“若者の日本酒離れ”を覆した「ワンカップ大関」の戦略とは?発売60周年を迎える現在の立ち位置

東京ウォーカー(全国版)

コンビニやスーパーのお酒コーナーでよく見かける「上撰 金冠 ワンカップ(R)」。一般的に「ワンカップ大関」と呼ばれているこの商品が誕生したのは、今からちょうど60年前。

今でこそシニア向けというイメージがあるお酒だが、開発当時は日本酒離れが目立っていた若者向けに作られたのだという。

今回は、ワンカップ大関の開発秘話や現在の飲まれ方について、大関株式会社(以下、大関) 営業推進部次長の小寺健司さんに話を聞いた。

発売当初のワンカップ大関。「若者の日本酒離れ」への施策とは?


「若者の日本酒離れ」を回避するために作られたワンカップ大関

ワンカップ大関が誕生したのは1964年。このころは日本酒といえば一升瓶や量り売りが主流で、瓶からお猪口やコップに注いで飲むスタイルが一般的だった。しかし、当時の若者はこのような日本酒の飲み方を“おじさん臭い”と感じていたようで、結果として日本酒離れが進んでしまっている状態だった。

「若者が日本酒を飲まなくなっていることを危惧して、弊社では『いつでもどこでも飲める』をコンセプトにしたコップのお酒を開発することになりました。そして、当時の日本酒の売り方にはなかった手軽さや気軽さという特徴を前面に出し、若者をターゲットにして発売しました」

青字に白抜きの英字ロゴを採用したり、透明なガラスカップを使い中身が見えるようにしたりと、若者でも手に取りやすいデザイン設計を行ったという。そして、東京オリンピックに合わせて発売されたこともあり、アウトドアや行楽などをイメージしたプロモーションを行い、“持ち運びしやすいお酒”であることをアピールした。

1969年〜1970年に発売されたワンカップ大関


発売当初は、ふたから中身があふれるというクレームがあったり、酒屋から「こんなのが売れるか」と突き返されたりと、売り上げはあまり好調ではなかったそう。しかし、ふたの改良や全国のキヨスクでの展開、酒類業界初の専用自動販売機の設置、そしてレジャーブームの到来などさまざまな要因が絡まり、徐々に売り上げを伸ばしていったのだとか。

「コップに日本酒を詰めて売る、というスタイルは当時でも革新的でした。旅行や観光、アウトドアなど、おでかけを楽しむことができるようになった時代だったので、その際に気軽に持って行けたのがヒットの要因ではないでしょうか。そして、容器自体もきれいに洗えばコップ代わりになりますし、さまざまな形で再利用していただけたのも、みなさまに受け入れられた理由だと思います」

ワンカップ大関の飲み方紹介リーフレット。レジャーをメインに取り上げている

ラベル裏面にカラー写真を印刷した「ワンカップフォト」。飲むだけでなく“見て楽しめるお酒”として人気を博した

駅などに置かれたワンカップ大関の自動販売機

初代・ワンカップ大関に採用された巻き締め方式キャップのスケッチ。漏れ出さないための密閉ふたの開発に苦労したそうだ


課題はメインユーザーの高齢化。今の若者向けの施策は?

発売より60年もの間、ワンカップ大関が多くの人々に飲まれ続けている理由には、持ち運べることやシンプルで印象的なデザイン以上に、“すっきりと飲み飽きないバランスの良い味わいの日本酒”という点がある。品質は発売当初から変わっておらず、長年のファンも納得する飲み心地のお酒を提供しているのが、同ブランドの大きなこだわりだ。

「ありがたいことに、発売当初から飲み続けてくださっている方も多くいらっしゃいます。現在の消費者は60代以上の方がメイン層になりますので、若いころにワンカップ大関を飲み始めた方が、そのままスライドしているという状態ですね」

一方で、ロングセラーならではの消費者の減少という課題も。メインユーザーが高齢化し、消費量が徐々に少なくなっている状態だという。大関はこの状況を打開すべく、ラベル裏面のデザインに新進気鋭のイラストレーターやキャンプ系のインフルエンサーを起用するなど、さまざまな施策を行っている。

「やはり、『若者のお酒離れ』とよく言われるように、若い方々がアルコール度数の高いお酒を飲まなくなっているのは事実だと感じています。また、『ワンカップ大関っておじさんが飲むお酒でしょ』といったイメージを持たれている方もいらっしゃると思います」

最近では、競馬ブームにあやかって競走馬が描かれたラベルを展開するといったコラボにも力を入れている。また、カップのデザインが「レトロでかわいい」といった声もあるようで、ワンカップ大関のロゴを使用したタオルやトートバッグといったコラボグッズも展開。小寺さんは「グッズなどをきっかけにまずは若者にブランド自体を知ってもらい、商品を手に取ってもらう機会を作っていきたいです」と話す。

キリー&アソシエイツ社「まちかど画廊」とのコラボグッズ「ワンカップトートバッグ」

キリー&アソシエイツ社「まちかど画廊」とのコラボグッズ「ワンカップハンカチタオルセット」


「消費者に寄り添い続けるお酒でありたい」

発売60周年を迎えたワンカップ大関は、「消費者の高齢化」という課題を乗り越えるためにさまざまな施策を行いながら、現在も多くのファンに手軽においしいお酒を飲む機会を提供している。日本全国のコンビニや酒屋、スーパーで販売されているため、どこにいても同じ品質の日本酒を楽しめることもポイントだ。

「全国各地にこのブランドを広めることができ、開発当時のコンセプトである『どこでも手軽に楽しめる日本酒』を体現できたと思っています。日本全国をカバーできている商品ですので、ふとしたときに片手にあるような、消費者のみなさまのそばに寄り添い続けられるお酒でありたいですね」

2024年現在のワンカップ大関


最後に、小寺さんに今後のブランドの展望を聞いた。

「発売よりほとんどスタイルを変えずに飲み続けられているお酒は、なかなかないと思います。現在はガラスコップで提供していますが、SDGsの観点から、もしかすると別の容器に変えないといけない日が来るかもしれません。ですが、そのような場面でも時代に合わせて柔軟に対応して、みなさまに変わらないおいしさを届けていけるよう、これからも頑張っていきます!」

現在のラベルの裏面にはマテウシュ・ウルバノヴィチさんの風景イラストが描かれている(C)Mateusz Urbanowicz

現在のワンカップ大関のキャップは、ESGの取り組みの一環としてバイオマスポリキャップを使用


発売より60年、多くの酒好きの五臓六腑に染み渡り続けてきたワンカップ大関。これからも、日本中いつでもどこでも楽しめる日本酒を届けてくれることだろう。

取材・文=越前与

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