大ヒット公開中の「劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」。このたび、藤森雅也監督とキャラクターデザインを務めた新山恵美子さんによる第2回スタッフトークが開催され、作品への想いや制作秘話が次々と明かされた(※本記事は本編のネタバレを含みます)。
30年以上愛され続ける「忍たま乱太郎」、待望の新作映画
テレビアニメ放送開始以来、世代を超えて愛され続けている「忍たま乱太郎」。本作は、ファンの間で高い人気を誇る「小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師」の映像化作品。監督を務めるのは、初代キャラクターデザインを手がけ、2011年の前作「劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段」でも監督を務めた藤森雅也さん。脚本は原作者の阪口和久さんが担当し、アニメーション制作は亜細亜堂が手がけている。
さらに、高山みなみさん(乱太郎)、田中真弓さん(きり丸)、一龍斎貞友さん(しんべヱ)、関俊彦さん(土井半助)ら、おなじみの豪華キャスト陣が結集。まさに「最強」の布陣で臨み、普段の「忍たま」とはひと味違った、シリアスな展開を描く。
なぜ頭身アップ?TVアニメ版と違うキャラクターの魅力
初代のキャラクターデザイナーである藤森監督と、キャラクターデザインを引き継ぐ形で現在もその役を担っている新山さん。師弟関係とも言える二人のトークは、キャラクターの頭身についてから始まった。
本作では一年生以外のキャラクターたちの頭身をTVアニメより高くしているのが特徴。藤森監督は、「アクションシーンでは、シルエットを立たせやすいのと、座っている芝居でも低くカメラを置いたときに威厳があるように見えるのがよかった」と説明。新山さんも「格好よく描こうとすると(頭身が)伸びちゃいますよね」と同意。特にアクションシーンでは設定よりも頭身が伸びていることを明かした。
この頭身の変更がもたらした思わぬ効果として、藤森監督は「対比で、は組の生徒たちが(先生たちに比べ)小さくなるのでかわいくなるんです」と語った。新山さんも「きり丸が本当にかわいい」と絶賛し、藤森監督の絵コンテの段階からそのかわいさに惹かれたそう。
「もう少し鮮やかな血の色に…」“忍たま”らしからぬアクションシーン!
本作の見どころのひとつが、迫力のアクションシーン。冒頭の土井先生と諸泉尊奈門の戦いで、新山さんは出席簿の傷の描写にこだわり、「土井先生は出席簿で戦っているので、ボロボロになっていくんです。アクションに合わせて傷の量も増やしていかないといけないので、出席簿は(後半のシーン含め)全部やらせてもらいました」と語った。
天鬼VS六年生のアクションシーンについては、藤森監督が「ヒーローものみたいな出撃にしたい」と語り、「六年生なんだからできるやつらに決まってる。本作では彼らにも冷静で優秀な側面があるよ、と描かせてもらいました」と、新たな一面を引き出す工夫をしたことを明かした。さらに、普段の「忍たま」らしからぬシーンとしても話題になった傷について、新山さんは「血の形が都道府県の形に見えないかだけ気になってました」と笑いを誘った。血の色について藤森監督は、「最初はもう少し鮮やかな色も検討したんですが…」と語り、幅広い年齢層のお客さんへの配慮をし、現在の色に決定したという裏話も明かされた。
後半の見どころのひとつとなるのが、山田利吉と雑渡昆奈門の戦い。藤森監督は「雑渡の凄さを異次元のものとして見せたかった」と語り、通常の物理法則を超えた「雑渡ドリル」(新山さんが命名)という技の演出に挑戦。アクション作画監督の関根さんが見事に描写して、「よくあんな注文で描いてくれたなと感心しました」と苦労をねぎらった。
藤森監督が絶賛!新山恵美子の作画の魅力
イベントでは、藤森監督と新山さんがお互いの仕事のお気に入りポイントを紹介し合う場面もあった。本作で約770カットもの作画を手がけた新山さんの仕事の中から、藤森監督は次のシーンを挙げた。
