誰にでもリスクがある「膝関節症」の最先端の治療法を聞いてみた!30~50代のデスクワーカーも要注意

東京ウォーカー(全国版)

健康を意識して生活していても加齢には抗えず、全身にあらゆる症状が出てくるもの。特に認知症や消化器系の臓器に関わる疾患は、早期の治療薬の開発が求められており、テレビや新聞でもたびたび大きく取り上げられている。

一方で、あまり深刻に捉えられていない疾患が「膝関節症」だ。“徐々に膝の痛みがひどくなっていく”という一見単純な症状だが、高齢者を中心に多くの人を悩ませている。

「膝関節症」は不可逆的な疾患で、一度発症すると元に戻ることはほとんどないのだとか。劇的な治療法は存在しないため、これまでは痛みを和らげる薬剤を服用したり、ヒアルロン酸注射をしたりするしか治療法がなかった。

そこに新たな治療方法を取り入れたのが、医療法人社団活寿会 ひざ関節症クリニック(以下、ひざ関節症クリニック)。今回は、「膝関節症」の発症メカニズムや最先端の治療法について、ひざ関節症クリニックの理事長であり、横浜院の医師である尾辻正樹さんに話を聞いた。

膝の痛みは「仕方ない」とあきらめてしまうことも多いのではないだろうか


「膝関節症」の推定患者は3000万人以上!?

「膝関節症」は、大腿骨と脛骨を結ぶ骨の表面にある軟骨と半月板が擦り切れて発症し、膝の痛みや膝の曲げにくさといった症状が現れる。おもに加齢とともに進行すると言われており、認知症と同様に、年齢が上がれば誰もが発症する可能性がある疾患だ。

「膝関節はほかの関節と異なり、動きが大きく負担がかかるため経年的に劣化しやすいのです。加えて、軟骨は血流がない組織で、傷ついても出血しないため、損傷しても修復が遅い。傷つけば傷つくほど軟骨と半月板の質は落ちていってしまいます」

国内の患者数は約3000万人と推定されているが、痛みの症状がないと受診もしないため、正確にはもっと多いと考えられている。診察に訪れるのは70代や80代が中心だが、中には40代でひどい痛みを訴える人もいるという。痛みの程度にはかなりの個人差があるようだ。

【画像】骨と骨の間の軟骨や半月板がすり減って発症する「変形性膝関節症」

レントゲンを見ると一目瞭然。骨と骨の隙間には差があり、進行すると徐々に狭くなる


「膝関節症」の受診から治療までの流れ

尾辻さんは、「膝関節症」の治療の流れを教えてくれた。膝が痛む人は参考にしてみてほしい。

膝の痛みを訴えて受診すると、診察後にレントゲン撮影が行われる。医師は痛みがどこから発生しているのかを診断し、「変形性膝関節症」という診断名を下す。痛みの程度に合わせて治療方法を検討したあと、痛み出してからの期間が短いようなら炎症止めの薬やシップ剤を処方する。

「薬剤の処方と並行して、リハビリテーションも行います。リハビリテーションには直接進行を遅らせる効果はありませんが、筋力アップや歩き方、関節の柔軟性の指導をすることにより、正しい身体の使い方を覚えてもらうことが目的なんです。治療とリハビリ、両方行うことが大切です」

そして、薬剤による治療でも改善が見られない場合には、ヒアルロン酸注射による治療が用いられる。ヒアルロン酸には潤滑油の役割があり、症状を緩和してくれるのだそう。それでも痛みが引かない場合にはステロイドを注射するが、尾辻さんによると「強い薬なので副作用も出やすいです。あまりたくさん打つことはできない」とのことで、注意が必要だ。

一定の効果が認められているヒアルロン酸注射


ここまでしても改善が見られない場合、「手術」という選択に。進行度によって手術内容は異なり、人工関節を取り付けたり、「骨切り術」という重心を変える術式を取り入れたりする。

手術にもいくつか種類があり、症状や進行度に応じて選択する


手術は金銭的にも体力的にも患者の負荷が大きいのでなるべく避けたいが、ここまで進行してしまうとほかに打つ手もなくなっているため、こうなる前に導入してほしいのが「再生医療」だと尾辻さんは語る。

注射をしない最新の治療方法とは?

