タザキの投資本案内「ウォール街のモメンタムウォーカー」/インデックスを上回る?超シンプルなモメンタム投資術とは

東京ウォーカー(全国版)

こんにちは。YouTubeチャンネル「聞いてわかる投資本要約チャンネル」を運営している、二児の父でサラリーマン投資家のタザキ( @tazaki_youtube )と申します。

学生時代に株の魅力を知って以来、投資本好きが高じて自分の学びをYouTubeで発信したところ、想像以上の反響を呼び、3年間でチャンネル登録者が10万人を超えました。これまでに読んだ投資・マネー系の本は300冊以上。その経験から、ここでは特におすすめの書籍や、コスパの高い書籍を、経験値や投資スタイル別で紹介していきます。

今回ご紹介するのは 「ウォール街のモメンタムウォーカー」 (著:ゲイリー・アントナッチ /パンローリング)です。この本はモメンタム投資における名著と言えます。後半部分では、S&P500インデックスを上回る成績を出した「デュアルモメンタム」という投資法もご紹介しています。

ウォール街のモメンタムウォーカーパンローリング


モメンタムとは何か

「モメンタム」は最上位のアノマリーとされ、信頼性を持つ唯一のアノマリーとも言われています。そもそもアノマリーとは何だったかというと、理論的には説明が難しいものの、経験的に観測できる市場の規則性のことを指します。その中で、モメンタムは「良好な状態が継続する」、もしくは「悪い状態がさらに悪化する」というパフォーマンスの継続性を指します。

これを シンプルに言えば、順張りの考え方とも解釈できます。日本では逆張りを好む人が多く、下落中の銘柄を買おうとする投資家も少なくありません。しかし、モメンタム投資は逆のアプローチを取ります。つまり、現在価格が上昇しているからこそ、さらに上昇する可能性があると考え、それに投資します。

伝説的な投資家、ウィリアム・オニールのモットー「強いものを買い、弱いものを売る」は、モメンタムの考え方をそのまま持ってきたような考え方であるということが本書でも言われておりました。

このモメンタムというのは、結局のところテクニカル分析の一種ではあるのですが、その結論は非常にシンプルな考え方に至ります。それ故に、ファンダメンタルズ分析派の人々も知っておくべきだと考えます。

ディスポジション効果

なぜモメンタムが働くのかという理由には諸説ありますが、その1つに「ディスポジション効果」があります。これは、投資家は利益を確保したがるために勝ちトレードを早く手仕舞い過ぎ、損失を取り戻すために負けトレードには長くしがみつく傾向があることを言います。

これは、ニュースを過小評価することにつながると指摘します。つまり、よい材料が出ると、早まった売りにより、適正価格にまで上昇するのを遅らせます。逆に悪い材料が出ても、簡単に売りたがらないため、すぐには下落しません。その結果、基本的価値に向かって、トレンドを継続するのです。

絶対モメンタムと相対モメンタム

次に、「絶対モメンタム」と「相対モメンタム」について説明します。

絶対モメンタムとは、資産自体の過去と現在を比較し、未来を予測する方法です。過去を振り返る期間としては、12カ月のルックバック期間が最も有効だと言われています。つまり、 特定の資産を時系列で見て、過去12カ月間の動きが上昇していれば買い、下降していれば売りと判断する、というシンプルな考え方です。この動きは資産自体のものであるため、絶対的な動きを見ていることから「絶対モメンタム」と呼ばれます。

それに対して、 相対モメンタムとは、他の資産と比較して相対的に上昇している銘柄を買い、相対的に下降している銘柄を売るという方法です。

例えば、S&P500に連動する株式インデックスファンドを、他の株式インデックスファンドと比較します。同じ株式インデックスでも、米国の方が上昇していれば、米国の株式インデックスファンドを買います。このように、相対的に上昇している銘柄を買うというのが相対モメンタムの考え方です。

多くの投資家が一般的に使うのは「相対モメンタム」だと言われていますが、本書では、結果的に「絶対モメンタム」の方が効果的であると述べられています。

そして、S&P500への非常にシンプルな絶対モメンタムの適用方法はこのようなものです。株式市場が過去1年にわたって上昇しているならば、株式への投資を続ける。逆に、1年前よりも株式市場が下がっているならば、株式を一旦売却し、安全な短期債へと資金を移す。たったのこれだけです。とてもシンプルですね。

この12カ月のルックバック基準を持つことにより、一時的な下落が発生したとしても、その後のより大きな下落を避けることが可能になります。

2種のモメンタムの長所を組み合わせた『デュアルモメンタム』とは

「絶対モメンタム」と「相対モメンタム」の2つをそれぞれ単体で使用する必要はなく、これらを組み合わせた「デュアルモメンタム投資」が、この本の中心的な概念です。

デュアルモメンタム投資は、絶対モメンタムと相対モメンタムのそれぞれの得意分野と弱点を補完した投資戦略であり、「GEM(グローバルエクイティモメンタム)」として紹介されています。 これも非常にシンプルな方法です。

図1 グローバルエクイティモメンタムとは


まずは、米国株と非米国株のインデックスを比較し、パフォーマンスが高い方を選びます。これは相対モメンタムの原理を使用しています。次に、選択された方とTビル(米国短期国債)を比較し、パフォーマンスが高い方を選びます。これは絶対モメンタムの原理を利用しています。これらの手法を組み合わせることで、「デュアルモメンタム」戦略が生まれます。デュアルモメンタムを採用した場合の、年次リターン、リスク(標準偏差)、シャープレシオ、最大ドローダウンのパフォーマンスは次のようになります。

各投資手法のパフォーマンス比較(1974年~2013年)


年次リターン、年次シャープレシオ、最大ドローダウンの項目において、最もよい成績を残しました。年次標準偏差(リスク)は振れ幅の大きさを示しますが、ACWI+AGG(ACWIが70%、アグリゲートボンドが30%)のポートフォリオにわずかに劣る第2位です。よってリスクに対してどれだけリターンを見込むことができるかを示す指標であるシャープレシオではダントツです。

そして、この1974年から2013年10月までのバックテストの結果に基づくと、「グローバルエクイティモメンタム」のポートフォリオ内での保有期間の比率は次のようになりました。S&P500が41%、ACWI非米国株が29%、そしてアグリゲートボンド(短期債)が30%となっています。

毎回銘柄を入れ替えるとなると、手数料がかかるのではないかと思われるかもしれません。また、初めから分散投資を行い、無闇に銘柄を入れ替えない方が、手数料の面で有利ではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、このテストの結果によれば、銘柄の入れ替え回数は年平均1.35回にすぎず、これはほぼ無視できる手数料水準だと言えます。

この モメンタム投資とは、行動経済学に基づいた心理バイアスが作り出すもので、これらのバイアスは人間の心理として簡単には変わるものではないため、たとえこの投資法が広く知られるようになったとしても、その効果が失われることはありません。

もし多くの人が突如としてモメンタム投資に目覚め、全員が熱心なモメンタム投資家になったとしても、その効果が消え去ることはないと書かれています。

まとめ

モメンタム投資の考え方自体が比較的新しいため、『ウォール街のランダムウォーカー』のようなロングセラーの名著が存在するわけではないのですが、モメンタム投資に関してはこの本が非常に素晴らしいと思いました。

専門的な内容が多く、モメンタム投資だけでなく、投資全般の幅広い歴史や現代ポートフォリオ理論、スマートベータなど、多様なトピックが網羅されていて、大変学びになります。

インデックスファンドを積み立てる投資家だとしても、絶対モメンタムの概念を利用すれば、追加で一括投資を行う場合などのタイミングの参考になると思います。

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