ローソンに行ったことがある人なら、一度は「からあげクン」を目にしたことがあるだろう。通常のからあげとは一線を画す独特の味わいを持ち、ひと口サイズで手軽に楽しめるのが魅力だ。
そんなからあげクンは、シリーズ累計42億食を売り上げる大ヒット商品で、味も「レギュラー」や「レッド」などの定番から、季節限定やエリア限定の商品まで多岐にわたる。それにしても、その豊富なラインナップを生み出す開発のプロセスは、どのようになっているのだろうか。
そこで今回は、ローソンを運営する株式会社ローソンFF・日配食品部シニアマーチャンダイザーの吉岡亜希子さんに、からあげクンの商品づくりにおけるこだわりや工夫、そして開発の裏側について聞いた。
「鶏むね肉をおいしく」をコンセプトに誕生
からあげクンが誕生したのは、1986年4月15日のこと。当時、鶏むね肉は「パサパサとしてあまりおいしくない」という印象を持つ人が多く、主に鶏もも肉が好まれていた。そんななか、株式会社ローソンは鶏むね肉のイメージを変えるため、「鶏むね肉をおいしく楽しめるように」というコンセプトのもとからあげクンを開発した。
「コンビニ向けに販売する商品なので“手軽さ”を最優先に考え、通常のからあげと異なり、おかずではなくひと口サイズのパーティフードやスナックとして楽しめるようにしました。また、パッケージは持ち運びやすく、車内のドリンクホルダーに収まる形状にしました。一方で、店舗から『商品の箱の組み立てが面倒』というフィードバックがあったため、簡単に組み立てられ、スタンドなしでも自立する箱を開発し、作業効率を向上させました」
からあげクンが誕生して40年近く経ったが、売り上げは順調に伸び続け、2023年12月の時点でシリーズ累計42億食となる大ヒット商品に成長した。また、長年の人気の理由について、吉岡さんは「コンビニの主な顧客層である30~40代の人たちにとっては子どものころからある慣れ親しんだ商品なので、昔からずっと購入してくださっているのではないかと考えています」と話す。
“チョコ味”はボツに…知られざる開発の裏側
ローソンに行くと、レジ前にはからあげクンの「レギュラー」や「レッド」といった定番の味から、季節限定やエリア限定の商品まで、さまざまな種類が陳列されている。そして2023年12月現在で、発売された味の種類は368種類にものぼるのだとか。ここ数年は、大体毎月2種類の新商品が発売されているそうだが、これらのアイデアの源泉とは?
「味の採用基準としては、日本全国に店舗があることやお子様にも支持していただいているのを考慮して、“わかりやすい味づくり”を心掛けています。私個人としては、もう少し攻めた味を作りたいなと思っていたりするんですが…(笑)。ちなみに、かつて『からあげクン チョコ味』をバレンタイン企画で開発したことがありましたが、ボツになっちゃいました。通常より少し黒っぽい見た目でしたが、味はちゃんとチョコだったんですよ」
また、味の開発にあたって吉岡さんはスーパーをくまなく見て回るそうで、「鍋のもと」をはじめ、調味料からアイデアを得ることが多いという。「ほかにも、『シラチャーソース』など、日本ではあまりなじみのない調味料もチェックしたり、お菓子売り場や輸入雑貨店などをよく見ますね」と吉岡さん。ここで出たアイデアをもとに開発が進んでいくそうだが、ここから発売までのプロセスはどのようになっているのか。
「毎週、企画会議を実施しています。主な議題については、今後販売する味やそのコンセプト、プレゼンで通らなかった商品の改良案を考えるなど、長いときには1回で6時間くらい話し合っていることもあります。また、企画会議では新商品が5〜6つ並び、それぞれ5〜6つの味の候補が出てくるので、毎回30個くらいは試食していますね。そこから発売が決定して、工場から店頭への流通前にも品質チェックのために試食します」
目指すは「国民食」!「からあげクンミュージアム」の創設を夢見て
株式会社ローソンは、からあげクンの発売当時から一貫して「5個入」と「ひと口サイズ」という仕様を守り続けている。同時に、消費者の味覚の変化に合わせ、定番商品の味わいは徐々に変えているとのこと。
「お肉をジューシーにしたり、安全性を重視して鶏肉を海外産から国産に変更するなどの取り組みを進めてきました。また、これまでの商品開発は鶏の旨味と柔らかさを引き出すことに焦点を当てていましたが、これに加え、今後は塩分量の見直しをはじめ、健康への配慮をさらに強化していく予定です」
そして、来る誕生40周年に向けて、株式会社ローソンが目指すのは「国民食」。今では大人だけでなく、子どもにもからあげクンファンは多く、同社宛にファンレターを書いたり、なかには自由研究のテーマにする小学生もいるのだとか。さらに吉岡さんは、すでに国民食に近づきつつあるからあげクンの今後について語ってくれた。
「社内で話していて一番盛り上がるのは、『最終的にはからあげクンミュージアムを作りたいよね』という議題なんです。正直、夢みたいな話ではあるんですが、それくらいの人気商品にしていきたいと常々考えています。歴代のからあげクンをずらっと並べてみたいですね!」
今日のからあげクンがあるのは、株式会社ローソンがより高い品質の商品を提供するべく、たゆまぬ企業努力を行ってきたからこそだろう。これからも40年、50年と続いて、親から子へ、そしてさらにその下の世代へと、世代を超えて愛され続ける商品であってほしい。
取材・文=西脇章太(にげば企画)