ひざ関節症クリニックが再生医療を取り入れたのは、創設者である山川雅之さんが怪我をして整形外科を受診した体験がきっかけとなっているそう。診療時間前の早朝から訪れたにもかかわらず、診察が終わり病院を出たのは昼過ぎ。診察自体は短時間で終わったが、待機時間が非常に長かったという。

「膝を痛めた高齢の患者が長蛇の列を作り、ヒアルロン酸注射の順番待ちをしているところを見て、『一人ひとりを丁寧に診察する時間が足りないのではないか』と感じたそうです。さらに、ヒアルロン酸注射が漫然と使用されている状況にも違和感を覚え、このような状況を変えたいと、当院の創設に至りました」

全国15カ所、整形外科専門医は24名在籍している超特化型のクリニック


当時山川さんが従事していた美容クリニックでは、脂肪吸引や注入を行っており、肌の治療を行った際に想定する美容効果以上の肌質の改善が見られた。そこで、「この技術を整形外科分野にも応用できないか」と考えた山川さんは、「膝関節症」の薬剤や注射による治療と手術の間を繋ぐような、これまでにない治療方法を発案した。

「再生医療には2種類の方法があります。自己血液を使用した『PRP-FD法』と、皮下脂肪を使った『幹細胞治療』です。『PRP-FD法』は、採血を行い、血液中の血小板から成長因子を取り出して膝関節に注射するという方法で、自己治癒力を高めて炎症と痛みを抑える目的があります。『幹細胞治療』は、お腹から脂肪を採取して、脂肪の中にある幹細胞を取り出して培養し、膝関節に注射します。傷ついた組織に幹細胞が結合し、残った軟骨や骨に活性を与えて“質を高める”というものです」

再生医療には血液を用いた方法と脂肪を用いた方法があり、どちらも患者自身から採取する

治療後の膝の痛みをスコア化したグラフ。時間経過とともに痛みが緩和している

再生医療により、「膝関節症」の進行を遅らせることが可能に


この治療方法により、「膝関節症」の患者の半数以上が、6カ月ほどかけて痛みを軽減していったという。治療を受けた患者からは「自分の足でスポーツができ、日常生活を送れることがうれしい」という声が寄せられているそうだ。

また、再生医療の効果は軽度の段階のほうが得やすい傾向にある。そのため、早いタイミングから治療の一つとして考えることが重要だ。

さらなる進化が求められる再生医療分野

10年ほど前はまだ懐疑的な目があった再生医療だが、現在はデータが集積されて効果も確認できるようになった。そのことは医療者側でも認識が高まっており、学会では「再生医療分野」が確立。

「当院は全国に15カ所のクリニックがあるので、エビデンスを蓄積できます。その経験やデータを社会に実装していくことも目標の一つです。そして、今ある治療方法をより効果が出やすいかたちで提供できるようにブラッシュアップし、新しい治療方法の模索も行っています」

どの治療にもメリットとデメリットが存在することも知っておく必要がある


再生医療には注意点もあり、保険診療ではないので治療費が高額になる。しかし、ほかの治療法で行った際の将来的にかかる診療費や薬剤費、リハビリ費を考えると大差ないようだ。

また、「膝関節症」の患者の多くは70代や80代といった高齢者が多いと言われているが、デスクワークが中心となる30~50代の働く世代も他人事ではない。「膝関節症」になりやすい人の特徴について、尾辻さんはこう話す。

「長時間同じ姿勢で過ごしたあと動き出すときに膝が痛んだり、同じ姿勢でいるのがつらいと感じたりするなら、『膝関節症』の可能性があります。また、正座がしづらい・できないというのも見逃せないサインです。一度診察を受けるのがおすすめですが、ストレッチやトレーニングで緩和されることもあるので、気になる人は実践してみてください」

ひざ関節症クリニックでは全国で一般向けのセミナーを実施し、早い段階での治療を呼び掛けている

今後も、医師・患者双方への情報提供を続けていくそうだ


“人生100年時代”に突入した現代において、長い人生をいかに自分らしく過ごすかが重要だ。しかしそれには、健康であることが必須条件。誰もがリスクを抱える「膝関節症」について、早い段階から知っておき、予防することが今後の人生の豊かさにも関わってくるだろう。

取材・文=織田繭(にげば企画)

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