2004年、とあるCMが社会現象となるほどに話題になった。それが調味料メーカー・キユーピー株式会社「キユーピー あえるパスタソース たらこ」のCMソング、『たらこ・たらこ・たらこ』だ。キユーピーのキャラクター「たらこキユーピー」が行進する印象的なCMを覚えている人も多いだろう。
このCMが放送されるや否やたらこキユーピーの人気が大爆発し、“キモかわいい”と話題になった。そして、「♪た~らこ~、た~らこ~、たっぷりた〜らこ〜」のフレーズが印象的なこの曲。2006年にはフルバージョンのCDが発売され、オリコンのシングルチャートで初登場2位を記録するなど、CMの歴史に残る快挙を果たした。
第1弾の放送から20年が経過した今でも人気のこのCMとたらこキユーピーは、一体どのように生まれたのだろうか。今回は、キユーピー あえるパスタソースシリーズの開発背景、CMとキャラクターの制作秘話などについて、キユーピー 家庭用本部 調理食品部 調理食品チームの渡辺智子さんにインタビューを行った。
目指したのは「日本人好み」のパスタソース
『たらこ・たらこ・たらこ』が世に出る2年前の2002年、キユーピーは当時のパスタソース市場に勝負をかけるべく、とある商品を発売した。それが「キユーピー あえるパスタソース」シリーズだ。これは温めずに、ゆでたパスタにあえるだけの簡単・便利なソースで、発売当初は「たらこ」「ツナマヨネーズ」「鮭マヨネーズ」の3種類のみだった。
当時は1980〜1990年ごろに起こった「イタ飯ブーム」の一方で、日本独自のスパゲッティが広く浸透し、たらこパスタや納豆、ネギなどを使った和風スパゲッティがレストランを中心に提供されはじめていた。キユーピーはこの流れを受けて、日本人向けのパスタソースの開発を開始した。
「弊社は、海外の食文化を日本人向けにローカライズするのがとても得意なのです。1959年に日本初となる家庭用のミートソースを発売して以降、日本人が好むミートソースを追求し続けてきています。これと同じように、日本人に好まれる食材を活かし、かつ弊社のマヨネーズの技術などを応用してできたのが、これらのパスタソースでした」
発売した3種類のソースのなかでも、「たらこ」の開発には非常に苦労したという。特に、レストランで提供されるようなたらこスパゲッティの味を再現するうえで、材料であるたらことバターの配合バランスが非常に難しかったのだとか。日本人は魚卵を食べる一方で、パスタと合わせた時にたらこの生臭さが苦手という人も多かったそう。生臭さを抑えながらもたらこの自然な風味を際立たせることも大事だったそうだ。
たくさんの試行錯誤のうえに出来上がったパスタソースは、たらこを中心に大ヒット。特に、まろやかな味わいとたらこのつぶつぶ感が子どもたちにも受け入れられ、親子を中心にシェアを広げていった。発売開始より22年経過したあえるパスタソース。キユーピーは商品の改良を現在でも続けているだけでなく、令和の時代でも愛される新商品の開発にも積極的だ。
社内から"かわいくない"との声も?たらこキユーピー誕生秘話
あえるパスタソースが人気になったのには、日本人の好みに合わせた味付けが好評だったことに加え、2004年に放送された「♪た~らこ~、た~らこ~、たっぷりた〜らこ〜」でおなじみのCMと、キユーピーのキャラクター「たらこキユーピー」が大反響を呼んだことがきっかけだった。このCMを作った背景には「今まで以上に商品のプロモーションをしていきたい」という狙いがあったという。
「『たらこは見方によっては気持ち悪いけど、そのたらこにキユーピーの顔を入れたらいいんじゃない?』という発想から、不気味さとかわいさのギリギリの、斬新な見た目のキャラクターが出来上がりました」
当時、社内でもこのキャラクターが生み出されるに至っては賛否両論あったのだとか。CMを放送してみると、大量のたらこキユーピーが画面に向かって行進してくる絵面と、短調の印象的な曲が視聴者にインパクトを与えて大ヒット。翌年の2005年には、前年比200%の売り上げ増加という結果につながった。
また、曲の歌詞にも人気の理由が。「♪た~らこ~、た~らこ~、たっぷりた〜らこ〜」という簡単なフレーズが脳裏に染み付き、子どもを中心に歌うようになっていった。その結果、CMが流れていないところでも歌われることで拡散されていくように。そうして多くの人の記憶に浸透し、商品の認知を大きく高めることとなった。
そして、2006年にはフルバージョンのCDが発売され、オリコンのシングルチャートで初登場2位や、日本レコード大賞特別賞受賞といった、普通のCMソングではありえない結果を残すことに。キャラクターの人気も上昇し、クレーンゲームの景品やストラップなどにもなった。
「CMのおかげで売り上げも知名度も大きく伸長させることができました。たらこキユーピーやCMソングなくして今の市場シェアや売り上げは決してなかったと思います。放送当時に曲を聴いて運動会や文化祭で踊っていたお子さんたちが親になり、今ではお子さんと一緒にたらこを食べているという方も多いです。母から子へと続くコンテンツであることは、ブランドとして大きな資産だと思います」
20種類のレパートリーを展開!今後の展望とは?
2024年現在のあえるパスタソースのフレーバーラインナップは全部で20種類。元祖の「たらこ」「ツナマヨ」をはじめ、定番の「ミートソース」「カルボナーラ」、そして「和風とりそぼろ」「だし香る納豆」などの変わり種も。
「レパートリーを増やしている理由は、ファミリーや単身、ご年配の方など、幅広く使っていただきたいという狙いがあるからです。また、今後はイタリアだけでなく、アメリカやアジア圏など多様な地域で食べられている各国のパスタを日本人向けにアレンジする、といったことにチャレンジするのもおもしろいかもしれません」
また、味や中身だけでなくパッケージも時代に合わせて進化をしていて、今年はSDGsの観点におけるCO2削減を目指して、パッケージのプラスチック量を30%削減、できるだけ紙化して地球環境に優しい取り組みをしている。渡辺さんは「これからも、今以上に環境に配慮した商品に進化させていきたいです」と話す。
あえるパスタソースが発売されて22年。そして、たらこキユーピーが誕生して20年。以降はどのようにブランド展開を図っていくのだろうか。
「ロングセラーの宿命として、来年に飽きられないようにすることが大事だと思っています。弊社にはマヨネーズという誕生100周年を迎える大先輩がいるので、これを見習っていかにブランドを新鮮な形で保っていくかを考えていきます。また、あえるパスタソースはパスタ以外の料理にも使うことができます。これからはさまざまなメニューやアレンジに使えることを訴求していきたいですね!」
「ここまで来れたのは消費者のみなさまのおかげ。今後も期待に応えながら、パスタを楽しめる新しい提案をしていきたい」と渡辺さん。日本人好みのパスタソースを開発し、印象的な歌詞とルックスのCMで人気を博し、現在も進化を続けているあえるパスタソース。これらの発展に期待しつつ、今後もテレビCMで「♪た~らこ~」の曲を聴き続けたい。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・海外のものを日本人好みにすることも商品開発のコツ
・ブランドをイメージするキャラクターは商品価値を高める
・CMの印象はブランド価値を大きく伸長させる
取材・文=越前与