まずひとつ目は、忍術学園を出発する土井先生の表情。本作ではキャラクターデザインを変更していることもあり、藤森監督は「こんなの土井先生じゃない」と言われることを心配していたという。しかし、新山さんの繊細な表情描写により、「いつもの優しい土井先生」が見事に表現されていたとのこと。新山さんは後の展開を意識しつつ、「今生の別れのように描いてはいけない」と表情の抑揚にも細心の注意を払ったそう。
続いて、潮江文次郎の「しょぼしょぼな顔」を取り上げ、藤森監督は「『言いたくねーんだよ俺も』という感じの表情がいいよね。100点満点のカットです」と大絶賛。新山さんは「2日くらい悩んで描いたカット」と明かし、「コンテから(表情芝居の大切さは)伝わってきたので、一人ずつの感情を大切にして描けました」と振り返った。
藤森監督の演出が光る3つの名場面
続いて、新山さんが藤森監督の演出センスに感銘を受けたシーンも紹介された。ひとつ目は、雑渡昆奈門と諸泉尊奈門の授業シーンで、藤森監督の大胆なカット割りに驚いたそう。藤森監督は「授業のシーンなんだけど、サスペンスのように作ろうと思って。斜めの構図とか広角とかを使って緊張感を出しました」と説明し、新山さんは「どういう発想なんだろうなとすごくハラハラしました」と心情を明かした。
続いて紹介されたのは土井先生の記憶が戻るシーン。は組の生徒たちが画面を駆け抜けるワイプシーンで、その中できり丸だけが色を落として真顔で描かれているという緻密な演出。「土井先生の目線から山田先生の家、忍術学園との出会い、六年生が一年生だったころ、そしては組に出会って、きり丸との生活が始まって…という流れがあると思うんですが、は組が通り過ぎるワイプだけが早くて、知っているのに目で追えないんですよ」と原画を披露すると、会場からも大きな拍手が送られた。
最後に紹介された稗田八方斎を顎の下から写した斬新なアングルのカットは、「八方斎って鷲鼻じゃないですか。(下から)煽ると鷲鼻ってどうなるんだろう」と前代未聞の挑戦として話題に。「こういう美しくも難しいシーンは、アニメーター藤森雅也ではないと描けないカットだった」と絶賛した。
イベントの締めくくりに、新山さんは「体調の不安が吹き飛ぶくらいにめちゃくちゃ刺激的な仕事をさせてもらいました」と、作品への想いを語った。藤森監督も「皆、大喜びでいろんな想いを込めて、作画だけでなく制作も自分の立場を忘れてギリギリまで粘って最後まで熱心に取り組んでくれました」と、スタッフの熱意を称えた。
「劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」は、スタッフの情熱と技術が詰まった渾身の一作。普段のテレビアニメとは一味違う、シリアスな展開と迫力のアクションシーン、そしてキャラクターたちの新たな一面を楽しめる作品となっている。ぜひ、大スクリーンで本作を楽しんでみてはいかがだろう。
「劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」概要
原作:「落第忍者乱太郎」尼子騒兵衛(朝日新聞出版刊)
テレビアニメシリーズ「忍たま乱太郎」
「小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師」
(原作・イラスト:尼子騒兵衛/小説:阪口和久/朝日新聞出版刊)
出演:高山みなみ 田中真弓 一龍斎貞友 関俊彦
大塚明夫 岡野浩介 間宮康弘 森久保祥太郎 代永翼
成田剣 保志総一朗 渋谷茂 神奈延年 置鮎龍太郎 鈴木千尋
小田敏充 金丸淳一 山崎たくみ 東龍一
スペシャルゲスト:大西流星 藤原丈一郎
監督:藤森雅也
脚本:阪口和久
音楽:馬飼野康二
主題歌:「ありがとう心から」/ テーマ曲:「勇気100%」 なにわ男子(ストームレーベルズ)
キャラクターデザイン:新山恵美子
副監督:根岸宏樹
アクション作画監督:関根昌之
美術監督:川口正明(アトリエローク 07)
撮影監督:林コージロー(グラフィニカ)
色彩設計:村田恵里子(グラフィニカ)
編集:坂本雅紀(森田編集室)
音響監督:大熊昭
音響効果:庄司雅弘
音響制作:AUDIO PLANNING U
アニメーション制作:亜細亜堂
配給:松竹
製作:劇場版忍たま乱太郎製作委員会
(C)尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会