、経営者など』と回答している。
三好不動産は夢を抱く若者を応援すべく「Z世代の『夢』応援プロジェクト」を開始。その第1弾として登場したのが、デジタルマンガ「WEBTOON」の制作に集中できるWEBTOONクリエイター専門シェアアパート「TOKYO<β> MANGA-SO」だ。
国内最大手のWEBTOONスタジオ「Studio No.9」と協業し、編集者によるデビュー前からの編集サポートを受けながら、制作に最適な環境で住みながら仕事ができるというもの。そして1年間の家賃が作品印税収入の5%による出世払いというのも大きな魅力だ。
そして、Z世代の「夢」応援プロジェクト第2弾では、数々の起業家を輩出してきた「NPO法人ETIC.」のMAKERS UNIVERSITYとコラボを行い『TOKYO<β>奨学金』を設立。起業したいZ世代の学生にむけて、空室を1カ月無償で提供するというプロジェクトを開始予定だ。TOKYO<β>の物件を有効活用することで、夢の実現を応援していくのが目的だという。
「今後もZ世代の『夢』応援プロジェクトを続けていき、たくさんの若者が夢をかなえられるシェアアパートを目指していきます。同時に、東京に来る人へのPRを充実させて若者支援や入居者支援などを積極的に行っていきます」
東京一極集中が問題視されるなか、地方からの上京は年々難しくなっていく一方だ。そのなかでTOKYO<β>は若者や外国人を応援するブランドになるべく、今日も夢を追いかける人たちを受け入れている。今後、もしかするとTOKYO<β>から有名人や著名人が輩出されるかもしれない。これからのサービス展開が楽しみだ。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・ユーザーの「夢」をかなえることはビジネスチャンスになる
・「安い」「便利」には付加価値をつけると強みが増す
取材・文=越前与