夫の不実を知り、狂っていく妻・ミホとの夫婦生活を描いた島尾敏雄の私小説「死の棘(とげ)」。共に小説家となる2人の著書を原作に、彼らの出会いと恋を映画化したのが「海辺の生と死」だ。太平洋戦争末期の奄美群島・カゲロウ島(加計呂麻(かけろま)島がモデル)で、特攻艇の出撃命令を待つ男・朔(さく)中尉と、島の国民学校の教員・トエとの命をかけた恋が、匂い立つような加計呂麻島の姿と共に描かれる。
13年に公開の「夏の終り」でプロデューサーとして満島と出会った越川道夫監督が長く大切にしてきた作品で、”これは満島さんの役”と伝えていた。その願いどおり映画化が実現、奄美大島にルーツを持つ満島ひかりがヒロインのトエを演じ、4年ぶりの単独主演作となった。
【原作を読んで】
祖母たちから聞いていた昔話が色濃く描かれていたり、なじみのある土地のかつてのことがおとぎ話のようで愛おしかった。もう、この時代を知っている方々がだんだんいなくなっていて。奄美に昔から伝わる秘密めいた話も語られる機会がないですし…。でも映画という形でかかわれば、奄美の美しいものとか恐ろしいものを、描けるんじゃないかと思って。もうこんな日本映画が作られるのは最後かもしれないという覚悟で飛び込みました。
【島唄について】
朝崎郁恵さん(“クジラの唄声”と言われる)から、手をつないで口伝えで教えていただきました。朝崎さんは、ほんとに古い島唄のあり方で、ホーミーみたいな骨伝導のような発音をされます。私はあの音はまだ出せないんですけれど、覚えるのは早かったです。朝崎さんから「奄美大島にはね、奪われた歴史ばかりで、形あるものを残せなかったの。だからね、残せなかったものがみんな、唄と音と染めの中に入っているのよ」と教えていただきました。島の人たちが集まって宴を開く場面があるのですが、すごく素敵でした。クランクイン前に、“花富”という朝崎さんの育った集落で祭りの日があって行って踊っていたら、おばあさんたちがわぁって立ち上がって「いい踊り、いい踊り」って拍手してくれて(笑)。小さいころ、踊りの上手だった祖母から教わっていたので。みんなで一緒に踊って、楽しかったな。
【撮影を振り返って】
故郷での撮影は、自分自身に戻る時間でした。島にいると勝手に戻っていくんです。毎日海の音を聞きながら、空を見たら流れ星なんか15個くらいは見て。子どものころはそういう生活をしていたことを思い出しました。故郷に戻って、心から好きなものと過ごせた時間は、とても幸せでした。この映画の撮影の後に、明智小五郎役と黒柳徹子さん役と続いたんですけど(笑)。自分自身のルーツからもらったパワーを感じながら演じていました。たくさんの人に出会って、いろんな作品でお芝居をするのはわからないことだらけですけど、私はみんなから見て、星空や静かな波の音やそういうものから伝わるものと似た感情を映すスクリーンのような役回りでいたいです。故郷でまた、たっぷりと充電した感じがありました。この作品をやってよかったと思います。
高橋晴代